おちゆく先に

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69話

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 672年 春 国境線の湿地帯にて

 遂に両軍が向かい合い戦争の火蓋が開けられようとしていた。

 「おいおい、あんななりで戦う気なのか?正気とは思えないな・・・」
 「大方無理やり連れてこられて無理やり戦わされているのだろう・・・」
 似たような会話がフェイシル王国軍のいたる所から聞こえてくる。

 「では全軍・・・後退せよ!」
 総指揮官の声が響き渡った。
 作戦はあらかじめ聞いていたが開始早々後退するというのはどうなのだろうと兵士たちは思わなくもないが、巻き添えを食らいたくないので素直に後退を開始した。
 そして王国軍の中央付近には派手なローブを纏った魔法師団と地味なローブを着た女の数名が杖を構えて呪文を詠唱していた。



 バルクド帝国側では、後退していくフェイシル王国軍に突撃するよう命令が下っていた。

 「敵は我らの圧倒的な数に恐れをなして逃げている!全軍突撃いいい!」
 だがバルクド帝国軍が突撃し始めた瞬間、帝国軍の隊列中央付近に炎の渦が突如発生した。

 “ゴオオオオオオオオッ!”という轟音を立てて迫ってくる炎の渦に帝国軍の前方はその炎の渦から逃れるために手に持っていた武器を投げ捨て我先にと逃げていく、だが炎の渦は段々と迫ってきており、正確には炎の渦が段々と大きく成長しているだけで動いていないのだが、逃げ惑う帝国軍には関係なかった。しかし運よく逃げきれた先にはフェイシル王国軍が待ち構えており、前方にいた帝国軍は呆気なく全滅した。



 魔法師団の魔法で敵軍を焼き尽くしているフェイシル王国側では、初めて見るその恐ろしい魔法に戸惑いつつも逃げてくる敵兵を槍で突き殺していた。

 「では団長・・・お願いしますよ!」
 歯を食いしばり額に汗を流してそう言ったのは魔法師団の団員ファマルだった。ありったけの魔力を使ってフルクトスと合成魔法を放ったのだ。すでに立っているのがやっとだったようだ。
 「詠唱はもう済んでる。いつでもいける」
 カリーナはそう言うと総指揮官のオウルーゼルの方を見た。
 「・・・あ、ああ。ではお願いする」
 流石のオウルーゼルも話には聞いていたが初めて見る合成魔法の威力に少しだけ圧倒されていた。だがすぐに許可を待つカリーナに気づき、追撃の許可を出した。その後の魔法に更に驚愕することも知らずに・・・。

 「喰らいつくして・・・“グリムブレイズ”」

 カリーナが魔法を発動させた。すると炎の渦がそれよりも大きな炎に飲み込まれたではないか、まるで炎を喰らう化け物かの如く。
 その化け物のような炎は次第に大きな獣の姿に変わり本当の化け物になった。
 そして未だ必死に逃げている敵軍目掛けて跳躍した。


 「伏せて」
 カリーナの忠告にオウルーゼルは危険を察知した。そして急ぎ声を張り上げ全軍に指示を出した。

 「全員!伏せて身構えろおおおおお!」
 その瞬間、敵軍目掛けて跳躍した巨大な炎の獣が敵陣で爆発した。

 その爆発はバルクド帝国軍の大多数を焼き尽くしただけでなく、その爆風で人だけでなく陣地、地形までも吹き飛ばした。

 遠くで爆発したため爆風になんとか耐えきれたフェイシル王国軍も無傷では無かった。その爆発音のあまりの大きさに耳が一時的にだが聞こえなくなった者が少なからずいた。しかし被害がその程度で済んだのは魔法師団のおかげであった。カリーナの魔法に合わせて防御魔法など数多の魔法で被害を減らしていたのだ。

 「か、カリーナ殿・・・さすがにやりすぎ・・・では?」
 何とか聴力が回復したオウルーゼルはその予想外の威力に唖然としながらもカリーナに話し掛けた。
 「敵に情けは不要」
 「確かにそうだが・・・」
 なおも何か言いたげだったが、今更言っても仕方ないかと諦めたようだ。



 一方、周囲の警戒をしている組合員たちは少し前から亜人の襲撃を受けていた。
 「なんだ!?今の音は!・・・ぐはっ!」 
 「ダメだよおー。戦闘中によそ見何てしたらあー」

 戦いもせずにただただ眺めているだけの龍人がそんなことを言ってくる。
 「くそが!なんで貴様ら亜人は俺たちを襲ってくるんだ!?いい加減答えろ!」
 この警戒班でリーダーをしている組合員の男がイルルにそう問いただすが、
 「えー、どうしよっかなあー・・・やっぱ教えであげないよおー」
 とふざけた答えが返ってくるだけだった。

 そして一番の実力者であったリーダーの男はイルルに対して苛ついたその僅かな隙に大柄な竜人に背後に接近され気づいた時にはもう攻撃を避けることも防ぐこともできずに殺されてしまった。
 「うーん、エジュちゃんどうだった?」
 「最後の人族はなかなかの使い手でしたが、それだけです」
 「さっきの音も気になるけどおー。まだ襲撃しないといけないとこあるし、さっさと終わらせて見に行ってみよおー」
 そして龍人たちは空へと飛び立ち、次の襲撃地点に向かった。



 龍人たちと同時に他の組合員も襲撃を受けていた。
 「だああああ!エルフの次は獣人かよ!最近の戦争は第三者が参戦するのが普通なのか!?」
 愚痴を言いながらも獣人を切り裂いて倒したのはモルドだった。
 「文句言うな!こいつらを捕まえて亜人の拠点を吐かせれば一網打尽にできるだろ!って、殺すなよ!生きたまま捕まえないと尋問できないだろ!」
 モルドに文句を言っているのはジグレイドだ。現在、戦場の狼プグナループスにジグレイドを足した警戒班は獣人族の襲撃を受けていた。

 「なかなかやるようだの・・・儂ら猿人族がこうもやられるとは思いもしなかったぞ」
 「そいつはどうも、それとあんたがリーダーだろ?ちょっと教えてもらいたいんだが・・・答えてくれるよなっ!」
 ジグレイドは銀色の毛皮の猿人族ハヌマエンに話し掛けながら丸盾を構えて突進した。
 「ふうん!・・・答えるとでも思っておるのかっ!?」
 「思っていないなっ!一応聞いてみただけだっ!」

 丸盾とナックルが絶えずぶつかり合う中、二人は会話しながら戦っていた。ジグレイドは生かして捕らえたいがために猛毒の領域が発動しないギリギリのところまで強化して戦っていた。一方、ハヌマエンは何処か余裕のある表情で戦っているように思える。
 ハヌマエンは胴体に鎧を着込み拳にはナックルと金属で守られているため毒にはならずに済んでいた。

 「儂にここまでついてこれるとは、人族にしては強いの・・・だがあのログ・ハイローほどでは、ないっ!」
 「ぐっ!」
 身体強化魔法でかなり強化して、さらに丸盾の上から殴られたというのにジグレイドは5メルくらい殴り飛ばされてしまった。

 「まだまだ、若いもんには負けるわけにはいかんのでな、少し本気を出すとしよう・・・ふんっ!」
 それはハヌマエンが本気を出して戦いだした瞬間だった。

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