一日一回シないと死んじゃう妖精の私が、人質になってしまいました。~救命はエッチ? いじわるな准将様に見張られて~

夢沢とな

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1話 情けない遺言

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私の名前はフェルリナ・ルル・フェアリーアイランド。フェアリーアイランド王国の七女。この国の住民はみんな妖精で、あ、でも妖精といっても小さくはない。背中に羽は生えてるけど飛べない(涙)。体がちょっと透けてる。人間にはない能力がいちおうあるけど、それもぜんぜんたいしたことない。たとえば壁越しに、となりにいる人がわかったりするだけ。

「あ、あの」

と、話しかけてみました。返事はかえってくるでしょうか。
私は今、飛空艇に乗せられている。綺麗な壁紙の部屋でローズティーを飲んで、丸窓から雲を見おろしている……わけじゃあなくて、ここは牢屋です。ここには私と、隣の牢に収監されている人しかいない。
ときおり兵士さんがおりてくるけれど、なぜかギクッとしてすぐいなくなってしまう。隣の人と私は何時間かここに取り残されている。他人と二人きりって……それはそれで重苦しいですよね。

「……ああ、なんだ」

とぶっきらぼうな返事がかえってきた。無視されなくてよかった。でもでもよく考えたら、牢に入れられているってことは犯罪者ってことですよね? 唸るような低い声、わるい男の人ってかんじ。うすぼんやりとみえるイメージは、黒いローブにフードを被っていて、壁を背にあぐらをかいている。腕を組んで頭をさげていたけれど、寝てはいない。私が話しかけたことで、ゆっくり動いた。
……やっぱり怖い人なのかな、と思ったら、何話していいかわからなくなった。

「なんだ。何か用か」

私が黙ってしまったから、その人からきいてきた。用を言えば解決してくれるみたいな口調だった。

「いえ、あの、ずっと一人でさみしかったから声かけてみただけです」

私はぽろっと本音をもらした。すると、

「ああ、悪いががまんしてくれ」

って。??? 謎の上から……あっ、私は察した。この人、たぶん自分が逮捕された現実を受け止められなくて、犯罪者だってたちばを忘れちゃってるんだね。ますますあなたはどうしてここにいるんですか? ってきけなくなった。

「……寂しいなら話でもするか?」

わわっ。会話が延長されてしまった。どうしよう。自己紹介とかするべきなのかな。この人、壁越しだから私の姿、見たことないと思うのです。私はあなたの姿がぜんぜん見えてるけど。今、頭をわしわしって掻きましたよね。太い腕がローブのそでからのぞいた。

「お前はなんでここにいると思う?」

彼がきいてきた。まさか自分はえん罪だって言いたいのかな。それなら私も同じです。私も悪い事なんてしていない。

「え、えっと、私は、お、おじいさまのせいです」
「…………」
「おじいさまがくしゃみをしたら火山が噴火して戦争に負けた国が逆恨みしてわたしを拉致したんです」
「…………」

あああ、これじゃあ私もあたまがおかしいみたいじゃない。
口下手だからうまく説明できないの。あのね、私がどうしてこんな目にあっているかというとね、妖精の男には不吉を呼んでしまう特性があって、先日おじい様が、「ハアアアクショーーイ!」と今年一番のくしゃみをしたら、大陸で火山が噴火した。幸いネズミ一匹死ななかったんだけど、それによって近くで戦争していたチッチャイーナ小国とデッカイーナ大国の攻守が逆転して、劣勢だったチッチャイーナが勝利をおさめてしまったの。勝てると思っていたデッカイーナ大国は負けて、赤っ恥をかいた。
そんなわけで私たちフェアリーアイランドの妖精は色々と疎まれることがある。逆にその力を利用しようとする輩もいる。面倒くさい種族なのだ。

「……それはちがうな」

えっ。すんなり返事してきた。今の私の説明で大丈夫だったの?

「まあでもそういうことにしておいた方がいいか。どのみちイークアル公国につけばわかる。もう少しの辛抱だ」

なんか……、今の口調はまともな感じがした。あれ、フード外してる。横顔……鼻筋からあご、ぼこっとなった喉のラインが男らしい。眉間をしかめているけど、口は大きくてやんちゃっぽい。女の子ならみんな、かっこいいって思いそう。こんな人だったんだ、お隣さん。

「他にはなんかあるか?」

というので、私はきいた。

「いま、何時ですか?」
「0時くらいじゃないのか」
「えっ!? もう!? 日付変わってるんですか!?」

私は慌てた。その人は腕時計を見て答えた。

「二十三時五十九分だが、それがどうかしたか」
「ゆっ、ゆいごん!」
「遺言?」
「遺言書かなきゃ!」

私は牢内の壁に手をはわせて、タスケテと彫ってあるらくがきに絶望した。たった四文字ほるのに何時間かかったのかしら。私に残された時間は一分もない、そもそも彫刻刀なんてもってない。

「あの、紙と鉛筆持ってませんか!」

私は隣の牢にむかってばかみたいな質問を投げかけた。すると、

「ああ」

と返ってきた。私は通路側の鉄格子に飛びついて腕をだし、となりの牢に手のひらを伸ばした。

「貸してもらえませんか!」

彼は動かず冷静に言った。

「渡すことはできない。何に使う気だ」
「そんな……ただ遺言を書きたいだけです」
「遺言ってなんだ。0時すぎたら死ぬのか?」
「そうです」

私、フェルリナは一日一回シないと死んでしまう妖精病です。姉妹の中で私一人だけ、こんな恥ずかしいビョーキ持ち。発症したのは一年前くらいで、知っているのは一番上のお姉様とお医者様だけ。判明した時は死にたいくらい恥ずかしかった。特効薬で日々をなんとかやり過ごして、今日まで生きてきたけど……

「おい、返事しろ」
「持病があるんですけど、とても人には言えない持病なんです。だからこう書いておいてください。『プリシラお姉様、牢屋で一人エッチなんてとてもできませんでした。私はついにアレで命を落とします。あ、この紙は読んだらぜったい破棄してください。ではさようなら』ガクッ」
 感極まって、自分でガクッて言っちゃった。情けない遺言だった。
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