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ドライヴランド編
37話 深夜の男子会①
しおりを挟む深夜、ピンク色のソーダを手にゼイツが庭へ出ていくとブーイングが起こった。
「チェリーボーイ・ソーダ? もっといいもんが冷やしてあっただろ」
「今の任務が終わるまで酒は飲まないって決めてんだよ」
ランプを灯したガーデンテーブルを囲んでいる男たちの手には、いずれもビールがある。
ゼイツが帰郷すると誰かしらこうして集まるのだ。今宵は四人ほど来ていて、その中にはギブソンの姿もある。一足先にアイハーツも席についていた。
ため息をつき、ゼイツは彼らの輪に入りベンチに腰を下ろした。
「顔が赤いな。疲れてるのか」
ジョンが言う。
元軍人のジョンはアイハーツの旧友であり、ゼイツは子供の頃、彼の少年野球チームに入っていた。皮肉屋で、大体いつも野球帽をかぶっている。
「何の任務なの?」
と聞いてきたのはトミーで、こちらはまだあどけなさの残る青年である。歳はフェルリナと同じ頃。最近バーズにコックとして就職した。この場に父親のイーサンと共に来ていた。
「〝フェアリー〟がらみのだろ」
ギブソンがもったいつけて言う。
「店に来てたらしいな。なんで連れてるんだ?」
イーサンが訊いた。
「監視だ」
「監視?」
「エリアスを誑かしやしないか見張ってるだけだ」
ゼイツはそう答え、
髭の伸びてきた顎のラインをなすった。
こう言っておいた方が話が早い。
七百年前、当時のドライヴランド国王ライオネルを騙したとされる妖精メルケナ=アルケリーナの伝承は未だ生きている。
フェアリー族は敵。そんな認識の方がすんなり受け入れられるのだ。
今ここでゼイツが「フェルリナは悪い奴じゃない」とでも言おうものなら、たちまちに男たちは嘲笑うだろう。「さっそく誑かされやがって」と。
ジョンが訊いた。
「イークアルのバカ国王が妖精と何の用なんだ?」
「いい質問だがそれには答えられねえな」
「フェアリーってやっぱり騙してくるの?」
「……」
ゼイツはソーダをほとんど飲み干して、喉を唸らせた。
「……っとんでもねえぞ、想像を絶する」
「それってどんな?」
隣にいるトミーは体をこちらに向け、瞳を輝かせている。
コックの彼は店で妖精フェルリナを目の当たりにして、すっかり魅了されてしまったようだ。
「純粋なふりしてくる。たちがわりーんだ」
と、ゼイツはよそを向いて吐き捨てた。
「ゼイツも誘惑されたの?」
「恋人がいるのにだぞ。見くびられたもんだ」
ゼイツは空になった瓶を呷り、最後の雫に眉をしかめた。
「いいかゼイツ」
とジョンが拳をコキコキと鳴らした。
「間違ってもライオネルみたいになるなよ」
「だからよ、今度はこっちが騙して、第二次土雷戦争なんてどうだ?」
ゼイツの酔狂な提案に、ギブソンがテーブルを叩いた。
「それはいいな! その時は俺も呼んでくれ!」
「で手ぇだしたのか?」
イーサンが聞いた。
「まあな。妖精だろうが黒魔女だろうが、出された飯は食う主義だ」
にやけてそう答えると、面々がどっと笑った。
「たしかにな! キェーマみたいなモンか!」
「キェーマ! ワハハハ!」
今宵のチェリーソーダには何か混ざっていたのかもしれない、少し喋り過ぎたとゼイツは思った。
「ビールいるか? 俺は水とってくる」
席を立とうとした時、アイハーツが腕を伸ばした。
「どうしたアイハーツ……」
上から振り下ろされた手に、ゼイツは必然と下を向いた。頭髪をわしづかみにされ、全部引っこ抜く勢いで引っ張られ、
「おいおい、自分が禿げてねーからって、俺も禿げないとは限らねえんだぞ」
下を向いたままとりあえず冗談を言ったが、アイハーツは答えない。よほどお怒りのようだ。ゼイツは仕方なくベンチとトミーを跨いだ。そのまま庭の外へ連れて行かれ、放り投げられた。
皆がしんと注目した。
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