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第一章
29話 ナーシアの魔力調整テスト
しおりを挟むそれから2週間ぐらい経っただろうか。ビュラさんとの勉強会は、書庫室で週に2回の頻度で行われる習慣となった。ビュラさんに会うのは毎回僕とナーシアの楽しみになっている。書庫室では、僕の定位置はすっかりビュラさんの膝の上となった。毎回ビュラさんは、新しい絵本を読み聞かせてくれるので、この世界の童話には詳しくなった気がする。
ビュラさんのスキル、【能力促進】で集中力向上・理解力向上・記憶力向上の効果があるせいか、絵本で読み聞かせてくれた内容が毎度鮮明に記憶される。
それでも復習は大事だと思い、毎日夜中コッソリと書庫室に向かって、ビュラさんが読んでくれた絵本と発音を思い出して勉強しているのだけど…最近努力が実って、ナーシアの言葉が難しい単語じゃない限り殆ど分かるようになった。凄く、凄く嬉しい…!
勉強する度に、日に日にナーシア達の話す内容が分かっていくのは感じていた。今までナーシアが何を言ってるのかニュアンスで推測していたのに比べて大きな進歩だった。
「エヴィー、今日はお庭で魔法の実技のテストがあるの~」
グリグリ頭を押し付けるように僕を抱くナーシア。あわ、せっかくのナーシアのサラサラな髪がくちゃくちゃに…。
「あのね、ブライティアローズを丁度十個咲かせながら、水の球を宙に二つ浮かべて、そのまま3分維持しなきゃいけないテストなの…私上手く行くかしら…?」
見上げて黒猫の瞳を覗き込むナーシアの表情はとても不安そうだった。
絵本の文字が大分読めるようになったので最近ではナーシアの部屋の中にある本をこっそり読んでいる。その為、ナーシアの言っている魔法の事が知識として少しずつ分かるようになっている。
【ブライティアローズ】は確か…術式展開魔法Ⅲ(ツオレ級)…初級だけど魔力調節が難しい魔法だった筈。
水の球を浮かばせる魔法は…水魔法の【ウォーターボール】だっけ。初級魔法で、球状の水が現れる魔法だけと、これもコントロールが難しいらしい。
大丈夫、ナーシアならできるよ。こう言うのも、ナーシアが部屋で何度も練習して殆どを成功しているのを知っているからだ。今は緊張から来る不安な気持ちで、失敗する事を怖がっているんだろう。
それなら僕に出来ることは一つだけ。
ナーシアの頭の上に両手もとい両前足をぽんと乗せ、
「ニャンッ」と元気付けるように目を細めて鳴く。
不安そうなナーシアの表情がキョトンとした後、吹っ切れたように笑顔になって僕を抱き上げる。
「ふふふ、ありがとうエヴィー。そうよね、エヴィーが側にいてくれるもの。きっと上手くに決まってる!」
良かった、ナーシアが元気になった!そうだよ、きっと上手く行くさ!
と言うことで黒猫の僕は今、ナーシアの魔法の実習テストの付き添いでクローゼル家の庭園にいる。
色取り取りの花々に囲まれているせいか、風に乗って仄かに良い香りがした。
僕はお庭の白い椅子に座り、ナーシアのテストの様子を見守る。
ナーシアが鞄から、いつもの花のレリーフが付いた緑銀の杖を取り出し、教科書を宙に浮かせて詠唱を始めた。
すると教科書がフワリとページを開いたまま宙に浮かんだままになる。
ナーシアが目の前の庭木に向かって杖を向けると、杖の先端にナーシアの魔力が集まってピンク色に光る。
あのクマムシモドキの魔物と違って、なんて可愛らしい色の魔力だろう。
ナーシアが杖先をチョチョイと振るえば、魔法陣が浮かび上がり、魔法陣の向こう側で光り輝く白い薔薇が幾つも咲き始める。数えたら丁度十個の白い薔薇が咲いていた。
凄い、前まで一個ずつ咲かせてたのに、一気に十個同時に咲かせられるようになったなんて!
ファニラ先生も驚いた顔をして、片眼鏡をクイクイして見ていた。
ナーシアはふうっと一息付いてから、「【ウォーターボール】」と詠唱する。杖の先で魔力が渦巻き、波打つ水の球が一つポヨンと現れる。
真剣な様子のナーシアを見て、ゴクリと喉が鳴る。
水の球がユラユラと揺れ、ググッと横に伸び二つに分かれると、反動で二つの水の球が激しく波打つ。
う、凄く難しそう。水がぐにゃんぐにょんに揺れる度に、日光とブライティアローズの輝きが反射してキラキラと光って眩しい。
ナーシアが波立たせないよう水の球に暫く集中すると、徐々に波紋が消え、二つのガラス玉のような透き通る水の球が出来た。
十個の白薔薇は均一に優しい輝きで光り、二つの水の球は微風に煽られても波打つ事なく宙に静止する。
ナーシアの魔力の流れ、静かで繊細な魔法。魔法ってこんなにも綺麗なものなのか、と…何故か少し切なくなった。ナーシア魔力は繊細で美しい。魔物の魔力は、紫色だけど黒っぽくて濁っているし、僕の魔力なんて真っ黒だ…。
ナーシア達のように【六光属性】(火、水、氷、雷、土、風 の属性)のいずれにも属してないから、【ウォータボール】とかの属性魔法が使えない。【術式展開魔法】の中で、【ブライティアローズ】のような無属性魔法なら僕にも出来ると思ったけど…闇属性だと使えないって書いてあった。
僕が魔物で闇属性だからか、今の所ナーシアが習っている綺麗な魔法はどれも使えそうになかった。
ナーシアが絶妙な魔力コントロールで維持しづけてから何十秒が経った。三分なんてあっという間だと思っていたのに、とても長く感じる。ナーシアの集中が続くよう固唾を飲んで見守った。
「三分経過しました、合格です。
素晴らしいコントロールでした。ブライティアローズを一度に十個咲かせた魔力調節技術は本当に驚きました。ウォーターボールはどうしても波立ってしまうので、分裂が出来た時点の制御で十分合格点なのですが、ナーシア様のウォーターボールは銀鏡月のように美しいシンメトリーで、私でも見た事がないくらい完璧な水球でした。現在のナーシア様の魔法制御技術力は、宮廷魔法師のレベルに届き得るでしょう」
ファニラ先生は感心して試験に合格したナーシアを褒め称える。
凄いナーシア、おめでとう!
ナーシアの合格を祝うために僕もナーシアに駆け寄ろうとしたが、ふと変な気配を感じて立ち止まる。ナーシアやファニラ先生の魔力ではない、なにかの魔力の気配。
不気味な感じだ、何か、何か変だ。
ナーシアの足元で、暗く歪んだ魔力が渦巻く。
これは…魔法が発動する兆候ッ––––––
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