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107話
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フェイシル王国軍 後陣
「くそっ!まだ決着はつかないのか!?例年であればすでに終わっているだろう!」
例年よりも長引く戦争にボダホン侯爵は自分の責任だというのに周囲に当たり散らしていた。
実際にはボダホン侯爵だけのせいではない。
バルクド帝国側の総指揮官が皇帝アルザーンだという事もあり互いが退かない泥沼の戦と成り果てているのである。
「あのローレンの弟子とかいうのは何をやっているのだ!吾の命令を無視して逃げたのではあるまいな!くそっ!くそっ!くそっ!」
自分は後陣で戦場とは思えない程の贅沢な食事を食べお気に入りの女を侍らせて過ごしているというのに碌な作戦も考えず兵士や組合員には突撃の命令と絶対に退くなと命令するだけ、まさに暗愚といえた。
総指揮官がこんななのにバルクド帝国に対して優勢でいられるのは敵も似たような暗愚であること、そして兵士の練度の差でしかなかった。
バルクド帝国軍はただ槍を構えて突撃してくるだけに対してフェイシル王国軍は生き残る為に命令を受けずとも強襲、挟撃、夜襲、罠とありとあらゆる手を尽くして戦っている。
そのお陰もあってかギリギリ優勢を保てていたのである。
逆にそこまでしないと三倍という数の暴力に耐えられないということでもあった。
すでにバルクド帝国軍は約15000もいた兵が5000を少し超える程度まで減っていた。
しかしフェイシル王国軍の被害もかなりの数となっていた。
約5000が1500程度にまでなっていたのだ。
むしろこの程度の被害で済んでいることが奇跡に等しかった。
それもあと数日の辛抱なのだが、この事を知っているのはただ一人しかいなかった。
バルクド帝国軍 中陣
「なに!?皇帝陛下との連絡が途絶えただと!?まさか勝手に帰ったとかではあるまいな!」
「い、いえ…アルザーン陛下だけではなく後陣自体からの連絡が途絶えております」
「ちっ!余計な手間を増やしやがって!おい、そこのお前!後陣へ行き何が起きたのか確かめてこい!」
「は、はい!」
中陣で指揮を取っている貴族はイライラしながら先日届いた食料にかぶりついた。
それが命取りになるとは思いもせずに…。
後陣の様子見を命じられた兵士は馬を走らせていた。
時はすでに夕刻でありもう間も無く真っ暗な夜となる為、急ぎ後陣へと向かう必要があったのである。
そんな道中で前方から歩いてくる人影が見えた。
この道は一直線で先にはバルクド帝国軍が使用している後陣しかない。
歩いてきている人物は何かしらの情報を持っているだろうと、馬を近くに寄せて話を聞くことにした。
「いくつか尋ねたい事がある。よろしいか?」
「おや?どうしました?俺は今、後陣から
中陣へと向かっている最中なんですが」
「そうか、あんたは後陣から来たんだな?では尋ねたい事がある。後陣の様子はどんな感じだ?」
「あー、なるほど。連絡が途絶えたのが気掛かりなんでしょう?」
「そうだ、何か知っているのか!?」
「そうですね、簡単に説明すると皇帝陛下が飽きて兵士を連れて帰っちゃったんですよ。それで混乱回避のため傭兵の俺が中陣へとこの情報を伝えようと向かってたとこなんですよ。貴方に伝えたので俺の役目は終わったとみてもいいですかね?」
「そ、そんなバカな…。戦を途中で投げ出しただと…?陛下は何を考えていらっしゃるのだ」
「何も考えていないのでは?」
「うぐっ…そう言われても仕方ないようだな。情報感謝する。急ぎこの情報を伝えなくてはならないので私は先に失礼する!」
そう言うと兵士は馬に跨り中陣へと走り去っていった。
残された傭兵であるジグレイドはあまりの無警戒さに呆れ果てていた。
「もう少し疑うとかないのか?あんな情報普通信じないだろ…。むしろ信じてしまうほどあいつは無能だったってことか?まぁどうでもいいか。あと数日もすれば全員死ぬんだから」
ジグレイドはほくそ笑みながら中陣へと向かうのだった。
「くそっ!まだ決着はつかないのか!?例年であればすでに終わっているだろう!」
例年よりも長引く戦争にボダホン侯爵は自分の責任だというのに周囲に当たり散らしていた。
実際にはボダホン侯爵だけのせいではない。
バルクド帝国側の総指揮官が皇帝アルザーンだという事もあり互いが退かない泥沼の戦と成り果てているのである。
「あのローレンの弟子とかいうのは何をやっているのだ!吾の命令を無視して逃げたのではあるまいな!くそっ!くそっ!くそっ!」
自分は後陣で戦場とは思えない程の贅沢な食事を食べお気に入りの女を侍らせて過ごしているというのに碌な作戦も考えず兵士や組合員には突撃の命令と絶対に退くなと命令するだけ、まさに暗愚といえた。
総指揮官がこんななのにバルクド帝国に対して優勢でいられるのは敵も似たような暗愚であること、そして兵士の練度の差でしかなかった。
バルクド帝国軍はただ槍を構えて突撃してくるだけに対してフェイシル王国軍は生き残る為に命令を受けずとも強襲、挟撃、夜襲、罠とありとあらゆる手を尽くして戦っている。
そのお陰もあってかギリギリ優勢を保てていたのである。
逆にそこまでしないと三倍という数の暴力に耐えられないということでもあった。
すでにバルクド帝国軍は約15000もいた兵が5000を少し超える程度まで減っていた。
しかしフェイシル王国軍の被害もかなりの数となっていた。
約5000が1500程度にまでなっていたのだ。
むしろこの程度の被害で済んでいることが奇跡に等しかった。
それもあと数日の辛抱なのだが、この事を知っているのはただ一人しかいなかった。
バルクド帝国軍 中陣
「なに!?皇帝陛下との連絡が途絶えただと!?まさか勝手に帰ったとかではあるまいな!」
「い、いえ…アルザーン陛下だけではなく後陣自体からの連絡が途絶えております」
「ちっ!余計な手間を増やしやがって!おい、そこのお前!後陣へ行き何が起きたのか確かめてこい!」
「は、はい!」
中陣で指揮を取っている貴族はイライラしながら先日届いた食料にかぶりついた。
それが命取りになるとは思いもせずに…。
後陣の様子見を命じられた兵士は馬を走らせていた。
時はすでに夕刻でありもう間も無く真っ暗な夜となる為、急ぎ後陣へと向かう必要があったのである。
そんな道中で前方から歩いてくる人影が見えた。
この道は一直線で先にはバルクド帝国軍が使用している後陣しかない。
歩いてきている人物は何かしらの情報を持っているだろうと、馬を近くに寄せて話を聞くことにした。
「いくつか尋ねたい事がある。よろしいか?」
「おや?どうしました?俺は今、後陣から
中陣へと向かっている最中なんですが」
「そうか、あんたは後陣から来たんだな?では尋ねたい事がある。後陣の様子はどんな感じだ?」
「あー、なるほど。連絡が途絶えたのが気掛かりなんでしょう?」
「そうだ、何か知っているのか!?」
「そうですね、簡単に説明すると皇帝陛下が飽きて兵士を連れて帰っちゃったんですよ。それで混乱回避のため傭兵の俺が中陣へとこの情報を伝えようと向かってたとこなんですよ。貴方に伝えたので俺の役目は終わったとみてもいいですかね?」
「そ、そんなバカな…。戦を途中で投げ出しただと…?陛下は何を考えていらっしゃるのだ」
「何も考えていないのでは?」
「うぐっ…そう言われても仕方ないようだな。情報感謝する。急ぎこの情報を伝えなくてはならないので私は先に失礼する!」
そう言うと兵士は馬に跨り中陣へと走り去っていった。
残された傭兵であるジグレイドはあまりの無警戒さに呆れ果てていた。
「もう少し疑うとかないのか?あんな情報普通信じないだろ…。むしろ信じてしまうほどあいつは無能だったってことか?まぁどうでもいいか。あと数日もすれば全員死ぬんだから」
ジグレイドはほくそ笑みながら中陣へと向かうのだった。
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