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ペーター編

44話 気まずい馬車

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「――……そういう言い方すると、じゃあ自分除隊します、ってヤケになっちまうから、もうちょっと親身に話を聞いてやった方がいい。ああ。」

ゼイツ准将じゅんしょうがアホンで通話している。
私たちは塔へ帰る箱馬車はこばしゃの中、はす向かいに座りあっていた。

「――あもしもし? そりゃ会議は一時間前にはログインするだろ。五分前とかあめー事言ってんじゃ……ヒ・マ じゃねえよ」

通話相手にからかわれてムキになっている横顔を盗み見る。

会議の前、彼は私とお茶しようとしてくれてたのだ。同じケーキが二つあったから。
だから部屋を出て行こうとしなかったのに、私は失礼な事をたくさん言い、彼を追い出してしまった……。

当然のごとく、会議が終わってもゼイツ准将は戻ってこなくて。
飛空艇から馬車に乗り換える際は、一言会話を交わしただけ。それから目も合わない。
私は落ち着かなかった。

「誰だ? …………あのな、俺はお問い合わせ窓口じゃねえぞ。切るからな」

准将がアホンをしまい、窓の外へ目をやる。ひっきりなしにかけていた通話が終わったようなので、私は勇気を出して笑いかけた。

「ふふ、いたずら電話ですか?」
「…………。別に?」

う、冷たい。やっぱり怒ってる。

『ゼイツ准将にされるくらいなら死んだ方がマシだもん!!』

あんな風に言ってしまったのは

『そんなんでどーすんだよ? また俺に泣きつくのか?』

って言われたからなのに。
内心うんざりされていたことが分かって、ショックで言い返してしまっただけなのに。
だけど……、

私は彼の足元を盗み見た。ブラックのタクティカルパンツを履いた脚を組んでいる。

……こんな病気、うんざりされたって当たり前だよ。
私のアソコが変なのも私の責任だし、()
ゼイツ准将は何も悪くないんだ。

「あの……ごめんなさい」

ガタガタガタッと車輪の音が私の声をかき消し、
准将が迷惑そうにふりむいた。

「何か言ったか」
「ご、ごめんなさい」

頭をさげ上目に顔色をうかがうと、彼はさらに眉をひそめて外を向いた。

「気まずいからとりあえず謝っとこうって感じだな」

「……そんなことないです……悪かったと思いまして」

「なにが。唐突にごめんなさいなんつわれても、こっちは話についていけてねえぞ」

きつい……。
でもたしかに、ごめんなさいって言えば許してもらえると甘えてたかもしれない。

「……ゼイツ准将に…………ス、スススされるくらいなら……って……言っちゃったのは、あの、その、本心じゃ、ないです」

「本心じゃねーからまたしろってか?」 

間髪かんぱついれずにそう言われ、私はおどろいて首をふった。

「お高くとまってるお姫様にはわからねえだろうが、部下や家臣にも感情ってモンがあんだよ、機械じゃねーんだぞ」

ちょっと待って、そんな事考えてない。
お高くとまってる?
部下や家臣って、ゼイツ准将のこと?
私は准将を尊敬しているのに、彼には私が偉そうに見えていたということ?

私は懸命に首をふった。

「そんなこと考えてません」

カードゲームでわざと負けてくれた時は優しいひとなんだなって思ったし、
傭兵団とラージ大将から助けてくれた時は、すっごく嬉しかった。
病気のことを真剣に心配してくれて、一緒にウシナウ草を探してくれて、たくさん助けてくれて……

「私はゼイツ准将にき……」

あなたにきらわれたくないって思うようになってた。
だから自分の恥ずかしい姿を見られるのが怖かっただけなのに。

「嫌われたくなかっただけです」

ぱちんと目が合う。沈黙。

「と、とちゅうで…………」
「途中?」
「……飛空艇で、その、途中で止められちゃったから、その、私の体、どっか変だったのかなと思って」

汗が噴き出るようでひたいに手をやると、ふいにゼイツ准将が顔つきを緩めた。


あ……。わかってくれたかもしれない……。


彼は体をもぞつかせて脚を組み替えた。

「あれはそうじゃねえだろ。……あれは俺がわるかったよ」

赤くなっていく彼を私は見つめてしまった。

「焦りすぎた。次からは、もっと配慮する」

〝次〟。
次も、してくれるってこと……?


……カタカタと心地よい振動が止まり、馬のひづめが終着を知らせる。

「だんな、塔にインセクト(昆虫モデルのエアシップ)がついてるんですが、どうしやしょう」

御者ぎょしゃさんが報告してきた。

「運送屋ですかね? 妖精のだんなが箱持って立ってやす」

 
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