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61話
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深緑の森 深層の某所にて
「人族が我らの森をうろついているだと!?何処で見かけた?」
「え、えっと中層の深層側です。川の魚を捕っていたら人族が近寄ってきたので逃げてきました」
「なるほど中層までなら暫くの規制で大丈夫そうだな・・・もう行っていいぞ」
この偉そうに話しているエルフの男はこの隠れ里をクォムボーラから任されている長の一人である。
さらにこの男に質問されている者はジグレイドたちが川辺の探索を行っている時に一瞬だけ探知した者と同一人物であった。
それから数十日が過ぎ里長会議でももう中層の規制は必要ないのでは?と言われていた。
だが突如、毎朝開いている里長会議に獣人の兵士が飛び込んできた。
「騒々しいぞ!何事だ!」
とエルフの男が叫ぶ
「何があったんじゃろうか・・・」
と覇気のない声で狐獣人の女がぼやく
「この慌てようだと厄介ごとな気がするな」
と落ち着いた様子のドワーフの男が呟く
この三人が隠れ里の長である。そして駆け込んできた狼獣人の男は息を切らせながらなんとか喋りだした。
「きん、きゅう事態で、す!周囲へ、食料を、確保しに行っ、た部隊が帰還したのですが、全員毒で亡くなりました」
「は?あれほど言ったのに魔物と交戦したのか!?」
「い、いえ!交戦した形跡は見当たりませんでした!」
「ならなおさら訳が分からんではないか!そいつらからは何か聞き取れたのか?」
「少しだけですが・・・棘の生えた人族の様な魔物とだけ」
「毒の棘と言ったらあの魔物だろうな・・・だが人族の様な魔物と言っておったのなら違うのかもしれんな」
「今日の調達部隊はうちら獣人族だったね・・・悲しいことじゃ」
「悲しんでいる場合か!原因の魔物の特定を急がねば容易に里の外に出れないぞ!」
「落ち着け、とにかくそやつらは毒で死んだのだな?」
「はい、息も絶え絶えで帰ってきてからすぐに亡くなりました・・・」
「ではそやつらを丁重に弔ってやれ、そやつらがいなければ毒の魔物が判明するまでに何名の死者が出ていたことかわからんのでな」
「わかりました!」
立ち去っていく狼獣人の兵士を見送った後、三人は毒の魔物への対処について話し合うのだった。
この隠れ里の他にあと数か所クォムボーラが作った隠れ里がある。それらの隠れ里とは定期的に報告会を開いている。その報告会にはクォムボーラの幹部も偶にだが参加することがある。
結局どんな魔物かも判明していないためどう対処していいのか分からず、深緑の森に詳しいクォムボーラの幹部に尋ねることにして、三人は幹部が次の報告会に来てくれることを切に願った。
深緑の森 深層にあるクォムボーラの拠点にて
「では定期報告会を始める。まずはククルカからだ」
「はい、知っての通り私はドバノン様と共に魔道具の研究開発をしていました。今回の成果は一つだけとなります。実物は「はぁ!?一つだけだと!?怠けてたんじゃねーのか!?」・・・実物はこちらになります。こちらは短剣を魔道具化してい「おい!聞いてんのか!?」・・・していますが特殊な武器でない限りはどの武器でも魔道具化が可能です。魔道具の効果の一覧はこちらになります」
ククルカの話の途中にちょいちょい割り込んできたのはもちろんカイチガだ。
「おいおい、ククルカさんよ!なんで無視するんだ?」
さすがに耐えかねたのかハヌマエンが止めに入った。
「カイチガ少し黙っとれ!この短い期間に魔道具を一つ完成させただけでも素晴らしいことだ」
「っけ!ハヌマエン様はお優しいことで」
「・・・質問などはありますか?」
ククルカが見回すが誰も質問がないようだった。
「では次はカイチガ、お前だ。それだけ大口が叩けるのならさぞかし良い手柄を立てたのだろう?」
挑発的な笑みを浮かべてヤズメはカイチガを指名する。
「当たり前だ!俺の部隊は東の大国ヘルフィス共和国の奴隷商を襲い200名近くの同胞を開放したぜ!一緒に来る奴はちゃんと隠れ里まで送り届けるアフターフォロー付きだ!どうだ!?」
「くっくっく、確かに十分な働きだ!」
「さすがリーダーだぜ!どっかのエルフとは違う」
「おい、今のは聞き捨てならんの!」
食って掛かったのはエリックだ。
「あ?なんだ?前回唯一失敗したエリックさんじゃねーか!どうした?何か聞こえたのか?」
何も反論できないエリックは“ぐぬぬ”と唸り黙るしかなかった。
「はぁ・・・カイチガそこいらでやめておけ。エリック殿もクォムボーラの仲間なのだからな」
「っち!」
「では次はイルルだ」
「今回はバルクドの都市を転々として情報を集めていたんだけどおー、あの国やばいよねえー。またすぐに戦争しようとしているんだもん。ほんと人族って争いが好きだよねえー」
「ふむ、イルルそれは本当だな?」
「もちろんだよおー。他なら知らないけどヤズメ様の前で嘘なんてつかないって」
「そうか・・・また戦争するのであれば我々クォムボーラも動くしかないな。戦争時の役割分担は今度だ。情報の精査が必要だからな。ハヌマエン、ガガルド問題は?」
「いえ、特に儂の担当区ではなかったの」
「こっちもじゃ」
隠れ里には秘密にしているがハヌマエンとガガルドは各隠れ里の周囲を定期的に見回っていて、周囲の魔物の間引きを行っているのである。
「そうか、ならば解散だ。貴様らぬかるなよ」
リーダーのヤズメが出ていくとイルル、カイチガが続いて出ていった。残った幹部は自分に合った武器を新しい魔道具としてもらうようだった。
「人族が我らの森をうろついているだと!?何処で見かけた?」
「え、えっと中層の深層側です。川の魚を捕っていたら人族が近寄ってきたので逃げてきました」
「なるほど中層までなら暫くの規制で大丈夫そうだな・・・もう行っていいぞ」
この偉そうに話しているエルフの男はこの隠れ里をクォムボーラから任されている長の一人である。
さらにこの男に質問されている者はジグレイドたちが川辺の探索を行っている時に一瞬だけ探知した者と同一人物であった。
それから数十日が過ぎ里長会議でももう中層の規制は必要ないのでは?と言われていた。
だが突如、毎朝開いている里長会議に獣人の兵士が飛び込んできた。
「騒々しいぞ!何事だ!」
とエルフの男が叫ぶ
「何があったんじゃろうか・・・」
と覇気のない声で狐獣人の女がぼやく
「この慌てようだと厄介ごとな気がするな」
と落ち着いた様子のドワーフの男が呟く
この三人が隠れ里の長である。そして駆け込んできた狼獣人の男は息を切らせながらなんとか喋りだした。
「きん、きゅう事態で、す!周囲へ、食料を、確保しに行っ、た部隊が帰還したのですが、全員毒で亡くなりました」
「は?あれほど言ったのに魔物と交戦したのか!?」
「い、いえ!交戦した形跡は見当たりませんでした!」
「ならなおさら訳が分からんではないか!そいつらからは何か聞き取れたのか?」
「少しだけですが・・・棘の生えた人族の様な魔物とだけ」
「毒の棘と言ったらあの魔物だろうな・・・だが人族の様な魔物と言っておったのなら違うのかもしれんな」
「今日の調達部隊はうちら獣人族だったね・・・悲しいことじゃ」
「悲しんでいる場合か!原因の魔物の特定を急がねば容易に里の外に出れないぞ!」
「落ち着け、とにかくそやつらは毒で死んだのだな?」
「はい、息も絶え絶えで帰ってきてからすぐに亡くなりました・・・」
「ではそやつらを丁重に弔ってやれ、そやつらがいなければ毒の魔物が判明するまでに何名の死者が出ていたことかわからんのでな」
「わかりました!」
立ち去っていく狼獣人の兵士を見送った後、三人は毒の魔物への対処について話し合うのだった。
この隠れ里の他にあと数か所クォムボーラが作った隠れ里がある。それらの隠れ里とは定期的に報告会を開いている。その報告会にはクォムボーラの幹部も偶にだが参加することがある。
結局どんな魔物かも判明していないためどう対処していいのか分からず、深緑の森に詳しいクォムボーラの幹部に尋ねることにして、三人は幹部が次の報告会に来てくれることを切に願った。
深緑の森 深層にあるクォムボーラの拠点にて
「では定期報告会を始める。まずはククルカからだ」
「はい、知っての通り私はドバノン様と共に魔道具の研究開発をしていました。今回の成果は一つだけとなります。実物は「はぁ!?一つだけだと!?怠けてたんじゃねーのか!?」・・・実物はこちらになります。こちらは短剣を魔道具化してい「おい!聞いてんのか!?」・・・していますが特殊な武器でない限りはどの武器でも魔道具化が可能です。魔道具の効果の一覧はこちらになります」
ククルカの話の途中にちょいちょい割り込んできたのはもちろんカイチガだ。
「おいおい、ククルカさんよ!なんで無視するんだ?」
さすがに耐えかねたのかハヌマエンが止めに入った。
「カイチガ少し黙っとれ!この短い期間に魔道具を一つ完成させただけでも素晴らしいことだ」
「っけ!ハヌマエン様はお優しいことで」
「・・・質問などはありますか?」
ククルカが見回すが誰も質問がないようだった。
「では次はカイチガ、お前だ。それだけ大口が叩けるのならさぞかし良い手柄を立てたのだろう?」
挑発的な笑みを浮かべてヤズメはカイチガを指名する。
「当たり前だ!俺の部隊は東の大国ヘルフィス共和国の奴隷商を襲い200名近くの同胞を開放したぜ!一緒に来る奴はちゃんと隠れ里まで送り届けるアフターフォロー付きだ!どうだ!?」
「くっくっく、確かに十分な働きだ!」
「さすがリーダーだぜ!どっかのエルフとは違う」
「おい、今のは聞き捨てならんの!」
食って掛かったのはエリックだ。
「あ?なんだ?前回唯一失敗したエリックさんじゃねーか!どうした?何か聞こえたのか?」
何も反論できないエリックは“ぐぬぬ”と唸り黙るしかなかった。
「はぁ・・・カイチガそこいらでやめておけ。エリック殿もクォムボーラの仲間なのだからな」
「っち!」
「では次はイルルだ」
「今回はバルクドの都市を転々として情報を集めていたんだけどおー、あの国やばいよねえー。またすぐに戦争しようとしているんだもん。ほんと人族って争いが好きだよねえー」
「ふむ、イルルそれは本当だな?」
「もちろんだよおー。他なら知らないけどヤズメ様の前で嘘なんてつかないって」
「そうか・・・また戦争するのであれば我々クォムボーラも動くしかないな。戦争時の役割分担は今度だ。情報の精査が必要だからな。ハヌマエン、ガガルド問題は?」
「いえ、特に儂の担当区ではなかったの」
「こっちもじゃ」
隠れ里には秘密にしているがハヌマエンとガガルドは各隠れ里の周囲を定期的に見回っていて、周囲の魔物の間引きを行っているのである。
「そうか、ならば解散だ。貴様らぬかるなよ」
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