大人の恋愛の始め方

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【第3部】祐策編

18.誕生日の夜(後編)

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 真穂子にキスをし、胸を包み……とさっきまでさんざんした行為を再び繰り返した。だが先程よりももっと丁寧に、もっといやらしい手つきで、だ。彼女のなかをもっとトロトロにさせないといけない。今度は指ではなく、自分のものを奥まで挿入するのだから。
「痛まない?」
「だい……じょうぶです……よ……」
 初めてじゃない分、幾分かましだろう。
 それに、クソ男とした時よりはだいぶましだろう。
 彼女の秘部はすっかりトロトロになっていた。おかげですんなり侵入できた、つもりだ。
(きつい……)
 窮屈なナカに押し込んでいく。
 我慢していた分、快感はすぐにやってきた。
 挿入しただけで、どくどくと波打っていくのがわかる。
 しばらく抱き合っているだけだったが、擦り合わせたい衝動は抑えられるはずはなく、ゆっくりゆっくり動き始める。
(はあー……やばい……)
 抱き合うと、真穂子は背中に手を回してきた。
 祐策もぎゅっと抱き締める力を加える。
 お互いの下半身をゆっくりぶつけ合うと、時折締め付ける力が強くなった。
「あー……ヤバ……気持ちいい……」
「よかっ、た……」
「雪野さんのナカ、熱い……」
 彼女のなかは指だけも温かみを感じたが、こうしてつながると、より一層彼女の温もりを感じた。
 肌と肌を寄せ合い、触れあう。
 抱き合ったまましばらく腰を動かしていたが、少し身体を起こし、真穂子を見下ろす格好になった。手と手を繋ぎ、指と指を絡め、ぐいぐいと自分のものを突く。しかし、今はまだゆっくり、ゆっくりと。
 スロームーブを続けながら、真穂子の身体のあちこちに唇で触れた。
(大丈夫そうだな……)
 初めは顔こそ歪めていたが、祐策のした行為はさほど痛くなさそうだし、それも無理をしているわけではないようだ。火照った顔と潤んだ瞳がさらに祐策を欲情させる。そして熱い吐息は益々彼を興奮させたのだった。
 視線を絡ませ、二人は溶けていく。
 真穂子が怖がらないよう、嫌がられたりしないよう……慎重に動いた。
 彼女の瞳がいつの間に開いており、視線が絡まった。
「……ん?」
 何か言いたそうに口を開いているのを見て、祐策が声をかけた。
「どうした? 辛いか?」
「……ううん」
「よかった」
 小さく笑うと、真穂子も笑った。
 だが、彼女はまだ何か言いたそうだった。
「なんか言いたいこと……あるのか……?」
 顔を覗き込むと、
「……す、き……」
「!?」
 否や、ぎゅんっと自分の熱いものが真穂子のなかでまた大きく蠢いた。
「……っ……!」
「……っ……!」
 真穂子は驚き、祐策は顔を顰めた。
「こらっ……それ反則だぞっ……!」
 ぐいっ、と大きく腰を打ち付ける。
 そして顔を近づけ、唇が触れそうな距離で言った。
「セックスの最中に言うなんて……反則だからな」
 キスをされるのかと思ったのか真穂子は目を閉じたが、
「反則だから、キスはしてやらねえ」
 と祐策はそのまま上体を起こした。
(気が高ぶってそんなこと言っただけかもしれないし……)
 そもそも遊びの女は言わないし、セックスの最中に好意の言葉を言う女は信じられない、と祐策は思っていた。と言うより、高虎やトモの影響が大きかった。
 昔の高虎は結構ひどいことを言っていた。
「好きでもない女が最中に『好き』って言ってくる女は遊び相手にいいんだよな。誰にでも言ってるだろうからさ、こっちに好きって言って落ちてくれりゃ、女もこっちを埋め合わせの相手にいいと思ってるだけなんだからな。気が高ぶったり興奮状態だと言っちゃうらしいよ」
 女に言われたことがなかったので、祐策にはわからなかったのだが。
「けどな、惚れた女がさ、自分に惚れてる時はマジでいいんだよ。セックスの最中に『好き』って言われたらもう止まんねえわ。あんまり言わないような女がさ、ぽろって言うわけ。気持ちが盛り上がってるからなんだろうけど、それって絶対本心だからさあ……マジ反則なわけよ、こっちは尽くしたくなる」
 そう言うけどこの人女に惚れたことあんのかな、とその時は思った。
「ま、惚れたことないけどな」
 やっぱそうですか、と高虎の話をその場で聞いた時は思ったものだ。
 しかし、高虎の言葉が今ならわかる。
「み……みや……」
「な……に……っ……」
 身体を起こして小刻みに動き始めると、真穂子がまた何か言った。
 もう我慢できず、これから絶頂に向かおうとしてる時にだ。少しだけ苛立って言った。
「宮城さんは……す……き……?」
(え……)
 今訊くの、と祐策は真穂子を軽く睨む。
 一瞬動きを止めそうになったが、なんとかとどまった。
「す……」
「す……?」
「好きに決まってんだろ! めちゃくちゃ抱き潰してぇのを、めちゃくちゃ我慢するくらい好きなんだよ! ああああもう無理! 優しくなんてできねえ。もう黙れ、口塞ぐぞ」
 真穂子の目から一滴、何かが零れ落ちた。
「う……わ、たしも……」
「黙れって。俺とのセックスに集中しろよ」
 祐策は勢いよく口を塞いだ。
 こんな乱暴な言い方をするつもりはなかった。
 もっと甘く囁きたかった。
 しかしそんなのは自分の柄じゃない。
 そう思うや、繕うことなく自分の言葉で真穂子に伝えてしまった。
 詫びるのは後にしよう。
 乱暴に口を塞がれた真穂子は大人しくなり、目を閉じて祐策の動きを快楽として感じている様子だった。
 口を押さえる真穂子の手をどけさせ、
「声、出せよ……」
 そう言った。
「だって……だ……黙れって……言われ……た……」
 息も絶え絶えに言う真穂子に、祐策は盛大に顔を顰めた。
(だあっ! そういう意味じゃない……!)
 こんなやりとりをすると、彼女は慣れてないのだと悟った。
 両手を取り、口を隠せないように掴む。
 激しく腰を動かし、彼女の奥へと打ち付ける。
 さらに加速させ、最高潮へと誘われた。
 真穂子の声も激しくなる。
 もっとほかの体位もしたい、彼女に動いてもらうとか、後ろから激しく突くとか……、いろんなことをしたいのに、もうそんな余裕はなかった。ただ一身に正面から彼女を攻め続けるだけだ。
(今夜はそれでいい、俺が全部したい)
 祐策には考える余裕はなかった。
「うっ……あっ…………っ……っ……」
 喉の奥から低く呻きが洩れた。
 びくんびくんと、彼女のなかに欲を放った。
 真穂子の身体に倒れ込むと、二人とも全身で息を整えた。
 気がつけば、汗が滴り落ちている。
 汗ばんだ身体に倒れたまま動けずにいた。真穂子の早い心音が伝わってくる。こちらの動悸も伝わっていることだろう。
「はぁー……」
 ややあって、真穂子のなかから自分のものを抜き取ると、ちゅっとキスを落とし、ごろんと隣に転がった。真穂子を壁側に、自分はベッドから落ちないように気をつけながら、彼女に背を向けると、力を無くしていくそれに手をやり、欲の入ったそれを取り去った。こっそり処理をしたあと隠すと、真穂子に向き直った。
 壁際を向いている真穂子の腕を取り、こちらを向かせた。
「…………」
 事を終え、恥ずかしそうにしている彼女を抱き寄せ、また自分もすり寄った。
 胸のなかへと真穂子の頭を引き寄せ、抱き締める。
 まだお互いの心臓がドクドク言っているのがわかった。
「ひどいこと言った……ごめん」
「え? そんなこと……」
 高ぶって乱暴な口調になっていたことを言っているのだが、彼女は気にしていないようだった。
(けど、前の男みたいに乱暴してると思われたら……)
 顔色を伺ってみるが、怯えた様子や拒絶の様子はなかった。
 乱れた髪に唇を当て、真穂子の身体を撫でてやる。
 無言で抱き合い、身体を休めた。

「身体、痛くないか?」
「大丈夫、です」
 胸のなかで首を振った。
 顔を上げ、祐策を見た。
「ん?」
「なんでもないです」
 小さく笑う真穂子に、どきりとした。
 色っぽくて可愛らしくて、ますます手放したくなくなる。
(前の男より、よかったか、なんて……訊けねえしな)
 悪くはなかったはずだ、と勝手に思うことにした。
(声、出てたし……演技じゃないだろうし)
 俺のことめちゃくちゃ好きなんだな、と笑いがこみ上げてきたが、今ここで笑うのは変態だ、と堪えた。
「エロすぎだよ」
「……そんなことは……」
「ある」
「宮城さん、経験豊富だから……がっかりしたんじゃないかって」
「するわけない! って誰が経験豊富だよ、ふざけたこと言うなよ。怒るぞ」
 情報源はどうせ神崎高虎だろう。
「……ごめんなさい」
 いいけどさ、と真穂子の胸の先端を抓む。
「ひゃ」
「悪いこと言うなら、お仕置きするからな」
 真穂子は肩を竦めた。 
「なあ……」
「はい」
「……敬語、やめようよ。俺のほうが学年は一個下なんだし」
「…………」
「嫌か?」
「いえ、努力します」
「それと、名前」
「名前?」
「苗字でずっと呼ぶのもな、って思うんだけど」
 お互いずっと苗字呼びなのを、どこかでなんとかしたい、と思っていた。つきあって半年以上もたつのに、名前は余所余所しい。
 セックスの最中に苗字で呼ばれてしまうのが少し萎えそうだった。
(だってもしかしたら、雪野さんも『宮城』になる日が来るかもしれないし……ってめっちゃ恥ずかしいこと思ってるんなんて言えねえけど)
「あー……」
「嫌か?」
 真穂子が肯定しないことを不思議に思った。
「もし名前に慣れたら、仕事の時も言っちゃいそうで」
「いや大丈夫でしょ、雪野さんなら。オンオフちゃんと切り替えてるし」
「まあ……気をつけてはいますけど」
「よし、じゃあ、名前で。俺も、名前で呼んでいいか?」
 はい、と真穂子は頷いた。
「じゃあ、わたしは……祐策さん?」
「え、なんで『さん』付けなの、呼び捨てでいいよ。あんまりそんな呼び方されないし。それに俺も真穂子、って呼びたいし」
「あの………なんか呼び捨ては申し訳ない気がして」
 申し訳ないことなんてないよ、と祐策は笑う。
「でも……」
「じゃあ、ゆうちゃんとか?」
「それはなんかガキくさくないか? まあ俺のが年下だけどさ。俺たち対等なんだし、それなら『くん』付けは?」
「それは……」
 真穂子はなぜかまた渋った。
「なんだよ、呼びづらいか?」
「じゃなくて……その……」
「言いたいことは言えっての」
 真穂子の鼻をつまむと、彼女は小さく悲鳴を上げた。
「だって……。宮城さんの、前の彼女さん? あの人が……」
「え」
「あの、前に会った、胸が大きいゆるふわ髪のきれいな人……」
「ユキミ……?」
 うっかり名前を言ってしまい、しまったと思ったがもう遅い。
「あの人が『祐策君』って呼んでたから、同じは……呼びたくない……かなって……」
「え」
 確かにユキミは自分のことを『くん』付けしていた。
 同じ呼び方をしたくないだなんて。
「嫉妬かよ」
「…………」
「どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「…………」
 俯き、祐策に顔を見られないように隠す真穂子だった。
(可愛すぎだろ!)
「わかった。じゃあ『さん』付けでいいよ。真穂子が俺をめちゃくちゃ好きなのがわかって満足したし、それで頼む」
「お願いします」
 可愛すぎだよこのやろう、と真穂子を抱き締めた。
 俺だって大好きだ、と今回は心の中で叫んだ。

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