おちゆく先に

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89話

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 675年   春   バルクド帝国とフェイシル王国の国境線にある湿地帯には雨が降っていた。
 ザーザーと雨が降りしきる中、湿地帯では激しい戦いが繰り広げられていた。

 バルクド帝国軍はログ・ハイローを全面に押し出しての一転突破で魔法を放とうとするフェイシル王国軍の中央に陣取っている魔法師団へと突き進んでいた。
 案の定組合員では剛鬼を止めることは出来ず簡単に突破されていた。だが組合員の後ろにはローレンとジグレイドが剛鬼を迎え撃つ為に陣取っている。組合員は剛鬼とはまともに打ち合わずに剛鬼の後ろにいる兵士たちを間引くのが役割だったのだが、もちろん作戦を無視して剛鬼へと無謀にも挑んだ組合員もいた。当然剛鬼の振るう大剣で上下に分かたれてしまっていたが。


 「久しいな、ローレン将軍」
 「ああ、ログ将軍もな。前回は貴殿がいなかったせいで出番がなかった」
 「らしいな。それと今は将軍ではなく、ただの兵士だ。してそこの者は?」
 「さすがに私も歳でな、貴殿の相手をするのはしんどくてな。助っ人を頼んだのだよ。紹介しよう私の弟子のジグレイドだ」
 「どうも、お噂はかねがね」
 「なんだ?まだ若いではないか。まだ若いというのに今日殺す気か?」
 「はっはっは、剛鬼ともあろうものが戦場で冗談を言うとはな。貴殿はまだそんな歳ではないだろう」

 二人は気安い感じで会話しているが周りから見ればただの牽制の仕合だった。少しでも隙を見せたら互いが斬りかかる雰囲気が伝わり誰もが固唾を見守っていた。

 「ふっ、敵とはいえこうも何年も顔を逢わせていると気が緩んでしまうな。だが、そろそろ始めようか…」
 途端に重圧感が増す。今まではビリビリした空気だったが今ではズンッと重々しい空気に変わりただの兵士ではその重圧に耐えれずまともに動くことすらできないほどだった。

 「そうだな、私たちは敵同士戦うのみ…2対1だが許せよ」
 ローレンも集中力を高めだした。
 一方ジグレイドはというと、じっと佇んでいるだけだった。別に剛鬼からの重圧で動けないということではない。まずはローレンと剛鬼の戦闘速度に目を慣らす必要があるのである。いくらローレンに弟子入りして強くなったとはいってもまだ全力のローレンには及ばない。ましてや剛鬼にいたってはそのローレンよりも格上なのだ。まずは動きについていけるかという問題があるのである。

 そしてそれは一瞬の出来事だった。
 ガギーンと大気を震わせる激突音が鳴り響いた。
 いつの間にかローレンと剛鬼が両者のいた中央で鍔迫り合いをしていた。
 そして2人がニヤリと笑った。
 それからの戦いは異次元の戦いだった。
 両軍の兵士にはお馴染みだが組合員からすると音だけが鳴り響く戦闘光景というのは初めての経験だった。


 僅かの間に何十と打ち合っていた両者の姿が現れた。
 「俺も衰えたがローレン将軍も衰えたな。互いに以前ほど動きにキレがない」
 周囲からしたら何処がだ!と言いたくなるような発言だが、以前2人からするとだいぶ動きが遅くなっていた。
 「確かにな、もう引退せねばと考えてはいるが…。ログ殿、貴殿はこの数年何をしていた?いや、何をされたが正しいのか?貴殿ともあろうものがそこまで衰えるとはな」
 以前までであればこうも拮抗することは出来なかった。むしろいつも見逃されていた感がしていたのだ。だが今は何とかではあるが拮抗出来ているようにも思えていた。

 「ふっ、少し訓練が出来なかったのでな…」
 「そうか…ジグ!いけそうか!?」
 「ああ、問題ない」
 ローレンの問いかけにジグレイドはそう答え、一歩前へ出てログへと声を掛けた。

 「若輩者なのでお手柔らかにお願いしますよ」
 
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