大人の恋愛の始め方

文字の大きさ
上 下
217 / 222
【第4部】浩輔編

34.自覚

しおりを挟む
 ドアを開けると、茫然自失といったふうの舞衣が座り込んでいた。
 まだそこにいたことに安心する。
 胸が苦しくて、ズキズキ痛んで、蹲りそうになった浩輔は、途中で引き返し、舞衣の部屋へ戻ったのだ。
「え……? 三原君……?」
 浩輔はそのまま舞衣を抱き締めた。
「無理」
「え?」
「俺がずっと舞衣を好きだったの、わかってるだろ」
「…………」
「二度もふられたのに、出会って十五年経って、初恋の女の子が俺を好きだって言ってんだ、嬉しくないわけないだろ」
 舞衣は浩輔を見上げる。
 彼女の両頬に手を当て、唇を重ねる。
 離れると、その顔を見て胸がドキドキした。
(苦しい……でも、もっとキスしたくなる)
「嬉しいけど、わからないんだ。舞衣のことは好きだ。でも、それは恋愛感情なのか、わからないんだ。……昔みたいに、舞衣を好きだって自信持って言えない。俺は恋愛の始め方がわからない」
「それは……やっぱりわたしのせいだね。わたしは三原君が好きだよ。セフレでもいいって思うくらいは三原君が好きだよ」
 舞衣から、貪るようなキスを何度も何度もされて、二人ともその場にへたり込んだ。
「三原君を傷つけたのに、今更三原君を好きだなんてどの口が言うんだって思われるけど。三原君と再会して、わたしはまた三原君に恋したよ」
 もう昔の優柔不断なわたしじゃない、と彼女は言った。
「三原君にまた好きになってもらえるように……これからも側にいたいと思ってる」
 ダメかな、と顔を覗き込まれ、
「ダメなわけあるか」
 と笑った。


 舞衣を抱きかかえ、ベッドに運んだ。
「また舞衣が欲しくなった。でも、今度は真剣に、だ。遊びじゃない」
 舞衣は頷いてくれた。
 まだ部屋着を着ていないのはラッキーだと思った。簡単にキャミソールを脱がせて下着を引き剥がし、彼女の身体に吸い付いた。
 恥ずかしそうにしている舞衣が愛おしい。
 初恋の女の子を目の前にして。
 何度も抱いてきたというのに。
 あちこちに唇を這わせ、彼女を愛した。
 舞衣がぼうっとするくらいにまで、浩輔は丁寧な前戯を舞衣にした。
 髪を撫でたり、キスをしたり、今までで一番丁寧に彼女を愛したつもりだ。
 細い腰に、小さめではあるが、柔らかくてきれいな双房に浩輔も興奮が収まらない。
 あっという間に果てそうになるが、堪えてゆっくり腰を打ち付けた。舞衣の手と自分の手を絡めると、舞衣も握り返してきた。
(可愛い……)
 顔だけでなく身体まで火照っているのがわかった、
 涙なのか汗なのかわからない舞衣の滴に、自分の汗が落ちて混じっていく。
「舞衣……好きだ……」
 浩輔は腰を振り、何度もささやいた。
「やっと……言ってもらえた……。わたしも……好き……」
 言ったことがなかったのか、と気づく。
 好きなのかどうかもわからなかったのだから、言ったことがなくて当然ではあった。
(可愛いと思ったことはあるけど)
 愛おしい気持ちがこみ上げてくる、これが「好き」という気持ちなのだろうか。昔感じた気持ちとは違う。子供の頃よりも、もっと激しく昂ぶる気持ちがあった。
「嬉しくてイキそう……すっげー早いみたいになってるけど、違うからな。舞衣のナカが気持ちよすぎて早いだけだからな」
 舞衣は何度も頷いてくれた。


 果てた舞衣は、恥ずかしそうだが嬉しそうに浩輔を見た。
 可愛くて足りないと思う浩輔だった。
 浩輔と舞衣は少し微睡み、浩輔は帰ることにした。
「身体、大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
 照れくさそうに俯く舞衣の顎に手をやり、上向かせた。
「何回も……無理させてごめんな」
 ううん、と首を振る舞衣。
「……嬉しいから」
「……そうか」
 またキスを落とし、頬を撫でた。
「他の男は見るなよ」
「……うん」
「絶対だぞ」
「うん」
「俺も他の女は見ない。舞衣だけだ」
 もう一度キスをする。
「好きな人いるんじゃないの……?」
「いないけど……」
「前に、ミサ、って言われたから……」
「え……」
 マジか、と顔を覆った。
「ミサさんって、呼ばれたことあるよ。三原君は気づいてないかもしれないけど」
「ごめん」
 ミサとしている時にも、舞衣の名前を呼んだことがあると言われた。
 今度は反対だ。
(……最低最悪じゃん、俺)
「その人のことはいいの?」
「……その人とはもう切れてるし、好きってわけじゃない。流されて、関係持った女だ」
「そう」
「もう会うことないし、好きになることもない。誓って言える」
「誓わなくても、いいけど……」
 舞衣は悲しげな顔になった。
(悲しませない)
「舞衣」
「はい」
「言ってなかった」
「?」
 ごくりと息をのみ、舞衣をみやる。
「俺と、付き合って。俺と恋愛、してくれ」
「……うん、もちろん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

イケメン二人に溺愛されてますが選べずにいたら両方に食べられてしまいました

うさみち
恋愛
 卑怯だって、いいじゃないか。……だって君のことが好きなんだから。  隣の部屋の彼女が、好きだった男にフラれてしまったらしい。  俺がいい男だったら、「ただのいい男」として、慰め役に徹するだけだろう。  ……だけど、ゴメン。  俺もずっと、ずっとずっと、好きだったんだ。  誰よりも、君のことが。  だから、卑怯になったって、いいだろ?  俺は君を、手に入れたいんだ。  ……と思っていたら、どうやらフラれたというのは勘違いだったみたいで。  俺は今、もう1人のドSと戦ってる。    俺の好きな彼女は、押しに弱く、流されやすく、それに多分ちょっとM気質だ。  負けてられねぇ。  ーー絶対俺が、手に入れてみせる。 ◾️この小説は、カクヨム、小説家になろうでも掲載しております。 ◾️作者以外による無断転載を固く禁じます。 ■本作は短編小説の連載版です。リクエストいただいたために長編を執筆することにしました。 ◾️全40話、執筆済み。完結保証です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

夫のつとめ

藤谷 郁
恋愛
北城希美は将来、父親の会社を継ぐ予定。スタイル抜群、超美人の女王様風と思いきや、かなりの大食い。好きな男のタイプは筋肉盛りのガチマッチョ。がっつり肉食系の彼女だが、理想とする『夫』は、年下で、地味で、ごくごく普通の男性。 29歳の春、その条件を満たす年下男にプロポーズすることにした。営業二課の幻影と呼ばれる、南村壮二26歳。 「あなた、私と結婚しなさい!」 しかし彼の返事は…… 口説くつもりが振り回されて? 希美の結婚計画は、思わぬ方向へと進むのだった。 ※エブリスタさまにも投稿

処理中です...