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ドライヴランド編
40話 恋の始まり
しおりを挟む<バーズ>のお店が新しかった理由は、しょっちゅうケンカしては壊すからだった。
そのたびに皆で建て直すみたいで、私たち四人が着いた時にはすでに人が集まっていた。
青空の下、
カラフルなフラッグを飾りつけたテントがあって、そこに奥様方が料理皿を持ち寄っている。
男性陣は頭にタオルを巻いていたりして、作業に取り掛かっている。
木材を叩く音がしだして、お祭りの準備みたいな活気がしてくる。
私はウェンディ大佐のいらないTシャツをもらい、そこに羽の穴を開けて着ていた。下はゼイツ准将の少年時代のジーンズをはいている。膝がぼろけている。
頭には野球チームのキャップをかぶせてもらって、うん、何ができるかわからないけど頑張りたい。
皆さんもそういう恰好なのだけど、黄色いボブヘアの女の子がミニスカートに網タイツというスタイルで現れた。
彼女はすぐにこっちへ来て、ゼイツ准将の肩に手を滑らせた。
「ゼイツ戻ってたんだにゃん! 久しぶりにゃん!」
「おう」
「なんか痩せたにゃん? 任務きついにゃん?」
「そうか?」
「ねね、これ見てにゃ?」
これ見て? と言われて、私も顔をあげてしまった。彼女と目が合った瞬間眉をひそめられ、パッと見なかったことにされた。
輪に入れなそうなので、私はフェードアウトしてアイハーツ様のそばへ行った。
そこには野球帽をかぶったおじさんがいた。フェアリースマイルで挨拶するとあっさり無視されて恥ずかしくなった。同じチームの帽子かぶってるからよけいに。
「ア、アイハーツ様、何かできることありますか?」
「(こういう)作業したことある?」
彼のしわがれ声に、私は耳を近づけた。
「学校のお祭りでならやったことあります……」
「(うん。これを渡してきてもらえる?)」
と、トンカチを渡される。アイハーツ様が指さした方をふりむくと、
ぱちんっ☆
と弾かれるような衝撃を感じた。ゼイツ准将がこっちを見ていて私は面食らった。
「フフッ(よろしくね)」
「はい。わかりました」
道具を渡しに行くだけの、幼児でもできるおつかい。
わざと仕事を作ってくれた感じだった。……のだけれど、実は今の私にはこれさえ難しいってことに気づく。
だって准将の回りには、さっきの女子に加えて、ギブソンまで張りついてるんだもの。
行きたくなさすぎる……。
どこか行ってくれないかなって遠巻きに見てたら、准将と目が合ってそらされた。そらされたと思ったらすぐまた目が合った。私は目をそらした。
「ジョン! このファンシーな木材は何に使うんだ?」
「オシャレなバルコニーつけるんだと」
周りの人が作業しているのに、私ってばトンカチ持ってるだけで居場所がない。
そんな時、ポニーテールを弾ませてウェンディ大佐が横切っていったので、私は駆け寄った。
「ウェンディ大佐っ」
「どした? フェルルン」
「アイハーツ様がこれをゼイツ准将に渡してくれって」
「うん渡してやって? 喜ぶよ」
「ただ、ギブソンがいて……」
「あーなるほどね。おっけ、貸して」
「おいゼイツ!」
とウェンディ大佐が呼んだ。
顔をあげたゼイツ准将が私を探してパチン☆と目が合った。
その直後、
ブーメランのように飛んでいったトンカチの木柄が、ゼイツ准将の顔に直撃するという信じられない光景を目にした。
「ブヘェッ!」
私は震えあがった。
目をつむったゼイツ准将が頭をふって、牙をむいた。
「…………てっめウェンディ! 顔にトンカチ投げてくんなあぶねーだろ!」
「わるいわるい! よそ見してるからさぁ!」
……な、なんて姉弟なの!? まさか投げるなんて思わなかったよ!
私は准将の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですかっ?」
「ああ……なんてことねえ」
「鼻血出てるにゃんゼイツ!!」
女の子が金切声をあげて、私はギクッと怖くなった。
こんなことになるなら、自分で渡しにくれば良かった……
「ゼイツ准将、ごめんなさい」
「邪魔にゃん!」
「あ、ごめんなさ……」
後ずさりした私は、誰かの足を踏んでしまった。ギブソンだった。
「よう、〝フェアリー〟」
と、笑顔なく挨拶され、私は口の中でもごついた。「お、おは、おはよう……」
「この子何でここにいるにゃ!」
と、女の子が、苛立ったようにふりむいた。
「イークアルの国王を誑かそうとするから、ゼイツが監視してるんだと」
ギブソンがそう答えると、准将が二人をかき分けるようにこっちへ来た。
「任務の事に口だしてくんな。お前らここ代われ。俺はあっちでバルコニー作ってくる」
「なんでだよ、やなこった」
「手伝う気ねーんなら帰れ。フェルリナ行くぞ」
ゼイツ准将に促されて、私はショック状態でついていった。女の子といい、ギブソンといい野球帽の人といい、初めて会うのにすごく嫌われている……。
「フェルリナ。今ギブソンが言った話信じるか?」
「……私がエリアス様をたぶらかそうとして、ゼイツ准将が監視してるって話ですか?」
「ああ」
「……わかりません。そうなんですか?」
「どう思う」
なんでこんな事聞くんだろう。
私はエリアス様を誑かそうとなんてしてないし、
ゼイツ准将もむしろエリアス様から私を守ってくれていると思っていた。
私は長く返事に詰まった。
「それが分かるようになったら俺の精鋭部隊に入れてやるよ。おい! ウェンディ!」
精鋭部隊に……私は入った方がいいんだろうか。
なんだかまたハードルを上げるようなことを言われて、置いてけぼりにされた気分だった。
実際には、それからゼイツ准将は一緒にいてくれた。
ウェンディ大佐と二人、打ち合わせもしてないのに息ぴったりで木材を運び出す。
トンカチをぶつけたくらいじゃ揺るがない信頼関係があるみたい。
「フェルルンは白ペンキ塗る係ね」
「はい!」
私たち三人は、ログハウスの側面にバルコニーを組み立て始めた。恋人や夫婦が記念日などに訪れる二人席を、アイハーツ様が作りたいんだそうだ。
「思いっきりロマンチックなスペースにしない? アイハーツさんそういうの好きそう」
「夫婦げんかでもして、壊されなきゃいーけどなぁ」
トンカチで肩たたきしながらゼイツ准将が、ニヤリと笑う。
私はせっせとペンキを塗った。二人と違って、私はもうこのお店に来ることはないだろうけど、だからこそ、素敵な席を作りたかった。
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