伝えたい、伝えられない。

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11.デート(中編)

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 ホラーハウスを出たときには、真緒はげっそりしていた。髪が乱れて息も絶え絶えの様子だ。
 ホラーハウス突破記念に、念願叶ってマスコットを二体もらった。
「ちょっと休憩しようか」
 ベンチを見つけ、真緒を座らせた。
「髪の毛、整えたほうがいいんじゃないかな」
 せっかくのきれいな髪が、と創平は伝えた。
 うっかり創平が髪を撫でようとしたが、手を引っ込めた。
「ごめん」
 真緒は首を振り、手ぐしで髪を整えた。
 職場では髪を束ねているし、飲み会のときも束ねていた。
 今日ははじめて髪を下ろしているのを見て、可愛いなと感じた。
 印象がかなり違っている。
「めちゃ疲れたよな、ごめん」
 いえ、と彼女は首を振った。
『作り物って松浦さんは言ったけど、作り物とは思えませんでした』
 不満そうな顔の真緒だ。
 すべて真緒の言葉を理解出来ないでいると、彼女はメモ帳に言いたいことを書いてくれた。
「ああ、リアルだから怒ってるの?」
『怒ってませんけど。ただリアルすぎです』
 少し不服な表情の真緒だが、こんな表情を会社で見たことはない。
 ただ、古川一真の前ではこれに近い表情だった気がする。
「あはは、確かにリアルだった」
『あのう、服、伸びてませんか、わたし、たくさん引っ張ってしまいました』
「服が……伸びてないかって?」
 真緒が頷くの見て創平は立ち上がり、背中を覗き込んだ。
「大丈夫だよ」
 ほら、と後ろの裾を見せた。少し伸びている気がしなかもなかったが、パーカーなんて洗えば元通りだ、むしろ縮む。
『歩きづらかったですよね、すみません』
「大丈夫。女の子にしがみつかれるなんて体験そうそうないだろうし、勇者にでもなった気分」
『……』
「あ」
(ひいてる! ドン引きされた!)
 真緒は赤面して俯いた。
「あっ、てかさ、倉橋さんが頑張ったおかげでキャラクターの、二体とももらえたし、よかったじゃん」
『あっ、そうでした』
 二種類のマスコットをもらうことが出来たので、創平はほっとしていた。
 すると、真緒は受け取ったマスコットのうちの一つをひとつを創平に差し出してきた。
「俺に?」
 はい、と真緒は頷く。
『松浦さんのおかげなので、二つももらうなんて申し訳ないです』
「えと……申し訳ないって? いいのに。これは、倉橋さんが持ってたらいいよ」
『いつもいただいてばかりで、今日だって誘ってもらって……』
 真緒はメモ帳に急いで文字を書いた。
 覗き込んだ創平は首を振る。
「いやいや、じゃあそのお礼に一緒に行ってよ、って誘ったのは俺だし」
 だからこれは持っててよ、と創平は頷いた。
「俺が持ってるより、倉橋さんが持ってたほうがいいだろ?」
 困ったような顔をしたが、真緒は嬉しそうに頷いて受け取ってくれた。


 遊園地でそれなりに遊び倒したつもりだ。
 メインのアトラクションは乗ったつもりだし、真緒の行きたい所は回ったはずだ。
(あとは観覧車……)
 乗ってみたいが、恋人でもないし、きっと空気がぎこちなくなるだけだし。
(いつか乗れたらいいけどな……今日は諦めよう)
 遅くならないうちに帰るかな、と創平は現実を見た。
 最後に、お土産用のお菓子を買い、二人は岐路に着くことにした。

 
 帰りの車では、助手席で真緒はうとうとしたかと思うと眠ってしまった。
 寝顔だ、と創平は嬉しくなる。
(楽しかったかな……)
 今日はどさくさ紛れに、写真も撮っている。
『わたしも撮りますね』
 と創平を撮影していた。
 こんな自分を撮影して何が楽しいのか。
『あとでくださいね、わたしも送りますから』
 俺の写真はいらねえけどなあ、と思ったが言わずに頷いておいた。
 一枚だけ、二人で写った写真がある。
 ホラーハウスで、真緒とクマのキャラクターの写真を撮影していると、係員に、
「お二人一緒に撮影しましょうか?」
 と声をかけかれ、真緒は躊躇っていたが、創平は撮影してもらうことにしたのだ。
(公然とツーショ、撮れた)  
 あとで送っておこう、とスマホを仕舞ったのだった。


 真緒の自宅に送り届け、彼女にグッズストアーで買ったお菓子を持たせた。
「これ、倉橋さんのご家族に」
 真緒は遠慮していたが、創平は最初からそのつもりで買っていた。真緒も買ってはいたが、遅い時間まで連れ回したのだし、これくらいは、と思って購入したのだ。あとは山岡夫妻用に買ったくらいで。
「じゃあ、また明日」
 手を振って別れようとした所に、彼女の母親らしき女性が出てきた。
(わっ……)
 創平は慌てて車から下りると、頭を下げた。
 行き掛けには会わなかったが、ここで会うとは思わず、慌てて挨拶をする。
「娘がいつもお世話になっています」
「いや、あの、こちらのほうこそいつもお世話になっていまして」
 本当に世話になっている、ということを言葉に感情に込めたつもりだ。
「車はここに入れてください」
「へ?」
 真緒の母親は、駐車スペースに入るように両手で促した。
「あの……?」
「お腹空いたでしょう? 夕飯、用意していますから、食べて行ってくださいな」
「えっ」
「もうご家族の方が準備されていますか?」
「いえ、自分は一人なので、そういうのは特に……」
「なら、是非」
 斯くして、創平は倉橋家の晩餐に招かれることになった。
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