おちゆく先に

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106話

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 「かかれー!一歩も引くな!一人でも多くの敵を殺すんだ!」

今日も湿地帯では両軍が死に物狂いで削り合いを朝から繰り広げていた。
そんな様子を少し離れた場所からモルドたち戦場の狼プグナループスは眺めていた。

「モルドさんあれに合流しなくていいのか?」

「まだいいだろ。正規兵には悪いがギルドの仲間をこんなところで失う訳にはいかないからな。もう少し敵兵の勢いが落ちてから側面を強襲する。それまでみんなに休んでおくよう言っておいてくれ」

「あいよ」


今回の戦争は毎日数百人の戦死者が出ている程酷い戦争だ。
その戦死者を片付けもせずにそのまま同じ場所で戦い続けている。
つい先日も雨が降り足場は泥濘みかなり最悪な事になっている。しかも死体が泥の中に埋まっている可能性すらあるため非常に戦いにくい戦場となっているのである。



ギルドの仲間に十分な休息を与えたモルドは昼過ぎから行動を開始した。
なにも無能な総指揮官の命令通り正面からぶつかる必要はない。
組合員はあくまでも援助の依頼を受けているだけなのだ。もちろん戦争が終わるまでの契約なので戦場から逃げ出す事はできないのだが、軍からの命令を絶対に順守する必要はないのである。

「お前ら側面に移動するぞ」

屈みながら腰丈くらいの植物に紛れてバルクド帝国軍の側面へと回り込みはじめた。

慎重に移動したためなのか側面に到着したのは日が隠れ始める頃になっていた。

「よし、目立つ火魔法はまだ使うなよ。初手は風魔法か土魔法でいくぞ。タイミングはリンダに任せる。発動と同時に強襲だ。そしてセイクリッドホールが発動したらすぐさま撤退だ。リーリャ、撤退のタイミングは任せたぞ」

全員が頷くのを確認してモルドはいつでも突撃できるよう身構えた。
そしてリンダたちによる魔法攻撃がバルクド帝国軍の側面に直撃した。

「「“風よ 風よ 敵を切り裂く 刃となれ エアリルエッジ”!」」

「“土よ 土よ 屈強なる大地よ その屈強なる力をもって 我が敵の悉くを穿つ 槍となれ アースジャベリン”!」

魔法が直撃したのを確認せずにモルドたち戦場の狼はその名に恥じぬ勢いで横っ腹に噛み付いた。
噛み付かれたバルクド帝国側は直ぐに迎撃態勢に移れるはずもなく、戦場の狼に食い散らかされるがままとなっていた。

それも仕方ないといえる。
何せ訓練など受けた事がない農民なのだから。
強襲されて出来た事といえば慌てふためいて混乱を増長させることだけだった。

そして漸く敵の態勢が整いだし反撃に出るかという頃、敵と戦場の狼との間に光り輝く壁が出現した。
もちろんセイクリッドホールだ。

「撤退だ!直ぐに離脱するぞ!」

そのモルドの掛け声を聞く前に戦場の狼全員が撤退を開始していた。

「追え!何をしている!さっさと追わんか!」

後方からそんな怒声が聞こえてくるが戦場の狼はセイクリッドホールのお陰で難無く撤退できた。



「ふー、上手くいったか。これを時間を開けながら繰り返すぞ。リーリャ、良いタイミングだった。次からも頼むぞ」

こうして戦場の狼はジワジワとバルクド帝国軍を疲弊させていった。



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