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【第4部】浩輔編
4.別離(後編)
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引越先の町へ行くために、浩輔は駅に向かった。
自転車や手に持てない荷は、引越先のアパートへ、施設の先生が軽トラックで運んでくれている。なのであとは自分の身一つでいい状態だ。
「三原君……!」
聞き覚えのある声に浩輔は立ち止まり、ゆっくり振り返った。
「三原……く……ん!」
そこには、高校一年の五月以来会っていない舞衣の姿があった。
息を切らせてこちらに向かって走ってくる。
浩輔は踵を返し、駅へと再び歩き出した。
「待って……」
(なんで舞衣がここにいるんだよ!)
未練はなくなった、はずだ。
今から旅立ちだというのに、現れてくれるなよ。
正直な気持ちがそれだった。
「三原君!」
どんっ、と背中を叩かれ、彼女が追いついてきたことを察した。そこでようやく足を止め、仕方なく振り返った。
「なんだよ、何か用か」
随分冷たい声が出るものだ、と冷静に思った。
久しぶりだな、と笑った方がよかったのだろうか。
「三原君……、あの、今日、園を出るって聞いたから」
「……ああ」
そうだ、自分がそう伝えたのだ。
卒業式の日に、舞衣からメッセージが届いた。
会えませんか、という内容のものだ。どの面下げて俺に会おうというのだ、と苛立って既読無視をし続けていた。実際、昨日までアルバイトを続けていたし、そもそも時間はなかった。無視をし続け、舞衣からその後の連絡はなかった。
ふと今朝思い出し、今日出ていけばどうせ会うことはないのだろうから、と返信をしたのだ。
【今日出て行く】
ただそう送っただけなのに。
なぜこんなにピンポイントで遭遇するのだ。
まるで待ち伏せでもしていたかのように。
(ンなわけないか……。なら、まさかずっと待ってたとか……)
不器用な舞衣だ、時間がわからないなら近くで待つ、そういうことをやりかねない。浩輔の知っている舞衣だったら、だが。
「今日、引っ越すってメッセージあったけど、時間がわからなかったから……」
「…………」
「何時に、って送ったけど、既読にもならなかったから……もう行ったほうが早いって」
あのあと返事が来たのか、と浩輔は驚いたが、今となっては見てもいないし返事も出来ないのでもう仕方がない。届いたのを確認していてもする気はなかったが。
「で、何の用だ」
「用って……特別にはないけど……会っておきたいと思って……」
「会っておきたいって、会って何があるっていうんだよ」
「なんでそんな言い方するの……」
「…………」
舞衣にとっては、浩輔の突っ慳貪な態度は冷たく感じるのだろう。舞衣にそんな態度をとったことはなかったのだから。
「三原君、わたしも来週引っ越すよ。大学の近くにアパート」
「……そうか」
「また、連絡してもいいかな」
「……なんで」
「なんでって……」
「必要ないだろ」
「…………」
冷たく彼女を見下ろし、浩輔はまた踵を返した。
「待って、三原君!」
「…………」
ちょこまかと追いかけてくる舞衣を無視するように、早足で駅へと向かう。
「三原君……」
追いかけてくんなよ、と思うその一方で、昔みたいにずっと俺に着いてくるんだな、と嬉しさに似た気持ちもこみ上げてきた。
(変わってない……)
トコトコトコと、漫画のような音声に思わず口元を緩めてしまう。
突如足を止めると、
「うわっ……」
どんっ、と舞衣が背中に突進してきた。
「いた……」
「ちゃんと前見ろよ」
「見てるけど、三原君が突然止まるから……」
「俺のせいかよ」
「違うけど……、ごめんなさい……」
鼻頭を摩り、舞衣は詫びた。
「舞衣」
「……はい」
久しぶりに彼女の名前を口にした。
「俺の彼女になれるか?」
「……え……」
「俺と付き合って」
試すことにした。
そう言ったら舞衣はどう返答するだろう。
「……それは……」
「出来ないだろ」
「……ごめんなさい」
またフラれた。
「離ればなれになるのに、付き合えない」
「え」
前回と理由は違っていた。
「付き合うなら、連絡取りたいし、会いたくなるから」
「……そうか。あの時の男は?」
知っているが敢えて尋ねてみる浩輔だ。
「すぐに別れた」
「……そう。大したやつじゃなかったんだな」
「……そう、だったみたい」
クソみたいな男だったということはわかっている。だからわざと言ってみたのだ。随分意地が悪いということも自分でわかっている。
「三原君がまだわたしを……」
「俺は未練はない。一年のあの日で吹っ切ってる。言ってみただけだ」
(まだわたしを好きなら、の後はなんて言おうとしたんだ……)
付き合ってもいいよ、なんて言うつもりだったのだろうか。
(フラれてるのに)
「……未練はない。でも」
舞衣を見下ろし、
「次にもし会うことがあったら……その時舞衣がフリーだったら俺とつきあってよ」
冷ややかに言った。
「……うん、わかった」
(ないだろうけど)
浩輔は舞衣に背を向けたが、今度は舞衣は追いかけてはこなかった。
自転車や手に持てない荷は、引越先のアパートへ、施設の先生が軽トラックで運んでくれている。なのであとは自分の身一つでいい状態だ。
「三原君……!」
聞き覚えのある声に浩輔は立ち止まり、ゆっくり振り返った。
「三原……く……ん!」
そこには、高校一年の五月以来会っていない舞衣の姿があった。
息を切らせてこちらに向かって走ってくる。
浩輔は踵を返し、駅へと再び歩き出した。
「待って……」
(なんで舞衣がここにいるんだよ!)
未練はなくなった、はずだ。
今から旅立ちだというのに、現れてくれるなよ。
正直な気持ちがそれだった。
「三原君!」
どんっ、と背中を叩かれ、彼女が追いついてきたことを察した。そこでようやく足を止め、仕方なく振り返った。
「なんだよ、何か用か」
随分冷たい声が出るものだ、と冷静に思った。
久しぶりだな、と笑った方がよかったのだろうか。
「三原君……、あの、今日、園を出るって聞いたから」
「……ああ」
そうだ、自分がそう伝えたのだ。
卒業式の日に、舞衣からメッセージが届いた。
会えませんか、という内容のものだ。どの面下げて俺に会おうというのだ、と苛立って既読無視をし続けていた。実際、昨日までアルバイトを続けていたし、そもそも時間はなかった。無視をし続け、舞衣からその後の連絡はなかった。
ふと今朝思い出し、今日出ていけばどうせ会うことはないのだろうから、と返信をしたのだ。
【今日出て行く】
ただそう送っただけなのに。
なぜこんなにピンポイントで遭遇するのだ。
まるで待ち伏せでもしていたかのように。
(ンなわけないか……。なら、まさかずっと待ってたとか……)
不器用な舞衣だ、時間がわからないなら近くで待つ、そういうことをやりかねない。浩輔の知っている舞衣だったら、だが。
「今日、引っ越すってメッセージあったけど、時間がわからなかったから……」
「…………」
「何時に、って送ったけど、既読にもならなかったから……もう行ったほうが早いって」
あのあと返事が来たのか、と浩輔は驚いたが、今となっては見てもいないし返事も出来ないのでもう仕方がない。届いたのを確認していてもする気はなかったが。
「で、何の用だ」
「用って……特別にはないけど……会っておきたいと思って……」
「会っておきたいって、会って何があるっていうんだよ」
「なんでそんな言い方するの……」
「…………」
舞衣にとっては、浩輔の突っ慳貪な態度は冷たく感じるのだろう。舞衣にそんな態度をとったことはなかったのだから。
「三原君、わたしも来週引っ越すよ。大学の近くにアパート」
「……そうか」
「また、連絡してもいいかな」
「……なんで」
「なんでって……」
「必要ないだろ」
「…………」
冷たく彼女を見下ろし、浩輔はまた踵を返した。
「待って、三原君!」
「…………」
ちょこまかと追いかけてくる舞衣を無視するように、早足で駅へと向かう。
「三原君……」
追いかけてくんなよ、と思うその一方で、昔みたいにずっと俺に着いてくるんだな、と嬉しさに似た気持ちもこみ上げてきた。
(変わってない……)
トコトコトコと、漫画のような音声に思わず口元を緩めてしまう。
突如足を止めると、
「うわっ……」
どんっ、と舞衣が背中に突進してきた。
「いた……」
「ちゃんと前見ろよ」
「見てるけど、三原君が突然止まるから……」
「俺のせいかよ」
「違うけど……、ごめんなさい……」
鼻頭を摩り、舞衣は詫びた。
「舞衣」
「……はい」
久しぶりに彼女の名前を口にした。
「俺の彼女になれるか?」
「……え……」
「俺と付き合って」
試すことにした。
そう言ったら舞衣はどう返答するだろう。
「……それは……」
「出来ないだろ」
「……ごめんなさい」
またフラれた。
「離ればなれになるのに、付き合えない」
「え」
前回と理由は違っていた。
「付き合うなら、連絡取りたいし、会いたくなるから」
「……そうか。あの時の男は?」
知っているが敢えて尋ねてみる浩輔だ。
「すぐに別れた」
「……そう。大したやつじゃなかったんだな」
「……そう、だったみたい」
クソみたいな男だったということはわかっている。だからわざと言ってみたのだ。随分意地が悪いということも自分でわかっている。
「三原君がまだわたしを……」
「俺は未練はない。一年のあの日で吹っ切ってる。言ってみただけだ」
(まだわたしを好きなら、の後はなんて言おうとしたんだ……)
付き合ってもいいよ、なんて言うつもりだったのだろうか。
(フラれてるのに)
「……未練はない。でも」
舞衣を見下ろし、
「次にもし会うことがあったら……その時舞衣がフリーだったら俺とつきあってよ」
冷ややかに言った。
「……うん、わかった」
(ないだろうけど)
浩輔は舞衣に背を向けたが、今度は舞衣は追いかけてはこなかった。
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