一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

文字の大きさ
上 下
12 / 97

11話 フェルリナ、襲われる

しおりを挟む
 
 
ハッと目をあける。夜中のはずなのに部屋に誰かいる。

何かが私の顔を押しつけている。それは靴の裏だった。誰かがベッドに脚をあげて、寝ている私の横顔を踏んでいた。ピンヒールが口の端に入ってきて、苦い土の味がした。

「……っ、っ」

とっさに逃れようとしたら別の誰かが私の両足首を掴んで勢いよく引きずった。

「ゼイツ准ッ……」

バシンッ!
顔を叩かれて目の前で星が散る。

「オマエ、あのヒトにキスされた?」

深みのある女性の声。話し方に独特のアクセントがある。魔女だ。ということはこの人、キェーマ后? 私はまばたきを繰り返して、暗がりに浮かびあがる彼女の姿に目を凝らした。魔女の象徴ともいえる、豊かなソバージュの髪だからやっぱりそうなのかもしれない。私をにらんでいる。

「キスされたかってきいてんだよ」
「されてないです……誰にですか……」
「されてナイ?」
「誰にもキスなんかされてないです」
私は懸命に首をふった。夜中に顔ふまれて起きたら知らない人たちがいて、意味不明な質問されて答えるのがやっとだった。もう一人の人物、私の両足首を片手で掴んでいるのは……まさかのデッカイーナ人だった。ベッドの天蓋で顔が見えない。天井に頭がつくほどの巨躯で、肩から腰へソードベルトが渡っている。
いまさらだけど、これって夢じゃないんですよね???

「よくも五階でキャーキャー騒いでくれたね」
キェーマ后が私の喉に爪を立てた。
「あぅっ」
「アリエナイ。あのヒトね、凄いキス魔なのよ?」

あの人ってどっちのことなんですか(涙)五階にいたのはゼイツ准将じゅんしょうですよ。
わけがわからないけど、どうしてキェーマ后が私にキレているのかは見当がつく。エリアス様がHの最中に私の名前を呼んでいたから。ふらちな妖精が国王様をたぶらかしたと、そう思ってるのだ。

「たしかにこの部屋にいるとムラムラしてくるな」

デッカイーナ人が言い、私は恐怖のあまりぷつんと糸が切れたみたいだ。気づくと金切声をあげていた。

「うるっさいわね! ラージ大将、押さえて!」
デッカイーナ人が私の頭をつまみ、キェーマ后が口にスライムを張りつけてきた。私はスライムを吸い込みそうになって呼吸をおかしくした。

「ドライヴランド、起きてるぞ。物音がした」
「ネゾウが悪いだけよ。強力な眠り薬なんだから三日三晩起きやしないわ。心配ご無用」
「心配なぞしていない。お前こそ、こんなところで油売ってないで早く行け。外の奴らに姿を見られるなよ」
「わかってるわよ!」

なんか喋ってるけど頭に入らない。私は後ろ手に拘束され、両足首も縛られてしまった。全身に鳥肌が立った。連れて行かれるんだ、私。デッカイーナ人が私を小脇に抱える。私はうつ伏せにお腹のあたりを持たれ、気持ち悪くなった。
明らかに普通じゃないこの状況。誘拐されてる。デッカイーナ人が階段をおり、私は必死に四階の扉に目で訴えた。

助けてゼイツ准将!!

だが鉄の筋交いが入った扉は閉まったまま、出て来てくれる気配はない。それどころか中から聞こえてきたのは、

「 ぐー  ぐー ふごっ」

といういびきだった。

「フフフッ」
後ろでキェーマ后が笑う。私は口惜しさで暴れた。さっきの私の叫び声は届かなかったのだ。もっとずっと力の限り抵抗して、ありったけ叫べばよかった。
「ワタシはこっちから出るわ。じゃあね」
キェーマ后が裏口から外へと姿を消す。私は正面のドアへ連れて行かれる。
外から人の気配がしてくる。

「おおおおお! 妖精だ!」
「ウホオオ!」

アーチドアの外で起こったどよめきに、私は首をあげて周囲を見た。そこには男たちの集団が待ち構えていた。あちこちで松明が掲げられ、斧を手にしている者、大剣を背負っている者、汚れた顔の男の人たちが私を食い入るように見ている。手を伸ばしてくる。助けてくれるようには見えなかった。

「これが本物の妖精!」
「オホホーッ」
やだ、やめて触らないでっ。

デッカイーナ人が彼らを押しのけた。

「傭兵ども、お前らのすべき仕事は分かってるだろうな?」

それに対して何人かが答えた。
「ああわかってるよ! おれたちが妖精さらって売りさばいたってことにすりゃーいーんだろ」
「ちゃんと妖精チャンだって用意してんだぜ」
妖精? 私と同じように捕まった子がいるの? 頭を起こして探すと、しかしそこにはドレスを着たおじさんが立っているだけだった。背中に羽をしょって。
「ぎゃっはっはっはっ!」
「あーーーなんかムラムラすんなああ!」
「ウホッ、ウホッ、ウホッ」

男たちが奇声を発する。

「渡した眠り薬はちゃんと飲ませたのか?」

「ああ! ボブが犠牲になったんだがな、聞いてくれよ――(回想シーン)

数時間前。
庭でせっせと腕立て伏せをしているゼイツ。(フェルリナにさんざん煽られたので邪念を払おうとしている)
そこへ牛乳屋を装い、エプロンに帽子をかぶったボブがやってくる。
ボブ「おばんです! 牛乳いかがですかい?」
ゼイツ、腕立てをやめて立ち上がる。
ゼイツ「こんな時間に配達か?」
ボブ「おいしい牛乳が搾れたんで、いち早く届けたくて来ちまいました。どうですだんな、グイッと一杯?」
受けとるゼイツ。
ゼイツ「ちょうど喉が渇いてたんだ、もらおう」
そう言ってボブを首固めして瓶を口につっこむ。
ボブ「ぐふぉっ!」
ゼイツ「怪しすぎるんだよお前が飲め!!」
ボブ「ごぶぶぶぶっ」

――てなわけでボブは昏睡状態さ。けどその間のどさくさにまぎれておれたちがキッチンへ侵入し、麦茶に混ぜといた。アイツ筋トレ後に一気飲みしてたぜ」
「馬鹿な男で助かったな」

ゼイツ准将、罠を回避したようで結局飲んじゃったんだ。
私、終わった……。

「ラージのだんな、後金はいつ払ってくれるんです?」
「おれがデッカイーナについたらな」
「送金ですか?」

ドンガラガッシャン!

塔の一階で騒々しく皿が割れて物が落っこちた。

ガンガラガッシャン! ゴスッ からんからん……

「……」

デッカイーナ人が足をとめて、塔を振り返る。
中から人影が、よろけながら出てくる。
私は求めるようにその人を見つめた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...