36 / 97
ドライヴランド編
35話 ゼイツvsギブソン
しおりを挟む老夫婦が幸せそうにステーキを食べている。
その隣のテーブルをぶち壊して、ゼイツ准将が墜落した。
ギブソンは高笑いだった。
「しばらくやらないうちに腕がなまったなあ!」
割れた木片やガラスのいろんな音を立てて、准将が立ち上がる。
「ゼイツ! 将官なんか辞めてオレとハルに行こう! じゃなきゃどんどん差がついてくぜ?」
老夫婦のご主人が、頑張れというようにゼイツ准将のお尻を叩く。
カウンターにいるお客さんは口をもぐもぐさせながらふりむいている。
唖然と息を引いているのは私だけのようだった。
私は椅子ごとひっくり返りそうになったところをウェンディ大佐に押さえられ、即座に彼女のドライヴで後ろへ避難していた。
大佐の手を握りながら、目はゼイツ准将から離せなかった。
「俺は今考え事してんだ。邪魔すんな」
ハッ と気づいた瞬間には、ゼイツ准将の拳をギブソンが掴んでいた。ヴォン ヴォン ヴォンと変な音がしだす。空気が唸っている。
その音に、野球帽のおじさんがふりむいた。
「やるなら外でやれ!」
ヴォンッ! ドウッ!!!
二人は言われた通り外へ滑っていった。ただ出入口は通らなかった。壁にタックルして丸太を折り飛ばし、ムキになって互いの服を掴みながら我先にと壁を蹴り壊して出て行った。私は言葉を失った。
さっきまで食事を続けていた人たちも、さすがに驚いていた。
私は店内を見回し、何人かと目が合った。みんな怪我はないようだ。
出入口に向かって左半分の壁は無傷、そこには老夫婦のいるテーブルもある。
ゼイツ准将は吹き飛んだ時も、出ていく時も、ちゃんとお客さんの安全を考えていたんだって気がついた。
「フェルルン、ゼイツ見に行かない?」
「……は、はいっ」
出し物でも見に行くようなノリで大佐に引っ張られて、椅子から立ち上がる。
外では殴り合いをしていた。
ゼイツ准将が前へ前へ踏みこんで、ギブソンが逃げ回っている。
拳を繰り出すスピードがどんどん速くなっていき、私は目が追いつかなくて、どう動いたのか後から気がつくような感じだった。
ゼイツ准将が姿勢を低くしたのを見て、ウェンディ大佐が呟いた。
「ギブソン、アングラ使いやがった……」
「アングラって何ですか?」
「【アンダーグラウンド】地中に沈めていく技のこと。重力がきっついのよ」
……ほんとだ、准将の足元の地面が凹んでる。
でも、全然攻撃やめない……。ひたすら押してる。ギブソンは後ずさりするばかりで、苦し紛れに蹴りを入れようとして、ゼイツ准将に蠅でも払うように叩き落とされている。
「あのGであれだけ腕振れるんだ。ゼイツまた強くなったな」
「あっ あっ」
私は声をあげた。准将の拳がラッシュして、ギブソンが気絶したのが分かった。繰り出されるパンチが速すぎて、ギブソンは倒れることも許されなかった。
やっぱり凄い……ゼイツ准将ってほんとに強いんだ……!
ゼイツ准将が殴るのをやめて、こっちを見た。
目が合って、ドキリとする。
そ、そうだ……忘れてたけど、私たちのために怒ってくれたんだった。
彼はギブソンを担いで遠くへ滑っていってしまった。
「……どっか行っちゃいました」
「反省させに行くんじゃない? それよりフェルルンごめんねー。嫌な思いさせちゃって」
ウェンディ大佐がすまなそうに前髪をかきあげる。
「そんな、こちらこそごめんなさい……私のせいで」
嫌な思いしたのは大佐の方なのに。
わざとギブソンを煽って、ターゲットを自分の方に向けてくれたから、
あんな酷い事言われてしまったんだ。
「ウェンディ大佐、かばってくれてありがとうございました」
でも私、誰が何と言おうとお二人はきょうだいだと思う。
だって、底抜けに優しいところがそっくりだから。
「アタシ何かしたっけ。さ、中に入ってジェラートでも食べよ」
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる