34 / 97
ドライヴランド編
33話 ステーキハウス
しおりを挟むウィングイーターをかついだゼイツ准将がお店に入ると、みんなこっちを見た。
「おうゼイツ帰ってきてたのか! そりゃあ何だ?」
「見てわかんねぇのかぁ? 肉だよ肉」
「んな固そうな肉食いたかねぇよ! ギャハハハ」
ここは荒野に立つステーキハウス<バーズ>。
シンプルな長方形のログハウスで、スイングドアを入るとテーブル席が広がっていて、向こうに長いカウンター席があり、その奥が厨房のようだった。
壁の丸太はみずみずしい橙色をしているし、塗られたペンキは臭う。建てたばかりで新しいお店なのかと思いきや、
お客さんは何年もこの場所に通っているような、くだけた感じで座っていて、皆、ゼイツ、ゼイツと声をかけている。
アイハーツ様のお店なんだそうだ。
「おいアイハーツ! 息子が帰ってきたぞ!」
准将とウィングイーターの影に隠れて、
図らずもステルスゲームのようにテーブル席に着くと、そこではウェンディ大佐が意欲的にステーキを切り刻んでいる。
時刻は三時すぎ、おやつにステーキを食べたい日もありますよね。
「おっ、フェルルンが現れた」
「すみませんお待たせして」
「どしたのその腕?」
「ちょっと森で怪我しちゃって。それより、ウシナウ草見つけました」
「ガチで? やったじゃん!」
「薬にして飲んできたんですけど、どうでしょうか?」
「どれどれ」
ウェンディ大佐が私の方を向いて鼻の穴から空気を吸いこんだ。
「…………いいよ? いい、効いてる効いてる!」
「ほんとですか! 良かったあぁ……!」
ウェンディ大佐とグータッチ。
これで周囲の人を発情させたり、暴力的にしなくて済むんだ。このお店で乱闘騒ぎ、なんていう引き金にもならなくて済む。間に合って良かった。
私は晴れ晴れとした気分で、そわそわと店内をふりかえり、厨房から出てきたゼイツ准将を二度見した。
給仕のようにお皿を腕にまで乗せているのはかっこいいけれど、口にチキンを咥えている。
「飯」
「やぁったぁ、バーズのブレッド久しぶりに食べたかったんだぁ」
ウェンディ大佐がお尻を動かす。
准将がお皿をテーブルに所せましと並べると、大佐と向かい合わせに腰を下ろす。二人同時に椅子を引く。
見ていて、思わず口をついて出た。
「もしかして、ご姉弟だったんですか?」
二人ともあっさりうなずいた。
「同じ釜の飯食った姉弟。アタシと、もう一人男がいるんだけど、アイハーツさんが引き取ってくれたんだ。アイハーツさんはゼイツの父親ね。もう会った?」
「はい。さっき」
「アタシたちがアイハーツさんのこと〝お父さん〟って呼べないもんだから、ゼイツも自分だけ呼ぶわけいかなくなっちゃったんだよね、ハハ」
ウェンディ大佐はブレッドをひとつとって、私のためにバターを塗ってくれた。
「バーズのブレッド、フェルルンも食べてみてよ。肉は? フェアリーって肉食べるんだっけ?」
「食べます。味見しなきゃいけないので」
「味見?」
「えっと、ピクシーが肉食だから、花嫁修業でお肉料理のレシピを365種類覚えるんです」
「あー、ピクシーが旦那さんになるわけだからかー……。いや365種類て!」
「大変ですよ。食にうるさいんです」
おじい様を思い出して私はうんざりと言った。
「そういや全然変わんねえな」
ゼイツ准将がお皿に骨を放った。食べるのはや!
「変わんないって何が?」
「フェルリナ」
「? 私が何ですか?」
「草とってきたのに全く効いてねえ」
……へ?
参ったというように、准将は天を仰いで目をしばたかせている。
「え、でもさっき効いてるって……」
私はウェンディ大佐を見た。
「何言ってんのあんた。フェロモン激減したじゃんか」
彼女は下あごをさげてゼイツ准将を見ていた。
「いい匂い消えたし、脳のふわふわがなくなったっしょ」
「なくなってねーよ、むしろ日に日に増強してるぞこれ」
「ハ ア ア?」
「あ、あの、どっちなんですか?」
「心配しないでフェルルン、消えてるから」
「消えてねーだろーが」
えぇ……。
ウェンディ大佐はフェロモンが消えたと言ってくれている。
ゼイツ准将は全然消えてないと言う。
私は、
ゼイツ准将が嘘をつくとは思えない。
ウェンディ大佐が、私を安心させるために優しい嘘をついてくれてるんじゃないかって……思う。
ゲキィッ
とスイングドアが開いて、ごつ ごつ と靴音をたてる男が入ってきた。
私はついそっちを見た。
その男は、まるでこの店が自分のものであるかのような顔をして店内を見渡した。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる