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【第4部】浩輔編
32.相談
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「祐策、ちょっと相談がある」
「いいよ、なに?」
いつものように高虎からの呼び出しがあり、事務所で彼を待つ間、ふと祐策に声を思い切ってそう言った。
「祐策って……特定の彼女、いる?」
「いない」
「付き合ったことは……?」
「ないに等しいと思ってくれ」
そうか、と浩輔は項垂れた。
祐策なら何かアドバイスをもらえるかもしれないと思ったのだが。高虎や智幸の意見は絶対に参考にならない自信があったし。
「この仕事してからは、遊びの女しか知り合えない」
「だよね……」
「どうした?」
「あー、うん……」
「女の話?」
まあ、と浩輔は頷いた。
身体だけの関係だった女に惚れたことはあるか、と尋ねると、祐策は先程と同様に首を横に振った。
「俺は割り切ってるから、ないな。三原は……相手に惚れた?」
「んー……いや、そういうわけではないけど」
「ミサさん?」
「えっ、違う違う違う」
強く否定した。
ミサのことは気にかかってはいるが、知人としての心配であって、会ってまたどうこうしたい気持ちはもうない。
「いや、ミサさんではない。ま、まあ、身体だけの間柄ではあるんだけど、相手が俺を好きな場合……」
「相手が本気になってるってことか」
「ん、俺も、まあ嫌いじゃないし好きなんだけど、相手の『好き』とは違うんだよな」
「なるほど」
「一緒に出掛けたり、飯食ったり、セックスして、帰り際にキスしたり」
「それ付き合ってるんじゃないの」
「ええ!?」
付き合ってない、と浩輔は言った。
(舞衣もそう線引きしてるはず……)
「セフレっていう認識はされてると思うんだけど」
「相手が本気の時点で、もうお互い都合良くってのは……難しくなってくるんじゃないのか? 相手も自分が都合良く性の捌け口になってるって認識はしているだろうけど、三原に本気なら、物足りないって思うだろうし、もっと独占欲強くなるはずだし、三原が他の女と遊んでるってわかったら、ヤバいことにもなりかねないと、俺は思うけど」
ヤバいこと、それは独占するために悪事に手を染めかねない、ってことかと察した。
舞衣に限ってそれはないと思うけどな、と浩輔は思ったのだが。
「ずるずる関係持つのはやめたほうがいいんじゃないか? それか、相手に向き合うか」
「向き合う……」
「三原も相手に本気になってみれば、ってこと。相手のことは嫌いじゃないんだろ」
「まあ……」
「相手の好意に答えるのも一つなんじゃない? 俺からしてみれば、ほとんど付き合ってるようなものだと思うけど。付き合ってる付き合ってない、の線引きってなんなんだろう。何か儀式でもあるのか? 俺もわかんないな」
祐策は真摯に答えてくれた。
舞衣と身体だけじゃなくて、会って話したり、出掛けたり、食事をしたり、一緒に時間を過ごすのは居心地がいい。友達……とはまた違うとは思うのだが。
(なんだろうな、もやもやする)
「スパっと切るか、応えるか、だな」
「……わかった。考えてみるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
祐策は笑った。
「下らんこと訊いてごめん」
「下らなくなんてないから」
彼は人懐っこい顔で笑った。高虎が言うには普段は無口らしいが、浩輔と話す時は表情が豊富になると言っていた。同じ年だし、話が合うのだろうと言われた。
「俺さ……」
「ん?」
「好き、っていう感情が良くわからなくて」
「……ん」
「恋愛の好き、っていう感情、昔はあったとおもうんだけどな……」
「俺も正直よくわからないけど、普通の『好き』より強いんだろうなって思う」
「強い?」
「うん。独り占めしたい、とか、誰か別のやつと親しげにしてたら嫉妬するとか。ほかのヤツに触れさせたくないとか、そういう……自分がおかしくなるような? わからんけど」
「んー……」
情熱的な感じなのかなって、と祐策は首を傾げながら言った。経験したことはないけど、と彼は笑った。
「そういうのはないからなあ……あ、けど」
「けど、なに?」
祐策が身を乗り出してきた。
「キスもセックスも何度もしてるのに、キスしてって言われて、したら……」
「したら……?」
「めちゃ……ドキドキしたんだけど……これ……ヤバい?」
祐策は目と口を大きく開け、わお、と叫んだ。
「それ、ヤバい」
バシバシ、と背中を叩かれ、浩輔はしかめっ面をした。
「お待たせー!」
いきなりドアが開き、高虎が現れ、二人が飛び上がった。
「どした?」
「いえ……お疲れ様です」
「なんでも。ちょっとびっくりしただけです」
きょとんとすると高虎に、祐策と浩輔は冷や汗でも出そうな表情で答えた。
居住まいを正し、二人はソファに座った高虎に向き直った。
「今日は、どんな案件ですか」
祐策が静かに言う。
促された高虎は、いつもより顔つきが強ばった。
(……?)
「ちょっと、相談というか、報告と連絡、かな」
「ほうれんそう」
職場で「報告・連絡・相談」を徹底されている浩輔はそう口走った。
「そんな感じ。みんなに……ああ、今は祐策と浩輔だけだけど、伝えなきゃいけないことがあって呼び出した。ほかのみんなには、それぞれ若頭やトモたちから伝達されたか、されるか……だと思うし」
どうしたのだろう、祐策と浩輔は顔を見合わせて、また高虎を見たのだった。
「いいよ、なに?」
いつものように高虎からの呼び出しがあり、事務所で彼を待つ間、ふと祐策に声を思い切ってそう言った。
「祐策って……特定の彼女、いる?」
「いない」
「付き合ったことは……?」
「ないに等しいと思ってくれ」
そうか、と浩輔は項垂れた。
祐策なら何かアドバイスをもらえるかもしれないと思ったのだが。高虎や智幸の意見は絶対に参考にならない自信があったし。
「この仕事してからは、遊びの女しか知り合えない」
「だよね……」
「どうした?」
「あー、うん……」
「女の話?」
まあ、と浩輔は頷いた。
身体だけの関係だった女に惚れたことはあるか、と尋ねると、祐策は先程と同様に首を横に振った。
「俺は割り切ってるから、ないな。三原は……相手に惚れた?」
「んー……いや、そういうわけではないけど」
「ミサさん?」
「えっ、違う違う違う」
強く否定した。
ミサのことは気にかかってはいるが、知人としての心配であって、会ってまたどうこうしたい気持ちはもうない。
「いや、ミサさんではない。ま、まあ、身体だけの間柄ではあるんだけど、相手が俺を好きな場合……」
「相手が本気になってるってことか」
「ん、俺も、まあ嫌いじゃないし好きなんだけど、相手の『好き』とは違うんだよな」
「なるほど」
「一緒に出掛けたり、飯食ったり、セックスして、帰り際にキスしたり」
「それ付き合ってるんじゃないの」
「ええ!?」
付き合ってない、と浩輔は言った。
(舞衣もそう線引きしてるはず……)
「セフレっていう認識はされてると思うんだけど」
「相手が本気の時点で、もうお互い都合良くってのは……難しくなってくるんじゃないのか? 相手も自分が都合良く性の捌け口になってるって認識はしているだろうけど、三原に本気なら、物足りないって思うだろうし、もっと独占欲強くなるはずだし、三原が他の女と遊んでるってわかったら、ヤバいことにもなりかねないと、俺は思うけど」
ヤバいこと、それは独占するために悪事に手を染めかねない、ってことかと察した。
舞衣に限ってそれはないと思うけどな、と浩輔は思ったのだが。
「ずるずる関係持つのはやめたほうがいいんじゃないか? それか、相手に向き合うか」
「向き合う……」
「三原も相手に本気になってみれば、ってこと。相手のことは嫌いじゃないんだろ」
「まあ……」
「相手の好意に答えるのも一つなんじゃない? 俺からしてみれば、ほとんど付き合ってるようなものだと思うけど。付き合ってる付き合ってない、の線引きってなんなんだろう。何か儀式でもあるのか? 俺もわかんないな」
祐策は真摯に答えてくれた。
舞衣と身体だけじゃなくて、会って話したり、出掛けたり、食事をしたり、一緒に時間を過ごすのは居心地がいい。友達……とはまた違うとは思うのだが。
(なんだろうな、もやもやする)
「スパっと切るか、応えるか、だな」
「……わかった。考えてみるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
祐策は笑った。
「下らんこと訊いてごめん」
「下らなくなんてないから」
彼は人懐っこい顔で笑った。高虎が言うには普段は無口らしいが、浩輔と話す時は表情が豊富になると言っていた。同じ年だし、話が合うのだろうと言われた。
「俺さ……」
「ん?」
「好き、っていう感情が良くわからなくて」
「……ん」
「恋愛の好き、っていう感情、昔はあったとおもうんだけどな……」
「俺も正直よくわからないけど、普通の『好き』より強いんだろうなって思う」
「強い?」
「うん。独り占めしたい、とか、誰か別のやつと親しげにしてたら嫉妬するとか。ほかのヤツに触れさせたくないとか、そういう……自分がおかしくなるような? わからんけど」
「んー……」
情熱的な感じなのかなって、と祐策は首を傾げながら言った。経験したことはないけど、と彼は笑った。
「そういうのはないからなあ……あ、けど」
「けど、なに?」
祐策が身を乗り出してきた。
「キスもセックスも何度もしてるのに、キスしてって言われて、したら……」
「したら……?」
「めちゃ……ドキドキしたんだけど……これ……ヤバい?」
祐策は目と口を大きく開け、わお、と叫んだ。
「それ、ヤバい」
バシバシ、と背中を叩かれ、浩輔はしかめっ面をした。
「お待たせー!」
いきなりドアが開き、高虎が現れ、二人が飛び上がった。
「どした?」
「いえ……お疲れ様です」
「なんでも。ちょっとびっくりしただけです」
きょとんとすると高虎に、祐策と浩輔は冷や汗でも出そうな表情で答えた。
居住まいを正し、二人はソファに座った高虎に向き直った。
「今日は、どんな案件ですか」
祐策が静かに言う。
促された高虎は、いつもより顔つきが強ばった。
(……?)
「ちょっと、相談というか、報告と連絡、かな」
「ほうれんそう」
職場で「報告・連絡・相談」を徹底されている浩輔はそう口走った。
「そんな感じ。みんなに……ああ、今は祐策と浩輔だけだけど、伝えなきゃいけないことがあって呼び出した。ほかのみんなには、それぞれ若頭やトモたちから伝達されたか、されるか……だと思うし」
どうしたのだろう、祐策と浩輔は顔を見合わせて、また高虎を見たのだった。
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