一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

文字の大きさ
上 下
7 / 97

6話 妖精の羽の秘密

しおりを挟む
 

「つ、妻は、黒魔女なのです」

仮面で表情のわからないエリアス様。だけどその様子は、怯えているようにもみえる。

「妻の名はキェーマ、旧姓をウィッチランドといいます。四年前、子供ができたと言われて婚姻関係を結びましたが、実は大嘘でした」
ほえぇ。一国の王様にそんなことがあっていいのだろうかと思って、私はききかえした。
「……もしかして、魔術でだまされてしまったとかですか?」
フェアリーアイランドにもそういういたずらな魔法薬があるから。お姉様が使っ……こほん、なんでもないです。
「いえ、口頭でいわれて信じてしまいました」
ずこー。
「しかも当時、彼女には恋人がいたのに……」
「可哀想ですね、その恋人の方」
「…………」
 エリアス様が黙る。ゼイツ准将が咳払いした。

……?

「……まあ、つまり、僕は愛されていないのです。妻はパレスで愛人たちに囲まれて暮らしています」
なんだか可哀想だなぁ、エリアス様。

ゼイツ准将が背もたれに寄りかかる。彼のお皿は全て空になっていた。食べるのはや。

イークアル公国の王であるエリアス様と、チュウリッツー連邦の准将であるゼイツ様。顔を殴ったくらいではびくともしない間柄みたい。私は二人をちらりと見た。それに答えるようにエリアス様が教えてくれる。

「彼とは中等部から付き合いがありましてね。僕の黒歴史もよく知ってると思います。大きな借りもありますし、頭があがらないですね。……まあ、殴っておいてなんですけど」
「ふふふっ」
私は口に手をそえて笑った。
「なんて美しい笑い声だ」
エリアス様が耳を傾けた。
「ところでフェルリナ姫、うしろをふりむいてみてはくださいませんか? 僕からささやかな贈り物がございます」

入口ドアがあいて、私はふりむいた。えっ、いつからいたの? という人たちが大型トランクや布生地を抱えてどやどやと入ってきて、階段へ向かう。

「ドレス、シューズ、ジュエリー、その他新調しました家具もございます」
「あ……ありがとうございます」

「王様ぁ、五階に入りきらない分はどうしやしょう」と従者がきく。
「四階の倉庫に置いてくれ」

四階が倉庫よばわりされている。私はゼイツ准将の顔色をうかがった。彼は脚を組んで端末をいじっているだけで、全然気にしていなかったけど、私に気づいて顔をあげた。
「あ? なんだ?」
「い、いえ」
顔をあげたついでにゼイツ准将は言った。
「后は会わないと思うけどな」
「?」
「僕もそう思います」
とエリアス様はテーブルの上で手を組んだ。
「挨拶をさせようとしても、いうことをきかないでしょう。全て僕の不徳の致すところですが、どうぞフェルリナ姫は五階でお休みになっていてください」


     * * *

部屋で一人、鏡の前でドレスを着てみていると、

「フェルリナ、何の音だ?」

とゼイツ准将が言った。私はびっくりしてふりかえった。ノ、ノックしたっけ?

「はいっ? なんですか?」
「いや……コツコツ音がするから」

彼は私の履いているクリスタルのヒール靴に視線を落とし、着ているチュールのミニドレスを見て、
「目立ってしょうがないな」
と片眉を寄せる。
「もっと町村向きのないのか」
「町に行くんですか?」
「町も行きたいなら行ってもいいが、俺、あの草見たことある気がするんだよ」
「えっ」

私は目を丸くして、ゼイツ准将に向き直った。

「案外その辺に生えてるんじゃないか? 探しに行ってみるか?」

私は一気にうなずいた。
「行きたいです!」
「なら、まず羽を隠さねえと……、ん」

ゼイツ准将が気づいた。私の背中に羽がないことに。

「フェルリナ、羽がなくないか?」
「羽しまえるんです」
「そうなのか!?」

おしゃれに余念のないお姉様方は、人間のドレスも大好きだ。よって羽をしまい試着するんだけど、しまっていられる時間は個体差がある。一番長いのは三女のインライお姉様で、世界中に二百人彼氏がいてあちこち旅行しているから、ほとんどしまいっぱなしみたい。

「どうやってしまってるんだ?」
「……ある部分に力を入れて締めつけるんです」
「ある部分ってどこだ?」
「私にもわかりません。奥の方です」

私は無意識に下半身を指さしていた。

「そういや昨日も羽縮んだ気がするぞ」
「昨日?」
「……。いや、なんでもね」

ゼイツ准将があごを掻いて天井に目をやる。

「それやれば町歩けるんだな」
「ざんねんながら私は十分くらいしかできないんです。お姉様はもっとできるんですけど」

言っているそばから、背中に羽が戻ってきて私は自分の体を抱いた。

「ドレス脱ぎたいので、あの……」
「ああ悪い。んで、ドレス着る時、羽はどうするんだ?」
「エリアス様がテイラーを呼んでくださるそうです」
「そうか。じゃあ外で待ってる」

ゼイツ准将が部屋を出ていき、私はドレスを脱いだ。自前のワンピースを被って、羽を出す。ゼイツ様、意外と羽のことに興味があるんだな。驚いてた顔がおもしろかった。ふふ。

五階から飛びおりられるって知ったら、もっと驚くかな?

羽を隠すためのローブを探しだして、それを持って私は腰窓に足をかけた。窓枠を掴んで外へジャンプ! 羽を広げて、ふんわりと落ちていき、芝生へ着地した。えへへ、空は飛べないけど、パラシュートにはなるんです。

「うおっ。なんでいるんだ」

塔から出てきたゼイツ准将に、私はクスクスと笑った。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

パーキングエリアに置いていかれたマシュマロボディの彼女は、運ちゃんに拾われた話

狭山雪菜
恋愛
詩央里は彼氏と1泊2日の旅行に行くハズがくだらないケンカをしたために、パーキングエリアに置き去りにされてしまった。 パーキングエリアのフードコートで、どうするか悩んでいたら、運送会社の浩二に途中の出口に下ろすと言われ、連れて行ってもらう事にした。 しかし、2人で話していく内に趣味や彼に惹かれていって… この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...