おちゆく先に

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113話

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 王都での用事を済ませたジグレイドは愛馬のシャルドゥーンと共に深緑の森に一番近い村へと向かった。
道中では敗残兵や盗賊などといった輩は出て来ず最近まで戦争が近くで行われたとは思えない平和な旅と言えた。


「ここか…」

ジグレイドが到着した場所はまさしく村と言える場所だった。
深緑の森がすぐ隣にあるというのにこの村には木でできた簡易な柵でしか村を囲っていなかった。
そんな村の主な産業は農業のようで沢山の農夫が働く姿が遠くからでも確認できた。

そんな長閑な村に馬に跨った全身鎧が近づいてくるのである。
村の住人は慌てふためき右往左往しているのも次第に確認できた。



「き、騎士様でしょうか?まだ納税には早いと思いますが、どのようなご用件でこの様な村へ来なすったのでしょう?」

村の入り口に着いたジグレイドは村長らしき老人に出迎えられた。
村長の後ろには村長を心配しているのか家の陰から覗き見る人々の姿が見える。

「あー、申し訳ない。俺は騎士ではなく只の旅人だ。深緑の森に入る為に近くの集落を探していてこの村を見つけた次第だ。もし村には入れないと言われれば素直に立ち去ることにするよ」

「ありゃー、騎士様ではなかったのですか。いやはや、この村に訪れるのは納税官くらいなもんで勘違いしてしまいました。許してくだされ」

この村長の一言に村全体が安堵したような錯覚を覚えてしまうほど始めは村が緊張で張り詰めていた。

「許すもなにもこんな格好していたら勘違いするのも仕方のないことさ。それでこの村には泊まることはできるのか?できればここを拠点に少しばかりか深緑の森を探索したいのだが…」

「それは大丈夫なのですが…先も言いましたがこの村には訪れる客がいませんで、宿といったものがないのです。あばら屋ならば村の外れに何軒かあります。そこでも宜しければこの村では自由に滞在してくだされ」

「なるほど、ではあばら屋で構いませんので滞在させてもらえますか?滞在費は貨幣よりも現物の方にしましょうか?もちろん貨幣でも構いませんが」

「現物といいますと、まさか深緑の森で狩りを行うおつもりなんですかな?」

「ええ、今まで何度か別方向から深緑の森に入り探索していますので、何かしらは食料となる植物や動物を確保できると思います。もっとも獲物に出会えればの話ですが」

「おお!それは助かります!我々では深緑の森で狩りを行う事はできませんで村では肉が不足していましてな、是非とも現物でお願いしますじゃ!」

「ではそのようにしましょう。これから暫くの間宜しくお願いします────」

こうしてジグレイドは深緑の森の東側にひっそりと存在する名も無き村を拠点として深緑の森を探索し始めるのである。




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