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101話
しおりを挟むフェイシル王国とバルクド帝国の戦争は例年のような軽い衝突とは違い、まるで地獄のような凄惨な戦になりそうであった。
フェイシル王国側の総指揮官であるボダホン侯爵は長年バルクド帝国へ追撃できていなかったのは剛鬼がいたためだと考え、その剛鬼が死んだ今がバルクド帝国を逆に攻める絶好の機会だと考えたのである。
実際はローレンが深追いなどはせずに撤退していただけなのだが。
この湿地帯での戦が初めてのボダホン侯爵にはそんなことは知る由もなかったし、知っていたとしても追撃をしない理由にはならなかったはずである。
「あの剛鬼が没した今!攻め時である!全軍をもって敵を殲滅せよ!」
勇ましくもボダホン侯爵は後陣から中陣まで上がり、軍の指揮の様なものをとっていた。
そしてそのボダホン侯爵の命令により未だ3倍近くもある敵軍へとフェイシル王国軍は無謀な突撃を敢行する羽目となっていた。
もちろんボダホン侯爵は兵数の差は気がついているが、敵軍の殆どが農民が粗末な槍を持っているだけだという事にも気がついているため3倍の差など関係ないとでも最終的に考え突撃を決めたのであろう。
対してバルクド帝国側はというと…。
「なんて体たらくだ!せっかく牢から出し、将軍にまで戻してやると言ったというのに!碌な武功も挙げずに早々に死ぬとは!」
ログ・ハイローの死によりバルクド帝国皇帝アルザーン・ド・バルクドは憤慨していた。
「し、しかし敵の将軍ローレン・マーガイアとの相討ちとのことですし、少しは役に立ったのではないですか?」
アルザーンの機嫌を良くしようと貴族達は挙って宥めすかす。
「ふん、確かにあの障害が無くなれば数で勝る我が帝国軍の勝利は目の前というものだな。くははははは!」
「そうで御座いますとも。さすが皇帝陛下の差配で御座います」
そして貴族のおべっかに気を良くしたアルザーンはフェイシル王国軍へ数任せの強行突破を敢行すると言い出した。
なぜ誰も止めなかったのか、それはこの会議に参加している誰もが指揮官として戦場一度もに立ったことがなく、基本的に帝都などで悪巧みをする事しかしてこなかったせいであった。
おかげで兵士を数字でしか見ていないため量しか知らず、質というものを無視していた。
もし質の事に気がついたとしても3倍差というのは質だけでは普通覆ることの無い差であるため、結局は強行突破の命令は撤回されることはなかったであろう。
そして両軍が正面からの削り合いという地獄のような戦が始まった。
もちろんその中には戦場の狼の姿もあったし、他の冒険者の姿もあった。
その冒険者は例年とは違う戦に辟易していたが、契約上戦わず離脱するということも出来ないことが災いした形である。
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