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ドライヴランド編

28話 ゼイツが起きなかった理由

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「どうもありがとう」
「バウ」
ホシカゲグマにお礼を言って、その場を立ち去る。

湖のほとりで泥をぬぐうのもそこそこに、急いで服を着て准将じゅんしょうの所へ戻ると、ツリービアードが舌をだして変顔していた。

「何やってるの?」
「おお!? 無事じゃったか!」

彼のほっぺたにカブト虫が歩いている。

「人面鳥はどうした??」
「うん……くまさんに倒してもらった」
複雑な気持ちだったけど、ツリービアードは手放しで喜んでくれた。
「よくやったぞ!! さっすが妖精族じゃ!!」
「ありがと。ひげ爺が助けてくれたから」
「いやいや、見てるだけで何もできんというのは、実にもどかしいわい。今な、こやつを起こそうとな……」

と、言いながらツリービアードはカブト虫に舌を伸ばして、口にとりこんだ。

「くひゃえかぶとむひ(くらえカブト虫)砲、 プウッ!!」

唇からカブト虫を発射。それがゼイツ准将の頭にぶつかると、准将はすぐさま立ち上がった。掛け声に応じて気を付けをする軍人さんみたいな動きをした。

「やっと起きたか小坊主。どうじゃ、体はなんともないか? ……聞いとる?」

「ゼイツじゅんしょう、だいじょうぶ?」

彼は私を見るなり、パチパチまばたきをした。たぶん、眠ったせいで子供化したこと忘れちゃったんだね。自分の体を見おろして、ヒヨコ頭を掻いて、私の全身に三白眼を見開いた。

「……なんでそんな怪我してんだよ? アイツにやられたのか?」
「へっ?」

私はふりむいた。オンチドードーが来たのかと焦ったがそれらしき姿はない。
そうではなく、全く別の動物がこちらへ向かっていた。

え、うそっ

金色の眼のアイツ。
そう、ジョニー……じゃなくてドラゴバルオオトカゲのウィングイーターがここまで追ってきていたのだ。

「あいつブッ潰す!!」

准将が風とともにいなくなった。地面をスケートボードでも乗るように滑っていくのが見えた。
あっという間に彼はウィングイーターに激突した。


ドドドドドド!!!


少年のゼイツ准将が、ウィングイーターに拳を叩きこんでいく。
どんどん加速していき、両腕が見えなくなっていく。

な、なにあれ。

「ありゃあ……ピュアブラッドじゃな……」

呟いたツリービアードの声は、残念がるような響きを持っていた。

「ピュアブラッド?」
「まれに強すぎる子供が生まれてしまうんじゃ……ムゴムゴ」
ちらりと横に見たツリービアードは、眉をひそめていた。


「〝スカイハイ〟!!」


とゼイツ准将が高唱すると同時に土が突きあがって、彼とウィングイーターを乗せて垂直に駆け昇っていく。翼もないのに空へ飛んでいく。私はあっけにとられ、空を見上げたまま数歩前へ出た。水色の空に茶色い花火が散って、土が煙のように消えた。

ブボォン!!!

ウィングイーターは頭から、ゼイツ准将は足から着地したあと飛びのき、ブオンッ ブオンッとこっちへ滑り戻ってきて、両耳から何かをとった。

「何も聞こえねえと思ったらおれ、耳栓してた」

どんぐりが二つ、手のひらにあった。

 
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