おちゆく先に

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49話

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 薄暗くなった部屋でジグレイドは目が覚めた。

 「・ ・・うっ。あれ?もう夜なのか!?」
 本人はまったく自覚をしていなかったが身体は疲れ果てていたのだろう、ジグレイドは今は気づいていないが実は丸一日寝ていたのである。だがそんなことには気づかずジグレイドは昼過ぎくらいに寝たはずなのにもう夜か、仮眠とりすぎたなと思っていた。

 宿の食堂に降りると案の定女将に心配された。
 「大丈夫なのかい?ずっと寝ていたみたいだけど・・・」
 「はい、仮眠のつもりだったんですけどね。まさか夜まで寝てしまうとは思いませんでした」
 「え?気づいていないようだけど、君丸一日起きなかったんだよ」
 「え・・・?じゃあ今は泊りにきた翌日ってことですか?」
 「残念ながらそうなるね、今日の分の宿代は取らないからメシでも食べな!お腹空いているだろ?」
 「ありがとうございます。じゃあ食事をお願いします」
 「あいよ!席について待っていておくれ」


 食事を終えたジグレイドは荷物を持って例の鍛冶師のところへ来ていた。

 今度は床を持ち上げる様なことはせずに抜け道から店に入っていった。

 「お?お前さんはヒュドラじゃないか!」
 抜け道を出た直後にドワーフのおっさんに出くわした。そしてこの一言である。
 「おい、俺は魔物になった覚えはないぞ!人聞きの悪いことを言うな!せっかく良いもん持ってきてやったのに・・・」
 「お?なんだ?酒か?」
 流石ドワーフ族は大の酒好きと言われているだけはある。

 「なわけないだろ!?素材だよ!そ・ざ・い!あんたらドワーフ族は酒の事しか頭にないのか!?」
 「なんじゃ?なにを当たり前のことを言っておるのだ」

 「・・・」

 「あー、なんじゃ・・・すまん。最近はここいらの酒は不味くてな、ちとおかしくなっておったわ」
 ジグレイドの冷たい視線に耐え切れなくなったのか素直に謝ってきた。
 「別にいいさ。それで素材はいるのか?」
 「そうだな、儂くらいまでなると素材も一級品のもんじゃないと扱わんことにしておるのだ。まずはお前さんが持ってきたもん見せてくれんかの?」
 「別に売りに来たわけじゃないが、まあいいか」

 背負っていた背嚢を下ろし次々と魔物の素材を取り出した。
 するとおっさんの顔がみるみる変わっていった。
 「お、おい!お前さんどこに行ってきたのじゃ!?これらは明らかにヒュドラには劣るがどれも一級品以上の素材じゃないか!それにこいつはキングモスの鱗粉じゃないか!?どこでこれを!?」


 キングモスは近付くだけで麻痺や毒、睡眠など様々な状態異常を引き起こす鱗粉を常時周囲に散布している。そのため気付かずに近付いたらいつの間にか殺されているという恐ろしい魔物として言い伝えられている。なぜ伝わっているだけなのかというとこの魔物を見て生き残っていた者が殆どおらず基本的に死んでいるからである。
 だがキングモスが散布した鱗粉は毒性の塊のような物であるのに対して散布前の鱗粉は毒性がなく希少な薬として言い伝われているのでキングモスを探す組合員は少なからず存在するが未だに発見報告はないことになっている。
 そもそも言い伝えではキングモスの姿形は残ってはおらず、ただのヴェノムモスをキングモスだと言い張って組合に持ち込む人もいるとか。


 素材を手に取りはしゃぐおっさんにこのままだと永遠とはしゃいだままだと思い話し掛けた。
 「おっさん!それでいるのか?それと一つ頼みたいことがある」
 「全部売ってくれ!どの素材も一級品どころではない!そもそもこの素材はまだ儂くらいしか加工できんはずじゃ!・・・ん?頼みじゃと?なんじゃ?」

 頼みがあると聞いてすぐに顔の緩みを元に戻すおっさん
 「数本でいいから投げナイフにも使える短剣を打ってくれ。もちろんこの素材は全部やるよ。どうだ?」
 「なんじゃ・・・そんなことか。そんくらいならいくらでも作ってやるわい。そうだな・・・3日後にまたこい」
 「ありがとう。また来る」

 そしてジグレイドは一先ず宿に戻ったのだった。



 ジグレイドがおっさんに会いに行っている頃の組合では少し騒ぎになっていた。

 「おい、聞いたか?」
 「なにがだよ?」
 「なんでもあの全身鎧男が帰ってきたらしいぜ?」
 「は?誰だそれ?」
 「覚えてねーのか?あの禍々しい鎧の男だよ」
 「あー!あいつか!戻ってきたのか!?あいつ深緑の森に行くって言ってなかったか?」
 「らしいぜ。確かに言っていたが逃げ帰ってきたんじゃねーか?」
 「そうか!そうだよな!森の魔物にやられてどこぞで養生していたのかもな!ぎゃはははは」

 そんな会話を繰り広げながら組合に併設された酒場で飲んだくれているパーティーがいた。その周りも似たような会話が繰り広げられいた。
 その十数分後に件の鎧男が組合に現れた。

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