おちゆく先に

目日

文字の大きさ
上 下
41 / 126

41話

しおりを挟む
 おっさんの鍛冶屋からジグレイドは一週間ひたすら引きこもり生活により鈍りまくった身体を元に戻そうと訓練していた。

 「全然だめだ・・・一週間程度じゃ元には戻らないか。できれば万全の状態で新しい装備を身につけたかったがこればっかりは仕方ないな」
 今まで休憩していたジグレイドはため息を吐きつつ立ち上がった。

 「さて、行くか」



 鍛冶屋に着いたジグレイドは中に入った途端固まった。

 「おい、まさかとは思うがまたあの床を持ち上げないといけないのか?おい、おっさん!開けてはくれないのか!?」
 だが無情にも返事はない。ただ目の前に例のボタンが置いてある机があるのみ。

 ジグレイドは深くため息を吐きボタンを押した後、身体強化魔法を使い乱暴に床を持ち上げた。


 地下に降りたジグレイドはどこにおっさんがいるのか分からないので声を掛けてみた。
 「おっさーん、どこだー?」すると少し離れたところで土の壁が動いた。

 「お、やっと来たか!装備なら完璧だぞ!着いてこい」
 「本当にここはビックリ地下空間だな。まさか土の壁が回転するとは思わなかったよ」
 「ガハハ、自慢の家だからな!まだまだ隠し部屋はあるぞ!もちろん隠し通路もな!」
 最後の言葉にジグレイドは何かが引っ掛かった。
 「なあおっさん一つ聞いていいか?まさかとは思うがあの床持ち上げなくてもこの地下空間に来れるんじゃないのか?」
 「うん?当たり前だろうが!あんな床お前さん以外の人族には開けられんぞ。そもそも客用の通路教えただろう?・・・ん?教えたよな?」
 「・・・。」
 無言で見詰めるジグレイドにおっさんはダラダラと汗を流しはじめた。
 「ガハハハハ、すまん!忘れ取ったわ!お前さんまたあの床を持ち上げてきたのか、すまんの!」
 ジグレイドは深くため息を吐き
 「もういいよ・・・早く新しい装備を見せてくれ」
 力なく項垂れておっさんを急かすのだった。



 お試し用の地下部屋に連れてこられたジグレイドは目の前に飾られた銀灰色の装備を見つけた。
 「おー、これが俺の新しい装備か・・・」
 少し禍々しいがあの災厄の魔物を使った装備なのだから仕方ないだろう。

 「おう、早速着てみてくれ。最後の調整するからよ。あ、そうそうそのシャツとズボンを装備の下に着てくれ」
 言われた通りに手早くシャツとズボンを着替えてからグリーブ、鎧、篭手、最後にヘルムを身に着けた。

 「おー、ピッタリですね。しかもかなり軽い。これなら長時間の移動も楽になりますね」
 「ふむ、ちと調整が必要だな。ここをこうして・・・これでどうだ?ちと動いてみろ」

 軽くストレッチのような動きをしてジャンプしてみるが、金属鎧のガシャガシャという音は全くと言っていいほど鳴らなかった。

 「すごいですね!軽い上に音も鳴らないなんて!最高の鎧ですよ!」
 興奮気味に捲し立てるジグレイド
 「ガハハハ、それがこの合金のいい所でもあるからな!しかも素材が極上だからな、軽いし音も鳴らない、そしてなんといっても丈夫だ!そんじゅそこらの攻撃を受けても傷一つつかねーぞ。こっちも試しに使ってみろ」

 渡されたのは例の短槍と丸盾であった。短槍は黒に近い灰色になっていて、盾は何故か真っ黒になっていた。
 「な、なんか黒くなってません?合金って銀灰色なんですよね?」
 「なわけないだろう、配合によって変わるぞ。槍の方はヒュドラの牙とウーツ鋼の合金を穂先にして、柄はヒュドラの骨とウーツ鋼との合金でできとる。盾はヒュドラの鱗、骨、角とウーツ鋼の合金だ!盾はヒュドラの素材を多く使ったから黒くなっておるんだろうな」

 「随分大盤振る舞いですね・・・本当に金貨300枚でいいのですか?」
 大量のヒュドラの素材を使用していることに気づいたジグレイドは怖くなって尋ねてみた。
 「ガハハハ、言っただろう?儂は金には困っとらん!それに残り短い余生に金はもう必要ないんじゃ!それに将来有望な若者に安くいい装備を提供するのが儂の趣味みたいなもんなんじゃ、気にするでない!ほれ、さっさと試してみろ!」
 ジグレイドはおっさんに感謝しつつそんな装備を復讐に使おうとしていることに罪悪感を覚えたのだが、『すべてが終わってから謝りに来て怒られよう』と思い試し振りをし始めた。

 「どうじゃ?違和感のあるとこはあるか?なんでも言え、調節してやるぞ」
 何から何まで完璧主義?のドワーフ
 「いえ、全く違和感ないですね。こんなにしっくりきた装備は初めてですよ!この盾も素晴らしいですね!」
 大絶賛のジグレイドにおっさんは満足そうな笑みを浮かべて
 「ガハハハハ、なら儂の仕事はここまでじゃな!その装備でお前さんが何をなしても何も言わんお前さんの思うように生きろ!それが儂の言える唯一の言葉だな・・・ただ弱者を一方的に痛めつけるようにはなってほしくはないがの」
 最後に少し寂しそうに笑いながらそう言うとお代も受け取らずに部屋から出て行ってしまった。

 「え?おっさん・・・?」
 『まさか目的が復讐だとすでにバレている?』と思いジグレイドは呆然と立ち尽くすがすぐに立ち直り、おっさんが出ていった方へと深く頭を下げた。

 それから近くに置いてある机に金貨300枚が入っている皮袋を置き外へと歩き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

糸と蜘蛛

犬若丸
ファンタジー
瑠璃が見る夢はいつも同じ。地獄の風景であった。それを除けば彼女は一般的な女子高生だった。 止まない雨が続くある日のこと、誤って階段から落ちた瑠璃。目が覚めると夢で見ていた地獄に立っていた。 男は独り地獄を彷徨っていた。その男に記憶はなく、名前も自分が誰なのかさえ覚えていなかった。鬼から逃げる日々を繰り返すある日のこと、男は地獄に落ちた瑠璃と出会う。 地獄に落ちた女子高生と地獄に住む男、生と死の境界線が交差し、止まっていた時間が再び動き出す。 「カクヨム」にも投稿してます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...