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62話
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ジグレイドが中層の拠点に帰り着いたのは夕方になってからだった。
中層に入ったところで身体強化魔法の強化を通常に戻して帰ってきたので遅くなったのだ。
そして大量の素材を担いで歩く様は刺々しい魔物の様であった。
「っ!?魔物っ!?みんな魔物だ!」
夕方になり辺りも暗くなり始めていたためジグレイドだとは気が付かずに攻撃態勢をとってきた。
「待って!ジグ、おかえり」
最初に気が付いたのはカリーナだった。
「ああ、ただいま。イクシムが魔物って叫ぶから俺も身構えてしまったよ」
「すまねえ、ジグレイドさんがそんな恰好してるから見間違えたんだ」
「あー・・・それは悪かった。でも素材を採ってくるって言っていただろ?」
「遅すぎ!聞いてない」
「仕方ないだろ?目的に沿った魔物が全然いなかったんだから」
「それが公爵閣下からの依頼の品なのか?」
「そうだな、おそらくだがこれが一番ベストだろうな。この魔物の習性で中層の魔物を追い出せるだろうし」
「とりあえずお腹空いただろうが、もう少し待ってくれ。今作ってるとこなんだ」
どうやら今日はファマルが料理担当のようだ。ファマルが担当の時ははずれだったことがない、これは期待できるな。実は朝食べて以降何も食べていなくて腹ペコだったのだ。
ジグレイドが帰ってきたので一行は翌日からカザフ要塞都市に帰還することになった。
今回の成果としては二つ、まず深緑の森に間違いなく亜人の拠点があること。そしてオウルーゼルからの依頼の達成だ。
なぜ亜人の拠点があると判断したのかというとやはりあの不自然な反応によるものが大きい。
そして帰還開始してからおよそ8日後に漸くカザフ要塞都市に着いた。
カザフ要塞都市に帰還した一行はすぐさま領城へと赴いた。
「魔法師団の団員の一部が随分前に帰還して全員死亡した可能性があると報告してきたのだが、全員無事だったようだな。ひとまず安心したぞ。それでカリーナ殿、今回の遠征での成果をお聞きしても?」
「それはフルクトスから」
「カリーナ様・・・分かりました。ではまず一番の成果として公爵閣下からの依頼の達成です。ジグレイド殿が深層へと赴き素材の確保をしてきました。このことに関しては我々魔法師団は関与しておりません。しいて言えば、素材の荷物運びくらいでしょうか・・・ですので報酬は全額ジグレイド殿にお願いします。次に我々の遠征目的である亜人の拠点探しですが、見つけることはできませんでした。ですが亜人と思われる反応もしくは痕跡は発見しましたので間違いなく深緑の森に亜人の拠点はあると我々は決定付けました。今回の成果としましてはこのくらいになります」
「ふむ、まず儂からの依頼の報酬の件は了解した。それで亜人の痕跡と言ったか?具体的にはどんなものだ?」
「はい、それはカリーナ様の魔力放出探知を行い中層の探索を行っている途中、カリーナ様が妙な反応をキャッチしたのです。その反応は探知に捕らえた瞬間不自然に途切れたと聞きます。重点的に探索したのですが反応のあった周囲には拠点はなかったようで、我々は亜人の斥候部隊もしくは食料調達部隊だと考えております」
「なるほど・・・たしかに不自然だな。カリーナ殿どのように途切れたのか教えてもらえるだろうか?」
「ん、わかった。あの反応は探知を察知した敵が探知を誤魔化した反応だった。どうやったのかは分からない」
「そうか、そういう技術はいくら深緑の森の魔物でも持っていないだろうしな。確実に知的生命体だろうな。亜人と判断した根拠はなんだ?」
「はい、カリーナ様の探知から逃げる速度です。もし人であればそうそう素早く動くことはできません。もちろん例外もいますが・・・。カリーナ様が言うには一瞬で探知範囲から逃れたそうです。再度探知しても誤魔化している反応はなかったそうですから、我々は獣人だと考えて行動していました」
「なるほど・・・分かった。まず間違いなく亜人の拠点は深緑の森にあると思っていいだろう。儂から陛下に報告しておこう。一つ聞くが、途中で帰ってきた魔法師団の団員だが、あれはなぜ帰したのだ?」
「あ・・・それは・・・」
オウルーゼルはただ疑問に思っただけなのだが、フルクトスが言い淀んでしまったため何かがあったと気づいてしまった。
「ふむ、何かあるようだな。報告できないことか?」
「いえ、隠すつもりではないのです。状況的に彼女はそう判断しただけということです」
「どういう状況だったか聞いても?」
「はい・・・」
フルクトスは観念したのか、当時の状況を話し出した。もちろんカリーナとジグレイドの関係は話さずにだが。
「なるほど、要するにその団員はその情報が仲間の命よりも大事だとして帰ってきたのだな?」
「・・・そういうことになります」
「だが深緑の森の魔物は森から出てこない。全ては深緑の森の中で始まり終わる。儂が知っている限りでは主に魔物が多く蔓延っているのは中層からだそうだ。儂らが深緑の森に出向いても浅層にしか行かないことも知っているはずだな?ならば中層のましてイレギュラーで現れた深層の魔物の情報は貴重な戦力よりも重要だと貴殿も考え着くはずだな?」
「・・・閣下の仰る通りです」
「その団員のことも陛下に報告しておこう。最悪任務放棄として罰が下る可能性もある、そのことをその団員に伝えておけ!」
仲間を簡単に見捨てて逃げることをオウルーゼルは嫌悪していた。幼少のころ(初陣は12歳)から長年バルクド帝国と戦ってきたオウルーゼルは何度も民を犠牲にして自分たちだけ逃げていくバルクドの将を見てきた。自分は絶対に味方を見捨てない!そう言い聞かせて育ってきたのである。だから可能な限り戦を避けるし、戦でも被害を最小限に留めようともするのだ。そんなオウルーゼルだからこそ民はこの都市に残り活気が途絶えることなくこの国境線にある要塞を守り維持し続けていられるのである。
中層に入ったところで身体強化魔法の強化を通常に戻して帰ってきたので遅くなったのだ。
そして大量の素材を担いで歩く様は刺々しい魔物の様であった。
「っ!?魔物っ!?みんな魔物だ!」
夕方になり辺りも暗くなり始めていたためジグレイドだとは気が付かずに攻撃態勢をとってきた。
「待って!ジグ、おかえり」
最初に気が付いたのはカリーナだった。
「ああ、ただいま。イクシムが魔物って叫ぶから俺も身構えてしまったよ」
「すまねえ、ジグレイドさんがそんな恰好してるから見間違えたんだ」
「あー・・・それは悪かった。でも素材を採ってくるって言っていただろ?」
「遅すぎ!聞いてない」
「仕方ないだろ?目的に沿った魔物が全然いなかったんだから」
「それが公爵閣下からの依頼の品なのか?」
「そうだな、おそらくだがこれが一番ベストだろうな。この魔物の習性で中層の魔物を追い出せるだろうし」
「とりあえずお腹空いただろうが、もう少し待ってくれ。今作ってるとこなんだ」
どうやら今日はファマルが料理担当のようだ。ファマルが担当の時ははずれだったことがない、これは期待できるな。実は朝食べて以降何も食べていなくて腹ペコだったのだ。
ジグレイドが帰ってきたので一行は翌日からカザフ要塞都市に帰還することになった。
今回の成果としては二つ、まず深緑の森に間違いなく亜人の拠点があること。そしてオウルーゼルからの依頼の達成だ。
なぜ亜人の拠点があると判断したのかというとやはりあの不自然な反応によるものが大きい。
そして帰還開始してからおよそ8日後に漸くカザフ要塞都市に着いた。
カザフ要塞都市に帰還した一行はすぐさま領城へと赴いた。
「魔法師団の団員の一部が随分前に帰還して全員死亡した可能性があると報告してきたのだが、全員無事だったようだな。ひとまず安心したぞ。それでカリーナ殿、今回の遠征での成果をお聞きしても?」
「それはフルクトスから」
「カリーナ様・・・分かりました。ではまず一番の成果として公爵閣下からの依頼の達成です。ジグレイド殿が深層へと赴き素材の確保をしてきました。このことに関しては我々魔法師団は関与しておりません。しいて言えば、素材の荷物運びくらいでしょうか・・・ですので報酬は全額ジグレイド殿にお願いします。次に我々の遠征目的である亜人の拠点探しですが、見つけることはできませんでした。ですが亜人と思われる反応もしくは痕跡は発見しましたので間違いなく深緑の森に亜人の拠点はあると我々は決定付けました。今回の成果としましてはこのくらいになります」
「ふむ、まず儂からの依頼の報酬の件は了解した。それで亜人の痕跡と言ったか?具体的にはどんなものだ?」
「はい、それはカリーナ様の魔力放出探知を行い中層の探索を行っている途中、カリーナ様が妙な反応をキャッチしたのです。その反応は探知に捕らえた瞬間不自然に途切れたと聞きます。重点的に探索したのですが反応のあった周囲には拠点はなかったようで、我々は亜人の斥候部隊もしくは食料調達部隊だと考えております」
「なるほど・・・たしかに不自然だな。カリーナ殿どのように途切れたのか教えてもらえるだろうか?」
「ん、わかった。あの反応は探知を察知した敵が探知を誤魔化した反応だった。どうやったのかは分からない」
「そうか、そういう技術はいくら深緑の森の魔物でも持っていないだろうしな。確実に知的生命体だろうな。亜人と判断した根拠はなんだ?」
「はい、カリーナ様の探知から逃げる速度です。もし人であればそうそう素早く動くことはできません。もちろん例外もいますが・・・。カリーナ様が言うには一瞬で探知範囲から逃れたそうです。再度探知しても誤魔化している反応はなかったそうですから、我々は獣人だと考えて行動していました」
「なるほど・・・分かった。まず間違いなく亜人の拠点は深緑の森にあると思っていいだろう。儂から陛下に報告しておこう。一つ聞くが、途中で帰ってきた魔法師団の団員だが、あれはなぜ帰したのだ?」
「あ・・・それは・・・」
オウルーゼルはただ疑問に思っただけなのだが、フルクトスが言い淀んでしまったため何かがあったと気づいてしまった。
「ふむ、何かあるようだな。報告できないことか?」
「いえ、隠すつもりではないのです。状況的に彼女はそう判断しただけということです」
「どういう状況だったか聞いても?」
「はい・・・」
フルクトスは観念したのか、当時の状況を話し出した。もちろんカリーナとジグレイドの関係は話さずにだが。
「なるほど、要するにその団員はその情報が仲間の命よりも大事だとして帰ってきたのだな?」
「・・・そういうことになります」
「だが深緑の森の魔物は森から出てこない。全ては深緑の森の中で始まり終わる。儂が知っている限りでは主に魔物が多く蔓延っているのは中層からだそうだ。儂らが深緑の森に出向いても浅層にしか行かないことも知っているはずだな?ならば中層のましてイレギュラーで現れた深層の魔物の情報は貴重な戦力よりも重要だと貴殿も考え着くはずだな?」
「・・・閣下の仰る通りです」
「その団員のことも陛下に報告しておこう。最悪任務放棄として罰が下る可能性もある、そのことをその団員に伝えておけ!」
仲間を簡単に見捨てて逃げることをオウルーゼルは嫌悪していた。幼少のころ(初陣は12歳)から長年バルクド帝国と戦ってきたオウルーゼルは何度も民を犠牲にして自分たちだけ逃げていくバルクドの将を見てきた。自分は絶対に味方を見捨てない!そう言い聞かせて育ってきたのである。だから可能な限り戦を避けるし、戦でも被害を最小限に留めようともするのだ。そんなオウルーゼルだからこそ民はこの都市に残り活気が途絶えることなくこの国境線にある要塞を守り維持し続けていられるのである。
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