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【第4部】浩輔編
2.約束(後編)
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その時だ。
ブゥウーーーー……
浩輔と舞衣の脇を車が走り抜けて行った。
浩輔にはスポーツカーに見えた。
「カッコいいー……」
最近の専らの興味は「車」だ。お金を稼ぐ、その願望の目的のもう一つが「車」だ。いつか車を買う、それも目標の一つになっていた。
「車、カッコいいなあ……」
「三原君は車が好きなんだね」
「うん、大人になったらカッコいい車に乗りたい」
「……三原君なら乗れるよね」
「そう?」
「うん」
舞衣は笑って頷いた。
「頑張り屋さんだもん、三原君ならきっと」
「じゃあ、めっちゃお金貯めて、カッコいい車買ったら舞衣を一番最初に助手席に乗せてあげるよ」
「ほんと?」
「うん、もちろんだ」
浩輔も笑って頷いた。
「あ」
舞衣が急に顔色を変えたので、浩輔は怪訝な顔になった。
「どうかしたか?」
「あの……助手席には乗れないかも」
「なんで」
舞衣がなぜそんなことを言い出したのが、理解できずにいた。
「助手席って彼女が乗るものだって、優子ちゃんが……」
「彼女? ああ、恋人ってこと?」
小学生の自分には縁遠いものではあるが、ませている女子達にはそんな話題があったのだろう。
「うん。助手席は、彼女を乗せるから、そうじゃなかったら後ろに乗らなきゃって」
「ふうん……」
「だから、わたしは、後ろに乗せてほしいかな」
「後ろになんか乗せられるかよ」
スポーツカーだったら後部座席がないかもしれない、と浩輔は話した。舞衣は、そうなんだあ、と悲しそうな表情を見せる。
「だったら、俺の、彼女になればいいだろ」
浩輔の精一杯の言葉だった。
「大人になったら、俺の彼女になってよ」
「え……」
「今は子供だし、俺は、施設で暮らしてるから、自由が利かないけど……大人になったら、自分の力でなんでもしなきゃいけなくなるし……そしたらたぶん、舞衣を彼女に出来る……と思うし」
「……うん」
どういう根拠や理論なのだと思うが、子供の自分には必死だったのだ。
「なんて、子供の俺がほんと、何言ってんだろうな。忘れてく……」
「なる! なりたい!」
「え」
忘れてくれ、と言おうとしたのに、舞衣が被せてきたために言えなくなってしまった。
「三原君の彼女になりたい!」
「……おう、じゃあ、彼女、決定だ、な」
「うん。約束!」
「……約束」
二人は顔を見合わせ笑った。
照れくさそうに笑う浩輔と、頬を紅潮させた舞衣は、歩き出した。
心臓がドクドク言っている。告白してしまったようなものだ。これから毎日どんな顔をして舞衣に会えばいいのだろう、とも思ったが、舞衣が嫌がっていないのが救いだった。
「舞衣、このことは誰にも言うなよ」
「……うん。秘密だね」
「ああ」
「あの、ね、三原君」
「ん?」
「大人になるまで待たなきゃいけないかな?」
どういうことだ、と舞衣を見る。
「大人に……なる前じゃなくても、高校生とか、中学生とか……」
「何が?」
首を傾げると、舞衣はもじもじとしながらこちらを見ていた。
「彼女に、なるっていう話……」
「高校生とか中学生……」
「優子ちゃんや美咲ちゃんたちが言ってたの。中学生になったら彼氏作りたいって。中学生になったら、彼氏彼女がいてもおかしくないって、言ってた……」
ませてるなあ、と口にはしながら、舞衣の友人達のことを思った。男子もませたことを考えてはいるが、女子ほどではないなと思う浩輔だ。
「……じゃあ、大人にならなくても」
「……うん」
舞衣は嬉しそうだ。
(舞衣って、俺のこと好きなのかな……)
そうかもしれない、と思った。
同時に、
(早く大人になりたい)
そう思ったのだった。
ブゥウーーーー……
浩輔と舞衣の脇を車が走り抜けて行った。
浩輔にはスポーツカーに見えた。
「カッコいいー……」
最近の専らの興味は「車」だ。お金を稼ぐ、その願望の目的のもう一つが「車」だ。いつか車を買う、それも目標の一つになっていた。
「車、カッコいいなあ……」
「三原君は車が好きなんだね」
「うん、大人になったらカッコいい車に乗りたい」
「……三原君なら乗れるよね」
「そう?」
「うん」
舞衣は笑って頷いた。
「頑張り屋さんだもん、三原君ならきっと」
「じゃあ、めっちゃお金貯めて、カッコいい車買ったら舞衣を一番最初に助手席に乗せてあげるよ」
「ほんと?」
「うん、もちろんだ」
浩輔も笑って頷いた。
「あ」
舞衣が急に顔色を変えたので、浩輔は怪訝な顔になった。
「どうかしたか?」
「あの……助手席には乗れないかも」
「なんで」
舞衣がなぜそんなことを言い出したのが、理解できずにいた。
「助手席って彼女が乗るものだって、優子ちゃんが……」
「彼女? ああ、恋人ってこと?」
小学生の自分には縁遠いものではあるが、ませている女子達にはそんな話題があったのだろう。
「うん。助手席は、彼女を乗せるから、そうじゃなかったら後ろに乗らなきゃって」
「ふうん……」
「だから、わたしは、後ろに乗せてほしいかな」
「後ろになんか乗せられるかよ」
スポーツカーだったら後部座席がないかもしれない、と浩輔は話した。舞衣は、そうなんだあ、と悲しそうな表情を見せる。
「だったら、俺の、彼女になればいいだろ」
浩輔の精一杯の言葉だった。
「大人になったら、俺の彼女になってよ」
「え……」
「今は子供だし、俺は、施設で暮らしてるから、自由が利かないけど……大人になったら、自分の力でなんでもしなきゃいけなくなるし……そしたらたぶん、舞衣を彼女に出来る……と思うし」
「……うん」
どういう根拠や理論なのだと思うが、子供の自分には必死だったのだ。
「なんて、子供の俺がほんと、何言ってんだろうな。忘れてく……」
「なる! なりたい!」
「え」
忘れてくれ、と言おうとしたのに、舞衣が被せてきたために言えなくなってしまった。
「三原君の彼女になりたい!」
「……おう、じゃあ、彼女、決定だ、な」
「うん。約束!」
「……約束」
二人は顔を見合わせ笑った。
照れくさそうに笑う浩輔と、頬を紅潮させた舞衣は、歩き出した。
心臓がドクドク言っている。告白してしまったようなものだ。これから毎日どんな顔をして舞衣に会えばいいのだろう、とも思ったが、舞衣が嫌がっていないのが救いだった。
「舞衣、このことは誰にも言うなよ」
「……うん。秘密だね」
「ああ」
「あの、ね、三原君」
「ん?」
「大人になるまで待たなきゃいけないかな?」
どういうことだ、と舞衣を見る。
「大人に……なる前じゃなくても、高校生とか、中学生とか……」
「何が?」
首を傾げると、舞衣はもじもじとしながらこちらを見ていた。
「彼女に、なるっていう話……」
「高校生とか中学生……」
「優子ちゃんや美咲ちゃんたちが言ってたの。中学生になったら彼氏作りたいって。中学生になったら、彼氏彼女がいてもおかしくないって、言ってた……」
ませてるなあ、と口にはしながら、舞衣の友人達のことを思った。男子もませたことを考えてはいるが、女子ほどではないなと思う浩輔だ。
「……じゃあ、大人にならなくても」
「……うん」
舞衣は嬉しそうだ。
(舞衣って、俺のこと好きなのかな……)
そうかもしれない、と思った。
同時に、
(早く大人になりたい)
そう思ったのだった。
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