上 下
2 / 65

1話 情けない遺言

しおりを挟む
 
私の名前はフェルリナ・ルル・フェアリーアイランド。フェアリーアイランド王国の七女。この国の住民はみんな妖精で、あ、でも妖精といっても小さくはない。背中に羽は生えてるけど飛べない(涙)。体がちょっと透けてる。人間にはない能力がいちおうあるけど、それもぜんぜんたいしたことない。たとえば壁越しに、となりにいる人がわかったりするだけ。

「あ、あの」

と、話しかけてみました。返事はかえってくるでしょうか。
私は今、飛空艇に乗せられている。綺麗な壁紙の部屋でローズティーを飲んで、丸窓から雲を見おろしている……わけじゃあなくて、ここは牢屋です。ここには私と、隣の牢に収監されている人しかいない。
ときおり兵士さんがおりてくるけれど、なぜかギクッとしてすぐいなくなってしまう。隣の人と私は何時間かここに取り残されている。他人と二人きりって……それはそれで重苦しいですよね。

「……ああ、なんだ」

とぶっきらぼうな返事がかえってきた。無視されなくてよかった。でもでもよく考えたら、牢に入れられているってことは犯罪者ってことですよね? 唸るような低い声、わるい男の人ってかんじ。うすぼんやりとみえるイメージは、黒いローブにフードを被っていて、壁を背にあぐらをかいている。腕を組んで頭をさげていたけれど、寝てはいない。私が話しかけたことで、ゆっくり動いた。
……やっぱり怖い人なのかな、と思ったら、何話していいかわからなくなった。

「なんだ。何か用か」

私が黙ってしまったから、その人からきいてきた。用を言えば解決してくれるみたいな口調だった。

「いえ、あの、ずっと一人でさみしかったから声かけてみただけです」

私はぽろっと本音をもらした。すると、

「ああ、悪いががまんしてくれ」

って。??? 謎の上から……あっ、私は察した。この人、たぶん自分が逮捕された現実を受け止められなくて、犯罪者だってたちばを忘れちゃってるんだね。ますますあなたはどうしてここにいるんですか? ってきけなくなった。

「……寂しいなら話でもするか?」

わわっ。会話が延長されてしまった。どうしよう。自己紹介とかするべきなのかな。この人、壁越しだから私の姿、見たことないと思うのです。私はあなたの姿がぜんぜん見えてるけど。今、頭をわしわしって掻きましたよね。太い腕がローブのそでからのぞいた。

「お前はなんでここにいると思う?」

彼がきいてきた。まさか自分はえん罪だって言いたいのかな。それなら私も同じです。私も悪い事なんてしていない。

「え、えっと、私は、お、おじいさまのせいです」
「…………」
「おじいさまがくしゃみをしたら火山が噴火して戦争に負けた国が逆恨みしてわたしを拉致したんです」
「…………」

あああ、これじゃあ私もあたまがおかしいみたいじゃない。
口下手だからうまく説明できないの。あのね、私がどうしてこんな目にあっているかというとね、妖精の男には不吉を呼んでしまう特性があって、先日おじい様が、「ハアアアクショーーイ!」と今年一番のくしゃみをしたら、大陸で火山が噴火した。幸いネズミ一匹死ななかったんだけど、それによって近くで戦争していたチッチャイーナ小国とデッカイーナ大国の攻守が逆転して、劣勢だったチッチャイーナが勝利をおさめてしまったの。勝てると思っていたデッカイーナ大国は負けて、赤っ恥をかいた。
そんなわけで私たちフェアリーアイランドの妖精は色々と疎まれることがある。逆にその力を利用しようとする輩もいる。面倒くさい種族なのだ。

「……それはちがうな」

えっ。すんなり返事してきた。今の私の説明で大丈夫だったの?

「まあでもそういうことにしておいた方がいいか。どのみちイークアル公国につけばわかる。もう少しの辛抱だ」

なんか……、今の口調はまともな感じがした。あれ、フード外してる。横顔……鼻筋からあご、ぼこっとなった喉のラインが男らしい。眉間をしかめているけど、口は大きくてやんちゃっぽい。女の子ならみんな、かっこいいって思いそう。こんな人だったんだ、お隣さん。

「他にはなんかあるか?」

というので、私はきいた。

「いま、何時ですか?」
「0時くらいじゃないのか」
「えっ!? もう!? 日付変わってるんですか!?」

私は慌てた。その人は腕時計を見て答えた。

「二十三時五十九分だが、それがどうかしたか」
「ゆっ、ゆいごん!」
「遺言?」
「遺言書かなきゃ!」

私は牢内の壁に手をはわせて、タスケテと彫ってあるらくがきに絶望した。たった四文字ほるのに何時間かかったのかしら。私に残された時間は一分もない、そもそも彫刻刀なんてもってない。

「あの、紙と鉛筆持ってませんか!」

私は隣の牢にむかってばかみたいな質問を投げかけた。すると、

「ああ」

と返ってきた。私は通路側の鉄格子に飛びついて腕をだし、となりの牢に手のひらを伸ばした。

「貸してもらえませんか!」

彼は動かず冷静に言った。

「渡すことはできない。何に使う気だ」
「そんな……ただ遺言を書きたいだけです」
「遺言ってなんだ。0時すぎたら死ぬのか?」
「そうです」

私、フェルリナは一日一回シないと死んでしまう妖精病です。姉妹の中で私一人だけ、こんな恥ずかしいビョーキ持ち。発症したのは一年前くらいで、知っているのは一番上のお姉様とお医者様だけ。判明した時は死にたいくらい恥ずかしかった。特効薬で日々をなんとかやり過ごして、今日まで生きてきたけど……

「おい、返事しろ」
「持病があるんですけど、とても人には言えない持病なんです。だからこう書いておいてください。『プリシラお姉様、牢屋で一人エッチなんてとてもできませんでした。私はついにアレで命を落とします。あ、この紙は読んだらぜったい破棄してください。ではさようなら』ガクッ」
 感極まって、自分でガクッて言っちゃった。情けない遺言だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

あららっ、ダメでしたのねっそんな私はイケメン皇帝陛下に攫われて~あぁんっ妊娠しちゃうの♡~

一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約破棄されて国外追放された伯爵令嬢、リリアーネ・フィサリスはとある事情で辺境の地へと赴く。 そこで出会ったのは、帝国では見たこともないくらいに美しく、 凛々しい顔立ちをした皇帝陛下、グリファンスだった。 彼は、リリアーネを攫い、強引にその身体を暴いて――!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

異常性癖者たちー三人で交わる愛のカタチー

フジトサクラ
恋愛
「あぁぁッ…しゃちょ、おねがっ、まって…」 特注サイズの大きなベッドに四つん這いになった女は、息も絶え絶えに後ろを振り返り、目に涙を浮かべて懇願する。 「ほら、自分ばかり感じていないで、ちゃんと松本のことも気持ちよくしなさい」 凛の泣き顔に己の昂りを感じながらも、律動を少し緩め、凛が先程からしがみついている男への奉仕を命じる。 ーーーーーーーーーーーーーーー バイセクシャルの東條を慕い身をも捧げる松本と凛だが、次第に惹かれあっていく二人。 異常な三角関係だと自覚しつつも、三人で交わる快楽から誰も抜け出すことはできない。 複雑な想いを抱えながらも、それぞれの愛のカタチを築いていく… ーーーーーーーーーーーーーーー 強引で俺様気質の東條立城(38歳) 紳士で優しい松本隼輝(35歳) 天真爛漫で甘えんぼな堂坂凛(27歳) ドSなオトナの男2人にひたすら愛されるエロキュン要素多めです♡

処理中です...