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672年 夏 バルクド帝国 帝都マグギルにある宮廷のとある部屋にて
「なんだと!?もう一度言え!」
そんな怒声が無駄に豪華な部屋に響き渡った。
「ひっ…み、ミダ様率いる進撃軍は壊滅したとのことです」
兵士は恐々と皇帝であるアルザーンにそう報告する。
「あやつめ…自信満々に任せろと言うから任せてやったというのに!壊滅だと!?ふざけるな!ミダは何処にいる!?」
高級な机に怒りをぶつけながら兵士に問いただす。
「ミダ様は戦場にて敵の攻撃を受けてしまい殉職なさいました」
その報告を聞いたアルザーンは憎さのあまりギリギリと歯軋りをしていた。
「それで…撤退の指揮は誰がとった?ログか?」
アルザーンはログが未だに地下の牢獄に閉じ込められているとは思っておらず、ミダが戦場に連れていっているものと思っていた。
「あ、あの…ログ将軍でしたら未だ地下の牢獄に幽閉されていますが…」
「は?なんだと?ミダはログを連れていかなかったというのか?」
思ってもいなかったことを言われたためアルザーンは一気に怒りが収まり冷静になれたようだった。
「はい、理由までは存じ上げませんがミダ様はログ将軍を連れては行かれませんでした」
「そうか…では誰が指揮をとったのだ?」
「フォーマット伯爵でございます」
「あやつか…後ほど我の元に来るように伝えておけ。それで被害状況はどうなんだ?」
「申し上げにくいのですが…正確な数までは分かっておりません。なにぶん戦場から逃げ出した兵士もいたようでして、それと奴隷も散り散りに逃げたとの報告も上がってきています」
「そうか…どの程度の被害をフェイシルの奴らに与えたのだ?」
今にも怒りが爆発しそうなくらい歯を食いしばりながら兵士に問いただした。
「そ、それが…その…命からがら戻ってきた兵士の話では、その…皆無だったと…」
その報告でアルザーンの我慢が限界に達したようだった。机に拳を振り下ろして怒鳴り散らした。
「ふざけるな!前回よりも!前々回よりも兵士を多く、奴隷も多く連れて行かせたのだぞ!だというのに皆無とはどういうことだ!断じて許せん!ミダの親類を全員処刑にしてくれる!兵士を連れて今すぐ引っ捕らえてこい!」
アルザーンは兵士にそう命令した。だがまだ怒りは全く収まらなかった。
アルザーンの命令を受けた兵士はすぐさま行動に移した。皇帝直々の命令という理由ではない。この命令をしくじれば自分だけでなく自分家族延いては親類までもが処刑されるかもしれないからである。
兵士はまず詰所へと向かい、応援を要請した。
そして宮廷の保管室でミダの親類を手分けして調べ挙げて、その日の内に全員をアルザーンの前へと引っ捕らえて連れてきた。
「皇帝陛下!どういうことなのですか!?我々が何をしたというのです!?我々は陛下に尽くしてきたではありませんか!」
悲痛の叫びをミダの親族が上げている。
「黙るのだ。貴様らの罪を兵士から聞いておらぬのか?」
どうやら兵士の行動が思った以上に素早かったため機嫌が良いみたいである。
「何も聞いておりません!説明してください!陛下の勅命だと言われて一方的に連れてこられたのですから!」
「では説明してやろう。貴様らの罪の重さを!ミダを知っておるよな?貴様らの親類だ。それと我が帝国の法も当然知っておるよな?帝国の法にはこんな条文がある。“其の一、帝国の正常な統治を乱し破壊した者、或はそれらを幇助した者は、国家反逆の罪とし、何人たりとも処断する。其の二、国家反逆の罪を犯した者が逃亡、又はその罪を償う前に死去している場合、その者の親類がその罪を償うこととする。”貴様らも貴族の端くれであるならばもちろん知っておるよな?」
帝国の法律が書かれた本を叩いてアルザーンがミダの親族を問いただす。
「は、はい…存じ上げております。ミダは…ミダは何をしたのでしょうか?」
漸く自分たちの置かれている状況が理解できたのか顔を青ざめて恐る恐るアルザーンにミダが犯した罪を聞く。
「何も知らずに処刑というのは我も可哀想だと思うのでな、心優しい我が教えてやろう。知っているとは思うがミダには戦争の総指揮官を任せていた。本来であれば将軍のログ・ハイローが取るのだがミダがログよりも自分の方が戦果をあげることができるとしつこく我に頼み込んできたのだ。我は信頼する部下がそうまで言うのであればとミダに総指揮官という大役を任せた。もちろんミダが戦争に必要だと言うので人材や物資も我がかなり無理をしてまでかき集めたのだ。結果はどうだったと思うかね?帝国のために無理をしてまで参加した民も多額の金でかき集めた奴隷も我が国の貴重な物資も全て!あやつが無駄に散らしたのだ!これでフェイシルにも大打撃を与えていれば我も罪には問わなかっただろう。だかな!あろうことかフェイシル側の被害は皆無ときた!許せるはずもなかろう!貴様らを処断せねば残った民も納得しないであろう!」
アルザーンは所々に脚色した話を織り混ぜつつその話が事実であるかのように語った。
しかもまるで優しき皇帝であるかのような内容だった。
「み、ミダは…ミダは何処にいるのですか?我々がすぐに連れ戻しますので、どうか…どうか猶予を戴けませんか?」
床に頭を擦り付けながら懇願するが、アルザーンはすぐに却下した。
「ダメだ。ミダならば既に罪を償わずに死んでいる。詳しくは知らぬが敵の魔法でゴミのように死んでいったそうだぞ。分かったか?もう貴様らには処刑されるという道しか残っておらぬのだ。兵士たちよ、逃げ出せぬよう警備は厳重にしておけ。では連れていけ!」
その数日後、ミダの親類は一人残らず民衆の前で斬首にて処刑された。
672年 春 フェイシル王国軍とバルクド帝国軍の戦争はフェイシル王国軍の魔法師団による開幕直後に放たれた魔法により終結した。
戦争によるフェイシル王国側の被害:0名
バルクド帝国側の被害:3194名(生き残りは324名のみ)
第三者によるフェイシル王国側の被害:127名(周囲の警戒に参加した組合員のみ)
バルクド帝国側の被害:0名
「なんだと!?もう一度言え!」
そんな怒声が無駄に豪華な部屋に響き渡った。
「ひっ…み、ミダ様率いる進撃軍は壊滅したとのことです」
兵士は恐々と皇帝であるアルザーンにそう報告する。
「あやつめ…自信満々に任せろと言うから任せてやったというのに!壊滅だと!?ふざけるな!ミダは何処にいる!?」
高級な机に怒りをぶつけながら兵士に問いただす。
「ミダ様は戦場にて敵の攻撃を受けてしまい殉職なさいました」
その報告を聞いたアルザーンは憎さのあまりギリギリと歯軋りをしていた。
「それで…撤退の指揮は誰がとった?ログか?」
アルザーンはログが未だに地下の牢獄に閉じ込められているとは思っておらず、ミダが戦場に連れていっているものと思っていた。
「あ、あの…ログ将軍でしたら未だ地下の牢獄に幽閉されていますが…」
「は?なんだと?ミダはログを連れていかなかったというのか?」
思ってもいなかったことを言われたためアルザーンは一気に怒りが収まり冷静になれたようだった。
「はい、理由までは存じ上げませんがミダ様はログ将軍を連れては行かれませんでした」
「そうか…では誰が指揮をとったのだ?」
「フォーマット伯爵でございます」
「あやつか…後ほど我の元に来るように伝えておけ。それで被害状況はどうなんだ?」
「申し上げにくいのですが…正確な数までは分かっておりません。なにぶん戦場から逃げ出した兵士もいたようでして、それと奴隷も散り散りに逃げたとの報告も上がってきています」
「そうか…どの程度の被害をフェイシルの奴らに与えたのだ?」
今にも怒りが爆発しそうなくらい歯を食いしばりながら兵士に問いただした。
「そ、それが…その…命からがら戻ってきた兵士の話では、その…皆無だったと…」
その報告でアルザーンの我慢が限界に達したようだった。机に拳を振り下ろして怒鳴り散らした。
「ふざけるな!前回よりも!前々回よりも兵士を多く、奴隷も多く連れて行かせたのだぞ!だというのに皆無とはどういうことだ!断じて許せん!ミダの親類を全員処刑にしてくれる!兵士を連れて今すぐ引っ捕らえてこい!」
アルザーンは兵士にそう命令した。だがまだ怒りは全く収まらなかった。
アルザーンの命令を受けた兵士はすぐさま行動に移した。皇帝直々の命令という理由ではない。この命令をしくじれば自分だけでなく自分家族延いては親類までもが処刑されるかもしれないからである。
兵士はまず詰所へと向かい、応援を要請した。
そして宮廷の保管室でミダの親類を手分けして調べ挙げて、その日の内に全員をアルザーンの前へと引っ捕らえて連れてきた。
「皇帝陛下!どういうことなのですか!?我々が何をしたというのです!?我々は陛下に尽くしてきたではありませんか!」
悲痛の叫びをミダの親族が上げている。
「黙るのだ。貴様らの罪を兵士から聞いておらぬのか?」
どうやら兵士の行動が思った以上に素早かったため機嫌が良いみたいである。
「何も聞いておりません!説明してください!陛下の勅命だと言われて一方的に連れてこられたのですから!」
「では説明してやろう。貴様らの罪の重さを!ミダを知っておるよな?貴様らの親類だ。それと我が帝国の法も当然知っておるよな?帝国の法にはこんな条文がある。“其の一、帝国の正常な統治を乱し破壊した者、或はそれらを幇助した者は、国家反逆の罪とし、何人たりとも処断する。其の二、国家反逆の罪を犯した者が逃亡、又はその罪を償う前に死去している場合、その者の親類がその罪を償うこととする。”貴様らも貴族の端くれであるならばもちろん知っておるよな?」
帝国の法律が書かれた本を叩いてアルザーンがミダの親族を問いただす。
「は、はい…存じ上げております。ミダは…ミダは何をしたのでしょうか?」
漸く自分たちの置かれている状況が理解できたのか顔を青ざめて恐る恐るアルザーンにミダが犯した罪を聞く。
「何も知らずに処刑というのは我も可哀想だと思うのでな、心優しい我が教えてやろう。知っているとは思うがミダには戦争の総指揮官を任せていた。本来であれば将軍のログ・ハイローが取るのだがミダがログよりも自分の方が戦果をあげることができるとしつこく我に頼み込んできたのだ。我は信頼する部下がそうまで言うのであればとミダに総指揮官という大役を任せた。もちろんミダが戦争に必要だと言うので人材や物資も我がかなり無理をしてまでかき集めたのだ。結果はどうだったと思うかね?帝国のために無理をしてまで参加した民も多額の金でかき集めた奴隷も我が国の貴重な物資も全て!あやつが無駄に散らしたのだ!これでフェイシルにも大打撃を与えていれば我も罪には問わなかっただろう。だかな!あろうことかフェイシル側の被害は皆無ときた!許せるはずもなかろう!貴様らを処断せねば残った民も納得しないであろう!」
アルザーンは所々に脚色した話を織り混ぜつつその話が事実であるかのように語った。
しかもまるで優しき皇帝であるかのような内容だった。
「み、ミダは…ミダは何処にいるのですか?我々がすぐに連れ戻しますので、どうか…どうか猶予を戴けませんか?」
床に頭を擦り付けながら懇願するが、アルザーンはすぐに却下した。
「ダメだ。ミダならば既に罪を償わずに死んでいる。詳しくは知らぬが敵の魔法でゴミのように死んでいったそうだぞ。分かったか?もう貴様らには処刑されるという道しか残っておらぬのだ。兵士たちよ、逃げ出せぬよう警備は厳重にしておけ。では連れていけ!」
その数日後、ミダの親類は一人残らず民衆の前で斬首にて処刑された。
672年 春 フェイシル王国軍とバルクド帝国軍の戦争はフェイシル王国軍の魔法師団による開幕直後に放たれた魔法により終結した。
戦争によるフェイシル王国側の被害:0名
バルクド帝国側の被害:3194名(生き残りは324名のみ)
第三者によるフェイシル王国側の被害:127名(周囲の警戒に参加した組合員のみ)
バルクド帝国側の被害:0名
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