大人の恋愛の始め方

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【第3部】祐策編

20.抑えられない欲望(前編)

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 仕事ではオンオフをしっかり切り替えで、祐策も真穂子も過ごしている。
 自分のほうがうっかり真穂子の名前を呼びそうになるが、彼女のほうが、
「宮城さん、少しいいですか!」
 察して、苗字を呼んで声を上げてくる。
(あっぶねえ……)
 やはり気がきく女性なのだなと改めて思ったりした。
 二人が恋仲であることは、恐らく誰も知らないはずだ。
 おっさんの中には、真穂子が祐策に気があるはずだと思っている者がいるし、祐策にけしかけてきた者は、祐策も真穂子に気があると感づいているだろう。
 だが一応はしっかり隠して、仲を深めている。
 もっと親密になりたいと思っていた身体の関係も深くなったし、祐策は満足している。真穂子のほうはどうかはわからないが、トラウマにも、祐策の行為にも怯えることはなく、正直なところかなり祐策好みになっていった。
「今日も泊まらずに帰りますか?」
 狭いが、二人で浴槽に浸かっている時、ふいに真穂子が言った。
 長く愛し合いすぎた夜には、泊まっていってもいいよと真穂子は言うが、神崎会長との約束「朝食は揃って食べる」と守るために祐策は帰宅する。泊まりたいのはやまやまだが。
 毎日職場で会っていても、双方の用事があるとプライベートでは会えるとは限らない。我慢しすぎて爆発してしまうこともあった。
「うん、帰る。ごめん」
「いえ、会長さんとの約束だものね」
 きっちり守る必要はない、と会長は言うが、他の同居人達も守っているし、出張や旅行ならともかく、女絡みで守らないのはなんとなく気まずかったのだ。
「ごめん」
「謝ることじゃないから」
「……おう」
 同居人たちの恋人たちもこんなやりとりをしているのだろうか、と思うことがある。
(久しぶりだったからな……もう一回は……)
 土曜日の今日は久々に週末デートをした一日だった。
 軽く弁当を作って、子供のピクニックのように、車で少し遠い公園まで出かけて、そこで弁当を食べた。ただ公園や野山を散策しただけのものだったが、楽しい時間だった。
 夕方は二人でスーパーに行き、食材を買い込んで夕食準備、来週の真穂子の弁当のおかずの準備……最近はこんな休みも多くなっていた。
 あちこちでお金を使うことも減っている。
 どちらともなく、将来のための貯蓄を意識しているからだと祐策は思っている。
「風呂上がったら、悪いけど帰る……」
「うん。また明日会えますし」
 明日の日曜も午後は会う約束をしている。明日はどこにも行かずに、おうちデートの予定だ。
「そうだな」
 祐策は真穂子を背後から抱き締めながら、湯船に浸かっている。
「じゃあ、上がりましょうか」
 彼女は声をかけたが、
「待って、もうちょっとだけ」
 祐策はぎゅっと力を加え、真穂子が立ち上がるのを制した。
「もうちょっとだけ、こうしてたい」
 久しぶりに抱いたし、と耳元で囁くように言う。
「……いいよ」
 最近は真穂子が友達の結婚式に参列したり、別の友達との約束があったりで、ゆっくり二人で過ごすことができなかった。真穂子にだって友達はいる。自分だけが独占するわけにもいかないのはわかっていた。
 祐策は真穂子の胸に手を移動させ、
「なあ、前よりおっきくなったよな?」
 やわやわと揉みながら、最近ふと気づいたことを口にした。
「そう……かな?」
「うん」
「えー……」
 真穂子は若干否定気味だが、祐策は彼女の胸のサイズの変化は確かだと思っていた。
(初めて触ったときは、手に少しあまるくらいだった気がするんだけどな……)
 俺の手が小さくなるわけないしな、と苦笑したが、その顔は真穂子には見えていないだろう。
「俺が揉むからかなあ」
「……そう、なのかな?」
 くにくに、と先端を刺激すると真穂子の耳が赤く染まっていく。風呂だから火照ったというわけではないことはわかっている。
「……祐策さんは」
「なに?」
「大きいほうが、いいよね」
「んー……いや?」
「間があった」
「大きいのも好きだけど、真穂子のが好きかな」
 嘘ばっかり、とふてくされる真穂子の声が耳に届いた。
「嘘じゃないよ」
 耳元で言うと、彼女は俯いた。
 祐策の手が動いていることについては拒む様子はないが、いいとも言わない。無言を貫いている。何か言ってくれてもいいのに、と思うが、何も言わないのはいつものことだ。
「良くない?」
 大体は祐策が声をかける。
「そんなことは……」
「じゃあ気持ちいい?」
「……うん」
 このやりとりもいつものことだ。
 誘うのはいつも祐策からだ。よほでなければ拒むこともない。したくないとは言われないから、今は祐策の身体を覚えてくれたのだろう。
(したいなら、誘ってくれてもいいんだけどなあ)
 これまでの祐策は誘われるほうが多かったので、真穂子からの誘いがないのは残念ではあった。もしかしたら昔の男が何か言ったのかもしれない、と、それは祐策の想像だ。
(DV男だしな……、何してきたかわかんねえ)
 貞淑な彼女だったのかな、と思ったりもする。
「ね、濡れてる……」
 指を彼女の敏感な場所へと移すと、身体がぴくりと震えた。
「……っ」
「俺もね、ちょっと反応しちゃってる」
「それは……気づいたけど」
 反応したその部分を、真穂子の尻にわざと押しつける。
「ねえ、風呂でするの、駄目?」
(そういえば、したことないな……)
「…………」
「やっぱしない。真穂子の嫌なことはしない」
「……駄目じゃ、ないですけど……」
「ほんと?」
 ならばそのつもりで、と、くにくにと指を執拗に這わせれば、真穂子の口から吐息が漏れ始めた。
 彼女と共に湯船から上がり、タイルの壁に向かって真穂子を立たせた。
「手ぇついて……そう、うん、その体勢で」
 背後から身体を密着させ、胸も秘部も手で丁寧な愛撫をする。
「あぅっ……」
 腰が砕け、がくん、と膝が崩れそうになるのを、祐策が支えた。
「大丈夫か……?」
「……うん」
 壁に真穂子は張り付くように立っている。
 ちょっとだけ屈んでほしいな、と言葉にはしないが、腰を少し後ろに引くと彼女は自分の思うとおりの体勢になってくれた。
 腰を掴むと、祐策は後ろからゆっくりと猛るそれを挿入していく。
「……っ……」
 仰け反るように身体が跳ね、祐策は奥まで押し込み、腰を打った。
「……はぁ……」
 そこからは夢中で腰を振るだけだ。
 動物のように、ひらすらだ。
 真穂子の喘ぎ声と、卑猥な水音、そして激しく肌の触れあう音が混ざって浴室に響いた。
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