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91話
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雨がザーザーと降る中、ジグレイドとカイチガは睨み合っていた。
「なんだ?さっきまでの威勢はどうした?」
ジグレイドは敢えて挑発する。なぜならジグレイドは生身で戦う相手は防ぐだけで弱らせることができるため、自分から斬りかかる必要は全くないからだ。
狼の獣人族であるカイチガは元から気配には敏感である。さらに今は変身を終えており、尚更気配には敏感になっていた。そしてジグレイドから発せられるただならぬ気配を敏感に察知して襲い掛かりたくてもできない状況になっていた。
「グルル…人族風情ガ!ソコマデ言ウナラ、今スグ噛ミ殺シテヤル!」
ジグレイドの挑発にまんまと乗せられてカイチガはジグレイドへと飛びかかった。
常人には見えない速度で飛び掛かるが、生憎ジグレイドの身体能力は魔法で常人よりも遥かに高められており、カイチガの動きがしっかりと見てとれていた。
見てとれているということはもちろん単純な飛びかかりにカウンターを合わせることができるということであった。
当初の予定では飛び掛かってきたところを丸盾で防ぎつつ、猛毒で弱らせて勝つというものだったが、カイチガの動きが思っていたよりも緩慢だったためジグレイドは予定を少し変更して、短槍でカウンターをすることにした。
「はっ!」
カイチガの太い前足が襲い掛かるが、ジグレイドはヒラリと回避してその流れに乗り短槍を振り抜いた。
「グガァァアアア!」
首を狙った一振りだったが身体を捻り肩を切り裂く程度にしかならなかった。普通であればまだ無理をすれば戦える程度の傷だが、この傷を着けた武器が曲者だった。
「ナ、ナンダ…!?」
カイチガは自身の身体に異変が起きたことに戸惑いを隠せなかった。
「どうした?体調でも悪くなったか?あの大猿はそれ以上の状態でも平然と戦い続けていたけどな」
「貴様…コンナ姑息ナ手段デハヌマエンを倒シタノカ!?流石ハ卑怯者ノ人族ダ!」
「卑怯者と言われるのは侵害だな。毒に引っ掛かったのはお前だろ?お前が罠も見破れない間抜けな獣だっただけだろ?責任転嫁はよくないと思うぞ?」
「貴様ァア!我ラ誇リ高キ獣人族ヲ獣扱イスルトハ…余程死ニタイヨウダナ!今スグ食イ殺シテクレル!」
一方、ローレンとログはというと互いに剣撃を浴びせ合いながら会話していた。
「あの獣人族は貴殿の差し金か?どうやら知り合いのようだが?おかげで楽に戦えるはずが苦労する羽目になってしまったではないか!」
「思ってもいない冗談を言うな。奴は一度見たことがある程度だ!」
金属同士が幾度もぶつかり合う音を立てながら死闘を繰り広げていた。
そしてローレンが守っている後方には魔法師団が魔法を放つ準備をしていた。
「団長!いつでも放てます!」
「二人は敵陣中央付近に放って、他は追撃用に魔力を練った状態で待機」
カリーナのいう二人とはファマルとフルクトスだ。前回と同様に二人の合成魔法で敵を焼き払う予定なのだ。
そしてその合成魔法が放たれたと同時に空から何かが続けざまに落ちてきた。
「くっくっく、見つけたぞ。我らの同胞の仇」
空から落ちてきたのは竜人だった。しかも魔法師団を囲うように竜人たちが落ちてきていた。
「なっ!?竜人だと!?」
「団長!囲まれています!周りにいた兵士は次々に何者かに殺されていっています!」
「目的はなに?」
カリーナは団員の報告を聞き流し、一番強そうな竜人に話しかけた。
「そんなのさっき言ったよおー。聞いてなかったのおー?」
だがカリーナの問いに答えたのは隣にいる少女にも見える竜人だった。
「イルル、黙っていろ。話ならば我がする」
「えー、話なんてしなくていいじゃん。どうせ皆殺しにするのにいー」
「それでもだ。我らは話しも聞こうとせぬ人族とは違うのでな。それで目的だったか?それならば多くの同胞を殺した貴様らを殺しに来たと言えばわかるかな?」
未だに文句を言っているイルルを無視してヤズメはカリーナの問いに答える。
「私たちはあなたたち竜人を殺した覚えはない。そちらの勘違いでは?」
「ではこう言えば分かるか?前回ここで起きた戦争で我ら竜人と同盟関係に当たる獣人族の同胞が貴様らの放った魔法で殺されたと」
「それはバルクド帝国に手を貸していたと?それなら攻めてきたそちらが悪い」
いつもとは違って毅然とした態度でカリーナはいい放つ。
「ふっ、我らがあの無能共に加勢だと?冗談でも笑えんな」
「ではなぜ?」
「簡単なことよ。貴様ら人族に捕らえられ奴隷としてこき使われていたのだ!」
「それならば矛先を間違えている。私たちは攻めてくる敵を払っただけ。奴隷としてこき使っていたのはバルクドの方」
カリーナの言うことは正論だった。だがヤズメたちには通じなかった。
「確かにそうだ。だが直接殺したのは貴様らだ。ならば先に殺すのは当たり前だろう?」
ニヤリと笑みを浮かべてそう言うヤズメは片手を挙げて降り下ろした。
まるで攻撃開始の合図のごとく。
「なんだ?さっきまでの威勢はどうした?」
ジグレイドは敢えて挑発する。なぜならジグレイドは生身で戦う相手は防ぐだけで弱らせることができるため、自分から斬りかかる必要は全くないからだ。
狼の獣人族であるカイチガは元から気配には敏感である。さらに今は変身を終えており、尚更気配には敏感になっていた。そしてジグレイドから発せられるただならぬ気配を敏感に察知して襲い掛かりたくてもできない状況になっていた。
「グルル…人族風情ガ!ソコマデ言ウナラ、今スグ噛ミ殺シテヤル!」
ジグレイドの挑発にまんまと乗せられてカイチガはジグレイドへと飛びかかった。
常人には見えない速度で飛び掛かるが、生憎ジグレイドの身体能力は魔法で常人よりも遥かに高められており、カイチガの動きがしっかりと見てとれていた。
見てとれているということはもちろん単純な飛びかかりにカウンターを合わせることができるということであった。
当初の予定では飛び掛かってきたところを丸盾で防ぎつつ、猛毒で弱らせて勝つというものだったが、カイチガの動きが思っていたよりも緩慢だったためジグレイドは予定を少し変更して、短槍でカウンターをすることにした。
「はっ!」
カイチガの太い前足が襲い掛かるが、ジグレイドはヒラリと回避してその流れに乗り短槍を振り抜いた。
「グガァァアアア!」
首を狙った一振りだったが身体を捻り肩を切り裂く程度にしかならなかった。普通であればまだ無理をすれば戦える程度の傷だが、この傷を着けた武器が曲者だった。
「ナ、ナンダ…!?」
カイチガは自身の身体に異変が起きたことに戸惑いを隠せなかった。
「どうした?体調でも悪くなったか?あの大猿はそれ以上の状態でも平然と戦い続けていたけどな」
「貴様…コンナ姑息ナ手段デハヌマエンを倒シタノカ!?流石ハ卑怯者ノ人族ダ!」
「卑怯者と言われるのは侵害だな。毒に引っ掛かったのはお前だろ?お前が罠も見破れない間抜けな獣だっただけだろ?責任転嫁はよくないと思うぞ?」
「貴様ァア!我ラ誇リ高キ獣人族ヲ獣扱イスルトハ…余程死ニタイヨウダナ!今スグ食イ殺シテクレル!」
一方、ローレンとログはというと互いに剣撃を浴びせ合いながら会話していた。
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「思ってもいない冗談を言うな。奴は一度見たことがある程度だ!」
金属同士が幾度もぶつかり合う音を立てながら死闘を繰り広げていた。
そしてローレンが守っている後方には魔法師団が魔法を放つ準備をしていた。
「団長!いつでも放てます!」
「二人は敵陣中央付近に放って、他は追撃用に魔力を練った状態で待機」
カリーナのいう二人とはファマルとフルクトスだ。前回と同様に二人の合成魔法で敵を焼き払う予定なのだ。
そしてその合成魔法が放たれたと同時に空から何かが続けざまに落ちてきた。
「くっくっく、見つけたぞ。我らの同胞の仇」
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「なっ!?竜人だと!?」
「団長!囲まれています!周りにいた兵士は次々に何者かに殺されていっています!」
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「そんなのさっき言ったよおー。聞いてなかったのおー?」
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「えー、話なんてしなくていいじゃん。どうせ皆殺しにするのにいー」
「それでもだ。我らは話しも聞こうとせぬ人族とは違うのでな。それで目的だったか?それならば多くの同胞を殺した貴様らを殺しに来たと言えばわかるかな?」
未だに文句を言っているイルルを無視してヤズメはカリーナの問いに答える。
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いつもとは違って毅然とした態度でカリーナはいい放つ。
「ふっ、我らがあの無能共に加勢だと?冗談でも笑えんな」
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「それならば矛先を間違えている。私たちは攻めてくる敵を払っただけ。奴隷としてこき使っていたのはバルクドの方」
カリーナの言うことは正論だった。だがヤズメたちには通じなかった。
「確かにそうだ。だが直接殺したのは貴様らだ。ならば先に殺すのは当たり前だろう?」
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