一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

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ドライヴランド編

35話 ゼイツvsギブソン

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老夫婦ろうふうふが幸せそうにステーキを食べている。
その隣のテーブルをぶち壊して、ゼイツ准将じゅんしょうが墜落した。


ギブソンは高笑いだった。

「しばらくやらないうちに腕がなまったなあ!」

割れた木片やガラスのいろんな音を立てて、准将が立ち上がる。

「ゼイツ! 将官なんか辞めてオレとハルに行こう! じゃなきゃどんどん差がついてくぜ?」

老夫婦のご主人が、頑張れというようにゼイツ准将のお尻を叩く。
カウンターにいるお客さんは口をもぐもぐさせながらふりむいている。

唖然あぜんと息を引いているのは私だけのようだった。

私は椅子ごとひっくり返りそうになったところをウェンディ大佐に押さえられ、即座に彼女のドライヴで後ろへ避難していた。
大佐の手を握りながら、目はゼイツ准将から離せなかった。

「俺は今考え事してんだ。邪魔すんな」

ハッ と気づいた瞬間には、ゼイツ准将の拳をギブソンが掴んでいた。ヴォン ヴォン ヴォンと変な音がしだす。空気がうなっている。

その音に、野球帽のおじさんがふりむいた。
「やるなら外でやれ!」


ヴォンッ! ドウッ!!!


二人は言われた通り外へ滑っていった。ただ出入口は通らなかった。壁にタックルして丸太を折り飛ばし、ムキになって互いの服を掴みながら我先にと壁を蹴り壊して出て行った。私は言葉を失った。

さっきまで食事を続けていた人たちも、さすがに驚いていた。
私は店内を見回し、何人かと目が合った。みんな怪我はないようだ。
出入口に向かって左半分の壁は無傷、そこには老夫婦のいるテーブルもある。
ゼイツ准将は吹き飛んだ時も、出ていく時も、ちゃんとお客さんの安全を考えていたんだって気がついた。

「フェルルン、ゼイツ見に行かない?」
「……は、はいっ」
出し物でも見に行くようなノリで大佐に引っ張られて、椅子から立ち上がる。

外では殴り合いをしていた。
ゼイツ准将が前へ前へ踏みこんで、ギブソンが逃げ回っている。
こぶしを繰り出すスピードがどんどん速くなっていき、私は目が追いつかなくて、どう動いたのか後から気がつくような感じだった。

ゼイツ准将が姿勢を低くしたのを見て、ウェンディ大佐が呟いた。
「ギブソン、アングラ使いやがった……」
「アングラって何ですか?」
「【アンダーグラウンド】地中に沈めていく技のこと。重力がきっついのよ」

……ほんとだ、准将の足元の地面が凹んでる。
でも、全然攻撃やめない……。ひたすら押してる。ギブソンは後ずさりするばかりで、苦し紛れに蹴りを入れようとして、ゼイツ准将に蠅でも払うように叩き落とされている。

「あのGであれだけ腕振れるんだ。ゼイツまた強くなったな」
「あっ あっ」
私は声をあげた。准将の拳がラッシュして、ギブソンが気絶したのが分かった。繰り出されるパンチが速すぎて、ギブソンは倒れることも許されなかった。
やっぱり凄い……ゼイツ准将ってほんとに強いんだ……!

ゼイツ准将が殴るのをやめて、こっちを見た。

目が合って、ドキリとする。
そ、そうだ……忘れてたけど、私たちのために怒ってくれたんだった。

彼はギブソンを担いで遠くへ滑っていってしまった。

「……どっか行っちゃいました」
「反省させに行くんじゃない? それよりフェルルンごめんねー。嫌な思いさせちゃって」
ウェンディ大佐がすまなそうに前髪をかきあげる。

「そんな、こちらこそごめんなさい……私のせいで」
嫌な思いしたのは大佐の方なのに。
わざとギブソンをあおって、ターゲットを自分の方に向けてくれたから、
あんな酷い事言われてしまったんだ。

「ウェンディ大佐、かばってくれてありがとうございました」

でも私、誰が何と言おうとお二人はきょうだいだと思う。
だって、底抜けに優しいところがそっくりだから。

「アタシ何かしたっけ。さ、中に入ってジェラートでも食べよ」

  
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