おちゆく先に

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123話

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 森の中に「ズンッ」という音が鳴り響き、空中に鮮血が飛び散った。

「流石幹部、片足でよく避けるな。だがもう終わりだ。素直に色々吐けよ。その方がすぐに楽にしてやれるぜ?」

「な、ナメるな!例え足を斬り飛ばされようが利き腕を斬り飛ばされようが儂は誉れ高きエルフ族族長にしてのクォムボーラの幹部ぞ!仲間の居所を教える訳がなかろう!」

またもや運良く避けるとが出来たエリックだったが今度は利き腕を斬り飛ばされていた。
最早立ち上がる事も困難で魔法を放とうにも敵との距離が近すぎて魔法を放とうとしてもすぐに妨害されることは目に見えていた。

「そうか…なら疾く死ね」

ジグレイドはこれ以上避けられない様に横薙ぎの一振りでエリックの胴体を薙いだ。
避ける事も動く事も出来なかったエリックはまともに受け上下に両断されながら吹き飛んでいった。

「呆気ないもんだな…幹部とか言っていたが同じ幹部でも全然強さが違うんだな」

それはそうだろう、戦闘特化している獣人の中でも並び立つ者がいないほどずば抜けた力を持っていたハヌマエンと後方で守られながら強大な魔法を放つエリック、両者とも厄介なのは変わりないが少数で対峙した時により厄介なのは間違いなくハヌマエンの方だ。
クォムボーラの犯した間違いは幹部同士で徒党を組まず一人一人が別々に暗躍していた事である。
戦力の逐次投入の様な形となりジグレイドがクォムボーラの戦力を削り易くなってしまっていたのである。
ジグレイドは気付いていないが主力である竜人部隊が出払っている今がクォムボーラを潰す絶好の機会であり、むしろ今を逃せばドワーフだけでなく竜人も更に上の龍人をも纏めて相手にしなければならなくなる。
そうなればジグレイドですら回復力が間に合わなくなりいずれは骸と化すのは必然である。

そうとは知らずともジグレイドは憎悪により休憩を最小限に留め次の集落へと向かった。

残りの集落は三つ、しかもこれらは比較的近場に作られており次の集落の最終防衛地点と目されている場所でもあった。


歩く事数刻、漸く次の集落へとたどり着いた。
しかしジグレイドの目の前には深緑の森に不釣り合いな強固な砦が建てられていた。

「こんなとこに砦作るのか…大した技術力だな。そういえばドワーフもいるんだったか?それなら納得だな」

感心しつつ砦に向かって歩いて近づくと砦の上から声が聞こえてきた。

「そこの者!立ち止まられよ!何用でここへと参られた!」

声に覇気はあるが力強さはなくどうやら老いた獣人の様だ。

「あー、そうだな…エリックに伝言頼まれたんだが、イルルとか他の幹部は帰ってきてるか?出来れば幹部に直接報告したいんだが」

ジグレイドはあたかも仲間かの様に知っている幹部の名前を出して中に侵入を試みた。
数多くの集落で亜人は仲間意識が高く、仲間だと思い込ませてしまえば簡単に情報を得られるし集落の中にすら簡単に入り込む事が出来ていた。

「そうか…呼び捨てなのは気になるが…いや待て、どういった内容だ!」
「エリックが調べに行った集落襲撃の件だ!これ以上はお前には言えん!」
「分かった!では扉を開ける!暫し待たれよ!」

老人が奥へと入り暫くして砦の門に備え付けられている出入り用の扉が開いた。

「幹部の方々は二人を除いて任務で出払っているのだ。それでもいいかの?」
「あー、出来れば他の幹部が帰ってきていてほしかったが…この際は仕方ない。俺は報告後に少し休んでからまた外に行かないといけないからな」

適当に嘘を並べ立てて老人に幹部の元へと案内させる。
ジグレイドはこの時すでに猛毒の領域を発動していた。
散布している毒は正常な判断ができなくなる麻薬の様な毒と潜伏期間が少しだけあり直ぐには効果が現れないが発芽すればかなり致死性の高い寄生型の猛毒を散布していた。

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