おちゆく先に

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63話

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 カリーナ達とオウルーゼルに報告した後、ジグレイドは例の鍛冶師の元に来ていた。

 「おーい!おっさんいないのか?勝手に入るぞー!」
 地下に行くと普段鍛冶仕事をしている鍛冶部屋でおっさんはハンマーを枕にして寝ていた。

 「そんなもん枕にしていたら余計に頭が固くなるぞ!」
 そう言いながら頭を引っ叩いた。

 「ぬおおおおお!なんじゃ!?・・・またお前さんか、今度はなんじゃ?人が気持ちよく寝ておったのに」
 「公爵閣下からの依頼だよ。知らせが来てないのか?」
 「うん?おお!そうじゃった!あの坊主が深層の魔物の素材を近いうちに持ってくるから加工してほしいと来たときは何を馬鹿なことをと驚いたが、お前さんが素材を用意したのなら納得だな」
 「坊主って・・・まあおっさんからしたら公爵閣下も坊主になるのか?まあいい。それで素材はどこに置けばいいんだ?ここか?」
 「まずはものを見せてくれんか?素材によってはここには置けんものもあるのでな」



 「ほうほう・・・これはまた珍しいもん持ってきよったな。ヒュージビスカプリズムとインジェクトヘッジホッグか!」
 「棘の方は知っていたけど、あの巨大な球体はそんな名前なのか?」
 「なんじゃ?知らんのか?だがまあ仕方ないのかもしれんな。こいつは物凄く珍しい魔物でな、まず滅多に人前に出でこんらしい。一説には地中の奥深くに潜んでいるとか言われておったが・・・どこで見つけたんじゃ?」
 「そいつなら空から落ちてきたな。おそらく遠くからジャンプしてきたんだろうが、詳しいことはしらん」
 「ふむ、だがこいつの素材を弄れるとは嬉しいのー」

 今にも頬擦りしそうな勢いのおっさんにジグレイドは手早く要件んを伝えた。
 「とにかくその素材を森に配置しやすいように加工してくれ。なるべく早めにお願いしたいんだが・・・どのくらいで出来そうだ?」
 「うん?そうじゃな・・・どれだけ急いでも2日といったとこだろうな。なにせ数が多いからな1人では流石に限度があるわい」
 「それでも早いと思うんだが・・・まあ頼んだぞ」

 ジグレイドはそれから2日後にまたおっさんの元を訪れて完成した棘状のものを担いで深層の森へと配置しに行った。



 全てを設置し終えたのは冬が明ける頃になってからだった。流石のジグレイドでも雪の積もった森での作業は思っていた以上に過酷であった。そのため設置するのに数ヵ月もの時間がかかったのである。

 そして冬が明けると同時にバルクド帝国軍は再び湿原へ向けて出陣していき、続々と陣を張っていくのだった。




 バルクド帝国 帝都マグギルにある宮廷のとある部屋にて

 「もう任せてはおれん!この我自ら戦陣の指揮をしてやる!」
 「陛下!今少しご再考くださいませ。陛下自ら戦場に赴くなど、万が一のことがあっては私たちは誰に導かれればよいのですか?あのログ・ハイローを使い潰せばよいではないですか」
 アルザーンに嘆願しているのは新たな腹心である大臣だった。元大臣カルグの代わりに新しく傘下の貴族から選んできたのだった。
 「しかしあの脳筋ではちっとも勝てぬではないか!我は先祖の夢を叶えねばならぬのだぞ?」
 「それは重々存じ上げております。なのでここは私に任せてはもらえないでしょうか?私であれば万が一のことがあっても替えはいくらでもいますが、陛下は唯一無二の存在なのです」
 その物言いに気を良くしたアルザーンは、
 「なるほど、分かった!お主のその気概に免じて此度の戦の全権を任せようではないか!」
 「はは!このミダ。全身全霊で陛下のご期待に応える所存でございます!」
 「うむ、では下がってよいぞ」


 アルザーンの元から辞したミダは不敵な笑みを浮かべていた。
 「クックック、漸くこの私の時代がきました!常々思っていたのですよ、ログ将軍のやり方はぬるいとね。まずは兵を徴収してかき集めますかね。数は力なのですよ」

 そしてまた兵役として残り少ない民を根こそぎ戦地へと送り、逆らうものは反逆者として奴隷に落とし無理やり戦地へと送り込んだ。その中にはもちろん亜人奴隷の姿も多くあった。
 そしてミダは徴収した兵士たち(殆ど奴隷)に槍の訓練を一日中させたのである。


 672年 春 再び国境にある湿原にて戦争が始まったのであった。

 バルクド帝国側の保有する戦力はおよそ4000にもなった。だがほとんどがやせ細った民や奴隷であるため、本当に数だけ揃えた感じだった。
 対してフェイシル王国側のカザフ要塞都市の保有する戦力は前回より少なくなったもののまだ一個連隊およそ2500人の歩兵、一個中隊およそ100人の騎兵となっていた。しかもこちらは全員日夜訓練している屈強な兵士である。さらに組合員がおよそ200人ほど参加する予定である。

 数だけで言えばバルクド帝国側が有利だが、そもそもの練度や士気が違うのだ。勝てる見込みなどないに等しいはずだが、バルクド帝国の総指揮官にはこのことが全く理解できていなかったようだ。

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