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【第4部】浩輔編
22.危険な予感
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ミサの部屋を訪ねると、彼女は待っていたというふうに浩輔に抱きついてきた。
(……やっぱり違和感がある)
先日から妙な気がしている。
その違和感の正体がわからないまま、今夜もミサと関係を持った。ミサはいつも以上に積極的だった気がする。
浩輔のほうは、正直理性は働かなくて、いつものように、ただ本能に従って性欲を発散させてしまっていた。
(けど、以前ほど昂ぶらなくなった気がする……)
絶頂に達して、ごろんとベッドに転がっている。
隣で寝転ぶミサが、浩輔の横顔を見つめていることに気づいた。
「なんですか?」
「……見てるだけ」
「見ても何の得もありませんけどね」
「そんなことはないと思うけど」
甘えるようにすり寄ってくるミサの身体に腕を回し、向かい合わせになった。浩輔の腕を枕にしてミサは見つめてくる。
「……どうしたんですか。何かありました?」
「何もないよ?」
「ほんとに?」
わざと悪戯っぽく言った。
「……三原君は鋭いなあ」
「……」
何かあるらしい。
「やっぱり三原君は他の人とは違うね」
「……」
他の人、というのが男なのか、女なのか。身体の関係がある人物なのか、日常的に会う人物なのか、その言葉だけでは推し量れない。
(なんだろう……)
胸のなかに、少し、恐怖が沸き起こる。
「何か、あったんですね?」
「うん、ちょっとね。みんなみんな、三原君みたいないい人ならいいのにな」
「……俺はそんな『いい人』ではないですけどね」
性格良くないし、と浩輔は呟いた。
「わたしにとってはいい人だよー」
「……褒め言葉で受け取っておきますよ」
「なにそれー」
ミサが甘えるようにすり寄ってくる。浩輔は拒むことなく、ミサの身体を抱き寄せた。
「もう一回しよっか」
「ミサさん、ごめん、……今日ちょっと体力がなくて」
えー、とミサは不満げな声を発した。
「そっか、今日日曜日だし、明日お仕事だもんね。無理はさせられないかー」
「ごめん」
「いいよ、別に。……三原君、今日どこか出掛けてたの?」
「あ、はい、友達と食事に」
「ふうん……女の子?」
「え……あ、あの、はい、まあ」
ミサはじっと浩輔を見つめている。
「そっかー」
「友達ですよ、昔から知ってる人ですから」
「へー」
ミサは興味がないのか、それとも苛立っているのか、どちらとも取れるような相槌を打った。
「……なんか怒ってます?」
「怒ってないよ? なんで?」
「友達が女だったから」
「怒るわけないよ。三原君だって女友達くらいいるでしょ。わたしだって男友達いるし」
そうですよね、と浩輔は乾いた笑いを洩らした。
「その子とは寝たの?」
「えっ!? ないですよ、そんなの。昔から知ってる友達だし、まさか、そんなこと」
「わかんないよ? 友達でもしちゃいけないわけじゃないし? 案外相性いいかもしれないしよ?」
「いやー……」
それはちょっとな、と首を振った。
まさか、その友達は、好きだった女の子だとは言えない。
(ミサさんは男友達と寝たんだろうな……)
ミサが唆すように言うことが、もうあまり自分には興味がなくなってきているのだろうと思えた。二回目の行為を誘っては来たが、あっさり引き下がった。以前なら、もう一回もう一回と言ってきたのに。
(ミサさん……ちょっと変わった気がするな……)
少しだけ休んだあと、浩輔はそそくさと帰り支度を始めた。
「日曜にごめんね。今度は平日にする」
「いや、まあ、大丈夫です」
「ほんとに?」
「ほんとです」
「じゃあ、また連絡するね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
ミサは顔を上げて、浩輔にキスをした。
少し長めのキスだった。
(……ミサさん)
じゃあ、とミサの部屋を出た。
ミサが見送ってくれたが、浩輔は足早に駐車場に向かった。
なぜだろう、心臓がバクバク言い始める。
早くアパートに戻らないといけない。
時間はもう日付が変わっていた。
早く、早く。
内心では急いていたが、事故をしないよう、飛ばさないよう気をつけながらアパートに戻った。
急いで入ると、何度も嗽をする。
手を拭いたあと、スマホを出した。
宛先は神崎高虎だ。
『夜分すみません。知らせたいことがあります』
違和感の正体に気づいたことを、早く知らせなければと思ったのだった。
(……やっぱり違和感がある)
先日から妙な気がしている。
その違和感の正体がわからないまま、今夜もミサと関係を持った。ミサはいつも以上に積極的だった気がする。
浩輔のほうは、正直理性は働かなくて、いつものように、ただ本能に従って性欲を発散させてしまっていた。
(けど、以前ほど昂ぶらなくなった気がする……)
絶頂に達して、ごろんとベッドに転がっている。
隣で寝転ぶミサが、浩輔の横顔を見つめていることに気づいた。
「なんですか?」
「……見てるだけ」
「見ても何の得もありませんけどね」
「そんなことはないと思うけど」
甘えるようにすり寄ってくるミサの身体に腕を回し、向かい合わせになった。浩輔の腕を枕にしてミサは見つめてくる。
「……どうしたんですか。何かありました?」
「何もないよ?」
「ほんとに?」
わざと悪戯っぽく言った。
「……三原君は鋭いなあ」
「……」
何かあるらしい。
「やっぱり三原君は他の人とは違うね」
「……」
他の人、というのが男なのか、女なのか。身体の関係がある人物なのか、日常的に会う人物なのか、その言葉だけでは推し量れない。
(なんだろう……)
胸のなかに、少し、恐怖が沸き起こる。
「何か、あったんですね?」
「うん、ちょっとね。みんなみんな、三原君みたいないい人ならいいのにな」
「……俺はそんな『いい人』ではないですけどね」
性格良くないし、と浩輔は呟いた。
「わたしにとってはいい人だよー」
「……褒め言葉で受け取っておきますよ」
「なにそれー」
ミサが甘えるようにすり寄ってくる。浩輔は拒むことなく、ミサの身体を抱き寄せた。
「もう一回しよっか」
「ミサさん、ごめん、……今日ちょっと体力がなくて」
えー、とミサは不満げな声を発した。
「そっか、今日日曜日だし、明日お仕事だもんね。無理はさせられないかー」
「ごめん」
「いいよ、別に。……三原君、今日どこか出掛けてたの?」
「あ、はい、友達と食事に」
「ふうん……女の子?」
「え……あ、あの、はい、まあ」
ミサはじっと浩輔を見つめている。
「そっかー」
「友達ですよ、昔から知ってる人ですから」
「へー」
ミサは興味がないのか、それとも苛立っているのか、どちらとも取れるような相槌を打った。
「……なんか怒ってます?」
「怒ってないよ? なんで?」
「友達が女だったから」
「怒るわけないよ。三原君だって女友達くらいいるでしょ。わたしだって男友達いるし」
そうですよね、と浩輔は乾いた笑いを洩らした。
「その子とは寝たの?」
「えっ!? ないですよ、そんなの。昔から知ってる友達だし、まさか、そんなこと」
「わかんないよ? 友達でもしちゃいけないわけじゃないし? 案外相性いいかもしれないしよ?」
「いやー……」
それはちょっとな、と首を振った。
まさか、その友達は、好きだった女の子だとは言えない。
(ミサさんは男友達と寝たんだろうな……)
ミサが唆すように言うことが、もうあまり自分には興味がなくなってきているのだろうと思えた。二回目の行為を誘っては来たが、あっさり引き下がった。以前なら、もう一回もう一回と言ってきたのに。
(ミサさん……ちょっと変わった気がするな……)
少しだけ休んだあと、浩輔はそそくさと帰り支度を始めた。
「日曜にごめんね。今度は平日にする」
「いや、まあ、大丈夫です」
「ほんとに?」
「ほんとです」
「じゃあ、また連絡するね」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
ミサは顔を上げて、浩輔にキスをした。
少し長めのキスだった。
(……ミサさん)
じゃあ、とミサの部屋を出た。
ミサが見送ってくれたが、浩輔は足早に駐車場に向かった。
なぜだろう、心臓がバクバク言い始める。
早くアパートに戻らないといけない。
時間はもう日付が変わっていた。
早く、早く。
内心では急いていたが、事故をしないよう、飛ばさないよう気をつけながらアパートに戻った。
急いで入ると、何度も嗽をする。
手を拭いたあと、スマホを出した。
宛先は神崎高虎だ。
『夜分すみません。知らせたいことがあります』
違和感の正体に気づいたことを、早く知らせなければと思ったのだった。
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