おちゆく先に

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43話

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 組合を出たジグレイドは依頼が無くとも元々修行のために深緑の森には向かうつもりだったため、フル装備のまま必要になると思われるものを買い集めていた。

 買い物してる最中にも店員から怯えられるため『うーん、そんなにこの鎧見た目怖いかなー?確かに少し禍々しい感じはするけどかっこいいと思うんだけどな』とか内心考えていた。


 終始怯えられながらの買い物も終わりジグレイドはカザフ要塞都市の東門から外へと出て深緑の森に向かって歩いて行った。
 「それにしてもこの鎧軽いしそんなに暑くもならないし蒸れないなんて、あのおっさん凄いな。そういえば名前聴くの忘れてたけど・・・気にしなくていいか」
 そんなことを考えつつ北東へと6キルほど歩くと深緑の森へと辿り着いた。


 「さて・・・ここからは修行だ。きっとここには格上の魔物が沢山いるんだろうが早く強くなるためにはそういう魔物と連戦するしかないはず」
 そう呟き気合を入れ直し、まだ日が落ちて暗くなるまでは時間があるので深緑の森へと足を踏み入れたのだった。



 深緑の森を歩くこと数時間、ジグレイドは未だに魔物を見かけてすらいなかった。

 『なんでだ?深緑の森といえば魔物の巣窟だと聞いていたんだが・・・魔物の姿が見えないな』魔物の姿は見えないが念のため警戒しつつ森を歩いていた。
 ジグレイドが現在歩いている場所は深緑の森の浅層であり、基本魔物は中層から生息しているのである。もちろん浅層にもいることはいるのだが、滅多に現れない魔物であるしさほど凶暴でもない。しかし中層から現れる魔物は好戦的かつ凶暴なので縄張り争いが活発で常日頃から戦いに明け暮れている。深層にいたっては入って出てこられたものは殆どおらず真の魔境とまで言われているほどである。


 ジグレイドはその日、魔物とは出会わずに夜を迎えた。
 丁度いい感じの木のうろがあったので今日はここに背を持たれながら仮眠をとることにしたのだった。もちろん警戒を怠ってはいない。

 夜の間に魔物からの襲撃もなく無事に朝を迎えることができたジグレイドは2日目も深緑の森の深層へと歩きだすのだった。

 深緑の森の浅層は人族の足ではおよそ3日間歩かなければ中層に辿り着けない。そのため未だにジグレイドは浅層を歩いていたのだが、運良く?中層の魔物が狩りをしに浅層まで出てきていた。
 “カサッ、カサカサッ”そんな音が聴こえてきたので、すぐさま丸盾と短槍を手に取って身構えた。

 「・・・これは囲まれたかな?」

 本来ならば魔物が連携を取ってくることなんて稀にしかないのだが、深緑の森の魔物は違う。常日頃から戦いに明け暮れているため個体で弱いものは連携を行い、強いものはより強いものが生き残っているのである。

 ジグレイドは囲まれつつあるためなるべく大きな樹を背にして迎え撃つことにした。
 警戒しながらジリジリと樹の元へと移動するが、辿り着く前に魔物が襲い掛かってきた。

 「ちっ、もう少し待てよ!」
 舌打ちしながら身体強化魔法を強めた。
 “グシャアア”そんな鳴き声と共に襲い掛かってきたのは体長1メルほどもある緑色のアリだった。
 アリはジグレイドの左側(盾側)を除く3方向から2匹ずつが一斉に襲い掛かってきた。
 「低能な虫の魔物のくせに連携とかしてくるんじゃねーよ!」
 そう言って正面から飛び掛かってきたアリ2匹を丸盾で殴って弾き飛ばし、残りの4匹を短槍で薙ぎ払った。

 1番遠くにいたアリだけが両断を免れたが前足が両方とも切断されていて動きを止めていたのだが、両断した本人も動けなかった。
 短槍のあまりの斬れ味に驚愕していたのだった。すぐに我に返り前足を失ったアリへとトドメを刺すべく近寄り剣技でいう袈裟斬りを短槍でしかも片手でやってみた。

 “ズリュ”斬った音ではなく斜めに斬られたアリの半身がずり落ちる音しか鳴らなかった。

 「まじかよ・・・斬れ味良すぎて下手なことしたら怪我じゃ済まないな」
 再度驚き残りの2匹を倒すために振り返ったのだが、その先には未だに起き上がっておらずピクピク痙攣しながら倒れ伏しているアリが2匹いるだけだった。

 それもそのはずで最初の2匹は一瞬のうちに斬り倒したため分からなかったが、このヒュドラでできた装備に触れるだけで猛毒状態になり、まず普通の魔物であるならまともに動けなくなるのだ。もちろんこの特殊能力を使うには条件があるのだが、まだジグレイドはこの特殊能力のことすら知らない。

 「あれ?なんでピクピク震えて動かないんだ?」
 猛毒により痙攣しているアリを警戒を解かずに不思議そうに眺めていると次第にアリは動かなくなってきて最終的に死んでしまった。
 「ふーん、なんでかは知らないけどこの装備毒みたいな効果があるのか・・・あとで試してみるか」

 そんなことを考えつつアリの死体を放置して再び深層に向けて歩き出した。
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