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【第4部】浩輔編
28.抱擁
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浩輔は舞衣の部屋に遊びに来るようになった間柄ではあるが、やはり友達止まりだ。
浩輔も自分のアパートに招いた。
殺風景な浩輔の部屋では、自分が料理を振る舞う。と言っても、ただの「オトコメシ」だが、舞衣は充分だと喜んでくれた。
舞衣を送って行こうと、狭い玄関に行くと、ふと思い出す。
「もうすぐ卒業だろ。なんか祝いでもさせてくれ」
「そんな、いいよ、別に」
車のなかでそんなやりとりをした。
舞衣の就職する場所は同じ市内だが、このアパートからは引っ越しをすることになっていた。
「……あの、じゃあ、これからもこれまでどおり、一緒に遊んだりしたい、なって思うんだけど。だめかな」
「……おう、いいよ」
拒絶する理由がなかった。
「いいに、決まってるだろ」
舞衣が嬉しそうに笑うのを見て、浩輔も嬉しくなった。
「よかった……」
その呟きを耳にした浩輔は、目を細めて彼女を見下ろした。
「舞衣」
「ん?」
「舞衣って……俺のこと好きなの」
「え……」
表情を止めた舞衣は、まじまじと浩輔を見上げた。
「舞衣、どうなの」
浩輔は顔を近づけていく。
視線が合うと、舞衣は慌てて目を逸らした。
「なあ」
ドアに舞衣を追い込み、彼女を見下ろす。
目を逸らされた浩輔は、舞衣に目を合わせようと、彼女の両脇に手を伸ばした。否応なしに顔は浩輔のほうを向かされる。
「舞衣」
唇が至近距離にまで近づく。
かつて、一度だけ触れた唇に、年月を超えて近づいてゆく。
「どうなんだ?」
意地悪く言うと、舞衣はゆっくり頷いた。
否や浩輔は唇をぶつけた。
ままごとのようなものではなく、深くゆっくり味わうものだ。あの時のキスとは違う。
離れると舞衣の唇から吐息が漏れるのを見て、彼女の頬に手を当て再び重ねた。上気した顔に、身体の奥がむずむずし始める。
彼女の身体に触れようと思ったが、彼女は既にコートを着ているため断念した。
舞衣が抵抗する様子はなく、浩輔は何度も彼女の唇を貪る。口内を舌で侵せば、がくりと彼女の身体は崩れ落ちた。
十五歳の時はどんな気持ちだったか……あの時は緊張して何かを考える余裕はなかった気がするが、今は違う。柔らかな舞衣の唇の感触もわかるし、自分が優位になれているのも感じる余裕がある。
崩れてしまった舞衣に、容赦なくキスの雨を降らせ続ける。
ようやく離した彼女は、惚けた瞳で唇を半ば開けて、視線は浩輔の向こうを見ているかのようだ。
舞衣の唇を堪能し、ようやく離れた時にはお互いの息が荒く、熱くなっていた。
(戻って抱きてえ……)
「この先の、覚悟はあんのか?」
「え……?」
ぼんやりした瞳で、見返してきた。
「……舞衣」
顔を覗き込み、
「……いや、なんでもねえ」
抱きかかえるようにして立ち上がらせた。
「ほら帰ろう」
促され、はっとしたように舞衣は背を向けた。
慌ててドアを開けようとした手に、自分の手を乗せる。
「慌てるなって」
ごめんなさい、と舞衣は言った。
「嫌だったか……?」
後ろから声をかける。
嫌な様子は見受けられなかった。
首をふるふると左右に振った。
「そっか」
行こうか、とドアを開けてやり、二人へ部屋を出た。
(つーか、あの顔、ヤバい……)
蕩けた舞衣の顔を思い出し、今更胸がドキドキし出した。
今になって、大胆なことをしてしまったなと感じる。
(もっと、見たいかも……)
舞衣のアパートに着いた。
「ほら、着いた」
車中はずっと無言だった。
いつもなら舞衣が話をするか、疲れて眠るかだが、ずっと起きたままで何も言わなかった。気まずくて、浩輔も口を開くことはなかった。
車から降りる時に、彼女はぽつりと、
「また、明日、三原君のアパートに行ってもいい?」
そう言った。
「……いいよ」
「三原君の好きなもの作る」
「わかった。楽しみにしてる」
舞衣は駆け足で自分のアパートの部屋へと帰って行った。
浩輔も自分のアパートに招いた。
殺風景な浩輔の部屋では、自分が料理を振る舞う。と言っても、ただの「オトコメシ」だが、舞衣は充分だと喜んでくれた。
舞衣を送って行こうと、狭い玄関に行くと、ふと思い出す。
「もうすぐ卒業だろ。なんか祝いでもさせてくれ」
「そんな、いいよ、別に」
車のなかでそんなやりとりをした。
舞衣の就職する場所は同じ市内だが、このアパートからは引っ越しをすることになっていた。
「……あの、じゃあ、これからもこれまでどおり、一緒に遊んだりしたい、なって思うんだけど。だめかな」
「……おう、いいよ」
拒絶する理由がなかった。
「いいに、決まってるだろ」
舞衣が嬉しそうに笑うのを見て、浩輔も嬉しくなった。
「よかった……」
その呟きを耳にした浩輔は、目を細めて彼女を見下ろした。
「舞衣」
「ん?」
「舞衣って……俺のこと好きなの」
「え……」
表情を止めた舞衣は、まじまじと浩輔を見上げた。
「舞衣、どうなの」
浩輔は顔を近づけていく。
視線が合うと、舞衣は慌てて目を逸らした。
「なあ」
ドアに舞衣を追い込み、彼女を見下ろす。
目を逸らされた浩輔は、舞衣に目を合わせようと、彼女の両脇に手を伸ばした。否応なしに顔は浩輔のほうを向かされる。
「舞衣」
唇が至近距離にまで近づく。
かつて、一度だけ触れた唇に、年月を超えて近づいてゆく。
「どうなんだ?」
意地悪く言うと、舞衣はゆっくり頷いた。
否や浩輔は唇をぶつけた。
ままごとのようなものではなく、深くゆっくり味わうものだ。あの時のキスとは違う。
離れると舞衣の唇から吐息が漏れるのを見て、彼女の頬に手を当て再び重ねた。上気した顔に、身体の奥がむずむずし始める。
彼女の身体に触れようと思ったが、彼女は既にコートを着ているため断念した。
舞衣が抵抗する様子はなく、浩輔は何度も彼女の唇を貪る。口内を舌で侵せば、がくりと彼女の身体は崩れ落ちた。
十五歳の時はどんな気持ちだったか……あの時は緊張して何かを考える余裕はなかった気がするが、今は違う。柔らかな舞衣の唇の感触もわかるし、自分が優位になれているのも感じる余裕がある。
崩れてしまった舞衣に、容赦なくキスの雨を降らせ続ける。
ようやく離した彼女は、惚けた瞳で唇を半ば開けて、視線は浩輔の向こうを見ているかのようだ。
舞衣の唇を堪能し、ようやく離れた時にはお互いの息が荒く、熱くなっていた。
(戻って抱きてえ……)
「この先の、覚悟はあんのか?」
「え……?」
ぼんやりした瞳で、見返してきた。
「……舞衣」
顔を覗き込み、
「……いや、なんでもねえ」
抱きかかえるようにして立ち上がらせた。
「ほら帰ろう」
促され、はっとしたように舞衣は背を向けた。
慌ててドアを開けようとした手に、自分の手を乗せる。
「慌てるなって」
ごめんなさい、と舞衣は言った。
「嫌だったか……?」
後ろから声をかける。
嫌な様子は見受けられなかった。
首をふるふると左右に振った。
「そっか」
行こうか、とドアを開けてやり、二人へ部屋を出た。
(つーか、あの顔、ヤバい……)
蕩けた舞衣の顔を思い出し、今更胸がドキドキし出した。
今になって、大胆なことをしてしまったなと感じる。
(もっと、見たいかも……)
舞衣のアパートに着いた。
「ほら、着いた」
車中はずっと無言だった。
いつもなら舞衣が話をするか、疲れて眠るかだが、ずっと起きたままで何も言わなかった。気まずくて、浩輔も口を開くことはなかった。
車から降りる時に、彼女はぽつりと、
「また、明日、三原君のアパートに行ってもいい?」
そう言った。
「……いいよ」
「三原君の好きなもの作る」
「わかった。楽しみにしてる」
舞衣は駆け足で自分のアパートの部屋へと帰って行った。
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