一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

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ドライヴランド編

33話 ステーキハウス

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ウィングイーターをかついだゼイツ准将じゅんしょうがお店に入ると、みんなこっちを見た。

「おうゼイツ帰ってきてたのか! そりゃあ何だ?」
「見てわかんねぇのかぁ? 肉だよ肉」
「んな固そうな肉食いたかねぇよ! ギャハハハ」

ここは荒野に立つステーキハウス<バーズ>。
シンプルな長方形のログハウスで、スイングドアを入るとテーブル席が広がっていて、向こうに長いカウンター席があり、その奥が厨房のようだった。
壁の丸太はみずみずしい橙色オレンジをしているし、塗られたペンキは臭う。建てたばかりで新しいお店なのかと思いきや、
お客さんは何年もこの場所に通っているような、くだけた感じで座っていて、皆、ゼイツ、ゼイツと声をかけている。

アイハーツ様のお店なんだそうだ。

「おいアイハーツ! 息子が帰ってきたぞ!」

准将とウィングイーターの影に隠れて、
図らずもステルスゲームのようにテーブル席に着くと、そこではウェンディ大佐が意欲的にステーキを切り刻んでいる。
時刻は三時すぎ、おやつにステーキを食べたい日もありますよね。

「おっ、フェルルンが現れた」
「すみませんお待たせして」
「どしたのその腕?」
「ちょっと森で怪我しちゃって。それより、ウシナウ草見つけました」
「ガチで? やったじゃん!」
「薬にして飲んできたんですけど、どうでしょうか?」
「どれどれ」

ウェンディ大佐が私の方を向いて鼻の穴から空気を吸いこんだ。

「…………いいよ? いい、効いてる効いてる!」
「ほんとですか! 良かったあぁ……!」

ウェンディ大佐とグータッチ。
これで周囲の人を発情させたり、暴力的にしなくて済むんだ。このお店で乱闘騒ぎ、なんていう引き金にもならなくて済む。間に合って良かった。

私は晴れ晴れとした気分で、そわそわと店内をふりかえり、厨房から出てきたゼイツ准将を二度見した。
給仕のようにお皿を腕にまで乗せているのはかっこいいけれど、口にチキンを咥えている。

「飯」
「やぁったぁ、バーズのブレッド久しぶりに食べたかったんだぁ」

ウェンディ大佐がお尻を動かす。
准将がお皿をテーブルに所せましと並べると、大佐と向かい合わせに腰を下ろす。二人同時に椅子を引く。
見ていて、思わず口をついて出た。

「もしかして、ご姉弟きょうだいだったんですか?」

二人ともあっさりうなずいた。
「同じ釜の飯食った姉弟。アタシと、もう一人男がいるんだけど、アイハーツさんが引き取ってくれたんだ。アイハーツさんはゼイツの父親ね。もう会った?」
「はい。さっき」
「アタシたちがアイハーツさんのこと〝お父さん〟って呼べないもんだから、ゼイツも自分だけ呼ぶわけいかなくなっちゃったんだよね、ハハ」

ウェンディ大佐はブレッドをひとつとって、私のためにバターを塗ってくれた。

「バーズのブレッド、フェルルンも食べてみてよ。肉は? フェアリーって肉食べるんだっけ?」
「食べます。味見しなきゃいけないので」
「味見?」
「えっと、ピクシーが肉食だから、花嫁修業でお肉料理のレシピを365種類覚えるんです」
「あー、ピクシーが旦那さんになるわけだからかー……。いや365種類て!」
「大変ですよ。食にうるさいんです」
おじい様を思い出して私はうんざりと言った。

「そういや全然変わんねえな」

ゼイツ准将がお皿に骨を放った。食べるのはや!

「変わんないって何が?」
「フェルリナ」
「? 私が何ですか?」
「草とってきたのに全く効いてねえ」

……へ?

参ったというように、准将は天を仰いで目をしばたかせている。

「え、でもさっき効いてるって……」
私はウェンディ大佐を見た。

「何言ってんのあんた。フェロモン激減したじゃんか」
彼女は下あごをさげてゼイツ准将を見ていた。

「いい匂い消えたし、脳のふわふわがなくなったっしょ」
「なくなってねーよ、むしろ日に日に増強してるぞこれ」
「ハ ア ア?」
「あ、あの、どっちなんですか?」
「心配しないでフェルルン、消えてるから」
「消えてねーだろーが」

えぇ……。

ウェンディ大佐はフェロモンが消えたと言ってくれている。
ゼイツ准将は全然消えてないと言う。
私は、
ゼイツ准将が嘘をつくとは思えない。
ウェンディ大佐が、私を安心させるために優しい嘘をついてくれてるんじゃないかって……思う。


ゲキィッ 


とスイングドアが開いて、ごつ ごつ と靴音をたてる男が入ってきた。
私はついそっちを見た。
その男は、まるでこの店が自分のものであるかのような顔をして店内を見渡した。

 
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