おちゆく先に

目日

文字の大きさ
上 下
92 / 126

91話

しおりを挟む
 雨がザーザーと降る中、ジグレイドとカイチガは睨み合っていた。

 「なんだ?さっきまでの威勢はどうした?」
 ジグレイドは敢えて挑発する。なぜならジグレイドは生身で戦う相手は防ぐだけで弱らせることができるため、自分から斬りかかる必要は全くないからだ。
 狼の獣人族であるカイチガは元から気配には敏感である。さらに今は変身を終えており、尚更気配には敏感になっていた。そしてジグレイドから発せられるただならぬ気配を敏感に察知して襲い掛かりたくてもできない状況になっていた。

 「グルル…人族風情ガ!ソコマデ言ウナラ、今スグ噛ミ殺シテヤル!」
 ジグレイドの挑発にまんまと乗せられてカイチガはジグレイドへと飛びかかった。
 常人には見えない速度で飛び掛かるが、生憎ジグレイドの身体能力は魔法で常人よりも遥かに高められており、カイチガの動きがしっかりと見てとれていた。
 見てとれているということはもちろん単純な飛びかかりにカウンターを合わせることができるということであった。
 当初の予定では飛び掛かってきたところを丸盾で防ぎつつ、猛毒で弱らせて勝つというものだったが、カイチガの動きが思っていたよりも緩慢だったためジグレイドは予定を少し変更して、短槍でカウンターをすることにした。

 「はっ!」
 カイチガの太い前足が襲い掛かるが、ジグレイドはヒラリと回避してその流れに乗り短槍を振り抜いた。

 「グガァァアアア!」
 首を狙った一振りだったが身体を捻り肩を切り裂く程度にしかならなかった。普通であればまだ無理をすれば戦える程度の傷だが、この傷を着けた武器が曲者だった。

 「ナ、ナンダ…!?」
 カイチガは自身の身体に異変が起きたことに戸惑いを隠せなかった。
 「どうした?体調でも悪くなったか?あの大猿はそれ以上の状態でも平然と戦い続けていたけどな」

 「貴様…コンナ姑息ナ手段デハヌマエンを倒シタノカ!?流石ハ卑怯者ノ人族ダ!」
 「卑怯者と言われるのは侵害だな。毒に引っ掛かったのはお前だろ?お前が罠も見破れない間抜けな獣だっただけだろ?責任転嫁はよくないと思うぞ?」
 「貴様ァア!我ラ誇リ高キ獣人族ヲ獣扱イスルトハ…余程死ニタイヨウダナ!今スグ食イ殺シテクレル!」



 一方、ローレンとログはというと互いに剣撃を浴びせ合いながら会話していた。
 「あの獣人族は貴殿の差し金か?どうやら知り合いのようだが?おかげで楽に戦えるはずが苦労する羽目になってしまったではないか!」
 「思ってもいない冗談を言うな。奴は一度見たことがある程度だ!」
 金属同士が幾度もぶつかり合う音を立てながら死闘を繰り広げていた。



 そしてローレンが守っている後方には魔法師団が魔法を放つ準備をしていた。
 「団長!いつでも放てます!」
 「二人は敵陣中央付近に放って、他は追撃用に魔力を練った状態で待機」
 カリーナのいう二人とはファマルとフルクトスだ。前回と同様に二人の合成魔法で敵を焼き払う予定なのだ。

 そしてその合成魔法が放たれたと同時に空から何かが続けざまに落ちてきた。

 「くっくっく、見つけたぞ。我らの同胞の仇」
 空から落ちてきたのは竜人だった。しかも魔法師団を囲うように竜人たちが落ちてきていた。

 「なっ!?竜人だと!?」
 「団長!囲まれています!周りにいた兵士は次々に何者かに殺されていっています!」
 「目的はなに?」
 カリーナは団員の報告を聞き流し、一番強そうな竜人に話しかけた。

 「そんなのさっき言ったよおー。聞いてなかったのおー?」
 だがカリーナの問いに答えたのは隣にいる少女にも見える竜人だった。
 「イルル、黙っていろ。話ならば我がする」
 「えー、話なんてしなくていいじゃん。どうせ皆殺しにするのにいー」
 「それでもだ。我らは話しも聞こうとせぬ人族とは違うのでな。それで目的だったか?それならば多くの同胞を殺した貴様らを殺しに来たと言えばわかるかな?」
 未だに文句を言っているイルルを無視してヤズメはカリーナの問いに答える。
 「私たちはあなたたち竜人を殺した覚えはない。そちらの勘違いでは?」

 「ではこう言えば分かるか?前回ここで起きた戦争で我ら竜人と同盟関係に当たる獣人族の同胞が貴様らの放った魔法で殺されたと」
 「それはバルクド帝国に手を貸していたと?それなら攻めてきたそちらが悪い」
 いつもとは違って毅然とした態度でカリーナはいい放つ。
 「ふっ、我らがあの無能共に加勢だと?冗談でも笑えんな」
 「ではなぜ?」
 「簡単なことよ。貴様ら人族に捕らえられ奴隷としてこき使われていたのだ!」
 「それならば矛先を間違えている。私たちは攻めてくる敵を払っただけ。奴隷としてこき使っていたのはバルクドの方」
 カリーナの言うことは正論だった。だがヤズメたちには通じなかった。
 「確かにそうだ。だが直接殺したのは貴様らだ。ならば先に殺すのは当たり前だろう?」
 ニヤリと笑みを浮かべてそう言うヤズメは片手を挙げて降り下ろした。
 まるで攻撃開始の合図のごとく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

いい子ちゃんなんて嫌いだわ

F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが 聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。 おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。 どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。 それが優しさだと思ったの?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

糸と蜘蛛

犬若丸
ファンタジー
瑠璃が見る夢はいつも同じ。地獄の風景であった。それを除けば彼女は一般的な女子高生だった。 止まない雨が続くある日のこと、誤って階段から落ちた瑠璃。目が覚めると夢で見ていた地獄に立っていた。 男は独り地獄を彷徨っていた。その男に記憶はなく、名前も自分が誰なのかさえ覚えていなかった。鬼から逃げる日々を繰り返すある日のこと、男は地獄に落ちた瑠璃と出会う。 地獄に落ちた女子高生と地獄に住む男、生と死の境界線が交差し、止まっていた時間が再び動き出す。 「カクヨム」にも投稿してます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...