上 下
32 / 65
ドライヴランド編

31話 荒治療

しおりを挟む
 
 
うでの手当てをするからと、キッチンの椅子に座るよう言われた。

テーブルには、赤、青、緑のくすんだ薬瓶が用意してある。

すぐにシャツをかぶったゼイツ准将じゅんしょうが戻ってきて、私の真向いに座る。
彼は膝が触れあうキョリまで椅子をひき、赤い瓶を手にとってちゃぽちゃぽと振った。

「この傷は残るぞ」

そう断言されて、私は自分を納得させるようにうなずいた。仕方ないもの。

「だ、大丈夫で」
「だがそんな事は俺が許さねえ」
私の返事きいてない。
りもんの王女に傷をつけたとあっちゃ、フェアリーアイランドからの信用にかかわるからな。悪いが荒治療あらちりょうさせてもらう」
「荒治療?」
「そうだ。この薬なんだが……、赤、青、緑の順に患部にかけていけば、明日にはかさぶた程度になって元通りになる」
「……傷のこらないで済むの?」
「ああ」
私は首を縦にふった。
「はい。お願いしたいです」
「ただ、尋常じゃないほどみるぞ。覚悟はいいか?」
「がんばり、ます……」
「代われるもんなら代わってやりたいが、頑張ってもらうしかない。腕だせ」

オンチ鳥に噛まれたのは、左の前腕部だった。
准将が私の手首をとって、手の甲を下へ向けるように腕をひねる。
そして、木のスプーンを私の口に差し出した。
「噛め」
「そんなに沁みるんですか……!?」
私はこわごわスプーンを咥えた。

「かけるぞ」

瓶のふたをあけたゼイツ准将が、わずかに気弱な表情をみせた。これから私が受ける痛みに、同情しているかのようだった。

シュワワッ

「☆$#ッ!!」

私は震えあがった。引っこめようとした腕をゼイツ准将がびくともしない力で固定する。苦痛に歪む顔を、ガン見されてしまった。

「……うううぅ……ううう゛」

スプーンが床に落ちている。

「もう一回かけるぞ」

「まっ……ッ」
「……」
「も、もういい  きずなんか残ってもいい…………」

もちろんよくないけど、准将に変な顔みられちゃったダメージが上乗せされて動揺していた、私は泣き言をいいだした。

「もうやりたくない」
「今はそう思うかもしれないが、治した方が絶対にいい」

汗ばむ私の左手をゼイツ准将が両手で包んでいる。

「結婚式する時、ドレス着んだろ? こんな傷ない方がいいだろ? ジョニーの為だと思って頑張れ」

わけわかんない。私はかぶりをふった。

「ジョニーは私がどんな姿でも愛してくれるもん」
「なら自分の為に頑張れ」
「准将が信用を失わない為にでしょっ」
「……」

八つ当たりしちゃった。私は意を決して顔をあげた。

「わ゛かったやる。ゼイツ准将のために」(錯乱)
「あのな、一旦落ち着け」
「ゼイツ准将にたくさん気持ちよくしてもらってるのに、私は全然気持ちよくしてあげられないから、これくらいがん」

あっさり腕に薬をかけられて、顔を見られないようにうつむいて耐えた。

「う゛―っ う゛―っ」

彼が手の甲を撫でてくれている。
私は足の裏で、彼のすねをつっぱねていた。

「よし、峠は越えた。次の二つは赤よりマシだ。赤は……俺の隊で失神した奴がいたくらいだからな、フェルリナの方が強いぞ」

えっ……。ほ、褒められた?

「次も頑張ったら旅団長にしてやる」
「旅団長……」
って、サーカスの団長みたいな響きで特になりたいと思わないけど、でも、ゼイツ准将に褒められたからには、期待に応えたい。

彼は青い薬瓶の蓋を回し開けた。

パシャパシャ

「!!」

やばっ、サーカス旅団フェルリナ、叫びそうになっちゃったけど頑張った。
今度の痛みは別次元で、赤よりマシだっていうけど、こっちの方が痛く感じた。
叫ばない代わりに椅子から立ち上がっちゃって、引っ張り戻される。

「大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、はい……」
「おし、フェルリナ准将。次頑張ったら褒美やるよ。何がいい」
「はぁ、はぁ、私いつ准将になりましたか」
「旅団長と准将は同等なんだ。で何が欲しいんだ」

抱きしめてほしい。
そんな思いが浮かんだ。

「…………ハグ……」
「家具? 何のだ?」
「…………た、箪笥」
「タンスってお前、渋いな。いいけどよ」
よくないよ(涙)

シャビシャビシャビ

「ピイイイッウエェ!?」

「おっし、おつかれさん!」
ゼイツ准将がにっかり笑って緑瓶に蓋をかける。

「ぷはっ、はぁっ、はぁっ、ちょっ、ちょっと待って???」
「どした」
「いぃまのが一番キツかったんですけど!? 青、緑って……実は赤が一番楽だったんじゃないですかっ!?」
「はっはっはっ。ンんなことね~よ」

そう嗤う横顔はわるいかお。まんまとノセられた。しんじらんない。

「ほめられて本気にしちゃったじゃないですか!」
「ほめて伸びる奴と、叩いて伸びる奴と、色々いるからなぁ」
いるからなぁ、じゃなーい!!///
「ふみゃっ」
ゼイツ准将がティッシュで私の鼻をつまんだ。なにしてるの? 私、鼻水たれてるの?

私は顔をそむけて、自分で鼻をかんだ。
准将がテープを人差し指と中指に挟んで、ハサミで切る。ガーゼを私の腕に貼って、包帯を巻き始める。

「どうせジョニーだと思って触ろうとして噛まれたんだろ? 違うつったのに、俺を信用しねーからだ」
「またジョニーの話ですか? なんでいっつもジョニージョニー言うんですか」

って、あらら?
私、ジョニーの名前、難なく口に出せるようになってる。

「ゼイツ准将、ジョニーはキ」
「別に、こんな何日も放っておく男のどこがいいんだと思っただけだ。持病のこと当然知ってんだろ? 俺なら何が何でもその日に駆けつけるけどな」
すごい長いひとりごとをゼイツ准将が呟き終わるのを待って、もう一度息を吸う。
「あのですね、ジョニーは、キツ」

「怪我、俺の責任だ。すまなかった」

ゼイツ准将が、私に頭をさげた。

「!? や、やめてください。この傷は……」

准将のせいじゃないのに。

「…………」

包帯を巻き終えた彼がふっと廊下をふりむいたので、私もそっちを見た。
マグカップを手にした男の人が、目を細めて私たちを眺めていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

処理中です...