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【第3部】祐策編
17.高虎の尋問(前編)
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神崎邸に、会長の甥の高虎が来訪していた。
(久しぶりな気がする)
高虎に会うのは正直なところ久しぶりだった。
ちょくちょく伯父の所へ来ているようだが、祐策が高虎に会うのは久しぶりだった。そして祐策は少し身構える。
「よっ、祐策」
「……ッス」
「まほちゃんと仲良くやってるか」
絶対に言うと思った、と祐策は内心で思った。
「まあ、それなりに」
「よかったよ」
それは本心からのようで、高虎は嬉しそうに笑った。
「他のみんなはまだ仕事か? 帰ってないのか」
「あー、そうみたいですね」
平日なのでみんな帰宅時間はばらばらだ。
寄り道をする者もいれば、仕事が遅い者もいる。
「会長は今日会食だそうですよ。トモさんは仕事ですし、三原はどうせ彼女の所で、カズは……残業なのかな」
「祐策だけかあ」
「俺だけですみません」
「いやいや、別に悪くねえよ。こないだ京都に出張行ったからさ、その土産持ってきただけだよ。伯父さん、和菓子好きだからさ」
渡しといてよ、と高虎は和菓子が入っているらしい紙袋を祐策に預けた。
「もちろん多めに買ってきたからさ、みんなで食べてよ」
「ありがとうございます」
「あと、これはまほちゃんの分な。祐策に預ける。だから二人で一緒に食べろよ。抹茶のバウムクーヘンだ」
「ありがとうございます……」
気前がいい高虎だ。
「まほちゃんは抹茶スイーツ好きだからさ」
「そうなんですか」
その情報は知らなかった。自分は知らないのに高虎が知っていることがなんだか悔しかった。
「あ……茶淹れますんで」
「いいよ、自分で入れる。勝手知ったるなんとかだよ」
「お土産くださってるんですから、俺が淹れますよ。インスタントですけど。あ、コーヒーのほうがいいですか?」
「サンキュ、それなら甘えるか。ならお茶がいいな」
「わかりました」
ティーバッグの緑茶を準備し、高虎に出した。
「ありがとな」
自分の分も用意し、高虎の前に座った。
「最近まほちゃんに会ってないな。元気か?」
「はい、普通に元気かと」
「それならいいな。おまえと付き合うようになってからは、あんまり連絡取ってないからさ」
「前は取り合ってたんですか?」
飲みに行った時に妻の代わりに迎えに来させるようなことはしている、というのは聞いたことがあったが、そんなに頻繁に取っていたのだろうかと首を傾げる。
「そういうわけじゃないよ。まあ飲みの時に迎えの車出してもらったりしてたからさ、そのときに話しててな」
「そうですか……」
「ヤキモチ妬くなよ?」
「いや別に、妬きはしませんけど」
何言ってんだこの人、と祐策は軽く睨む。
「まほちゃんの好きな男が祐策だとはびっくりしたけどなあ。祐策でよかったよ」
「…………」
真穂子から「好きな人ができた」という話を聞いてはいたらしい。義兄にそんな話するものなのか、と思ったが、真穂子と姉は仲がいいようなので、義兄の高虎ともそれなりに親しいのだろうと思えた。
「俺さ、勝手に祐策の彼女にまほちゃんいいよなあって思ってたから、好きな男が出来たって聞いて、あーあ、って思ってたんだけど。まさか同じ会社でそれが祐策だったとはさ。ほんとびっくりしたわ。……マジで祐策でよかった」
「そう、ですか……」
どうして真穂子が自分の彼女にいい、なんて思ったのか高虎の思考も気になる。
「まほちゃん、男運悪かったからさ、安心してる。祐策なら大丈夫って思うからさ」
「そんないいもんでもないですよ、俺は……」
高虎にそう言われてしまうと、ただただ気恥ずかしい。でもそんな太鼓判を押されるほどの男でもないと自分で思ってしまう。
「何より内面は生真面目だしな」
「……そうですかね……」
まあ不真面目ではないか、とは思う祐策だ。
「もう、遊びの女は切ってんだろ」
祐策に本気でない相手がいたことは、高虎も知っている。特にユキミは、高虎やトモ目当てで近づいてきた女で、相手にされず、言い方は悪いが祐策に回ってきた女なのだから。
「……とっくに切ってますよ。雪野さんに惚れてからは、全然……」
「そういうところが真面目なんだよ」
その頃は、真穂子と高虎が不適切な関係なのだと誤解していたのだが。
「祐策は女の評判良かったもんな」
「なんのですか」
「……決まってんだろ。セックスのだよ」
ぶっ、と茶を吹き出しかけてとどまった。
「し、知りませんよそんなの」
「おまえのセックスが丁寧だって、評判聞いたけどな」
「やめてくださいよ」
「まほちゃんも悦ぶだろうなあ」
「お願いですから、雪野さんの耳にはそんなの入れないでくださいよ」
「わかってるって。言えねえよ」
ほんとかよ、と祐策は心の中で悪態をついた。
背が高くて顔もイケメンで、頭もいいし、経営者で人柄もいい。ただ卑猥な話が好きな男で、元ヤクザ仲間も自分も少々困ることがある。
「で? まほちゃんをちゃんと悦ばせてんだろうな?」
「……あのですね、雪野さんは他人、ましてや義理とは言え兄弟に性事情知られたくないと思いますよ」
「ん、そうか? じゃあさ、義兄義妹抜きにして、純粋におまえと俺の仲ってことで」
どういう仲だよ意味わからん、と口にはしないがツッコミを入れる。
「言いませんよ」
「なんで」
「言いたくないですよ」
「ケチ」
「なんとでも言ってください」
「……まあいっか。祐策としてるなら」
「?」
どういうことだろう、と祐策は高虎の顔を見返した。
「可愛い義妹が、祐策の手中に落ちちまったかあ。まあ祐策なら、全然オッケーだしな。安心できるし」
「…………」
義理とはいえ高虎は妹になった真穂子のことを可愛がっているのだろう。高虎には兄弟姉妹はいないし、自分を慕ってくれる者にはとても甘い。祐策達のことも可愛がってくれているのだから。
「で、どんなセックスしてんだよ」
「……ブッ」
やはり高虎は卑猥で下ネタが好きな男だったようだ。他の同居人にも同じことを聞いて、煙たがられていた。それでも本気で遠ざけないのは、会長の甥ということを抜きにしても、彼には世話になっっていたし、憎めない男だからなのだ。
「だから、言いませんって。俺たちに片っ端から訊いてますよね? トモさんにも三原にも訊いてましたよね!?」
「なんでだよー。いいじゃん聞きたいじゃん。トモもさ、教えないって言うんだよな。あいつにいろんな女教えたの俺なのに」
いやあんたそれ言わないほうがいいよ、と口から出そうになった。
「気になるじゃんかー」
「言いません」
「ケーチ。前は話してくれたじゃん。あの女はよかっただろ、ってきいたら、よかったです、とかさあ。好みの女とかも言ってくれたから、まわしてやれたのにさあ」
「なんとでも言ってください。てか神崎さん、もう既婚者なんだから、そういう下品な発言やめてくださいよ」
「既婚だからこそ、だよ。奥さんしかさー出来ないし」
「それは当然ですよ。既婚者じゃなくても、決まった相手がいるならダメでしょうが」
若い頃は遊べたなあ、と高虎が呟き、祐策は呆れてしまった。
「で? で? まほちゃんとはどんな感じ?」
「……言わないって言ってるじゃないですか」
「強引な感じでやるわけ? それともマホちゃんが?」
「…………」
だんだん腹が立ってくる祐策だった。
デリケートな話なのに本当にしつこい。
きっ、と睨み返し、
「言いませんよ」
と言い放った。
(久しぶりな気がする)
高虎に会うのは正直なところ久しぶりだった。
ちょくちょく伯父の所へ来ているようだが、祐策が高虎に会うのは久しぶりだった。そして祐策は少し身構える。
「よっ、祐策」
「……ッス」
「まほちゃんと仲良くやってるか」
絶対に言うと思った、と祐策は内心で思った。
「まあ、それなりに」
「よかったよ」
それは本心からのようで、高虎は嬉しそうに笑った。
「他のみんなはまだ仕事か? 帰ってないのか」
「あー、そうみたいですね」
平日なのでみんな帰宅時間はばらばらだ。
寄り道をする者もいれば、仕事が遅い者もいる。
「会長は今日会食だそうですよ。トモさんは仕事ですし、三原はどうせ彼女の所で、カズは……残業なのかな」
「祐策だけかあ」
「俺だけですみません」
「いやいや、別に悪くねえよ。こないだ京都に出張行ったからさ、その土産持ってきただけだよ。伯父さん、和菓子好きだからさ」
渡しといてよ、と高虎は和菓子が入っているらしい紙袋を祐策に預けた。
「もちろん多めに買ってきたからさ、みんなで食べてよ」
「ありがとうございます」
「あと、これはまほちゃんの分な。祐策に預ける。だから二人で一緒に食べろよ。抹茶のバウムクーヘンだ」
「ありがとうございます……」
気前がいい高虎だ。
「まほちゃんは抹茶スイーツ好きだからさ」
「そうなんですか」
その情報は知らなかった。自分は知らないのに高虎が知っていることがなんだか悔しかった。
「あ……茶淹れますんで」
「いいよ、自分で入れる。勝手知ったるなんとかだよ」
「お土産くださってるんですから、俺が淹れますよ。インスタントですけど。あ、コーヒーのほうがいいですか?」
「サンキュ、それなら甘えるか。ならお茶がいいな」
「わかりました」
ティーバッグの緑茶を準備し、高虎に出した。
「ありがとな」
自分の分も用意し、高虎の前に座った。
「最近まほちゃんに会ってないな。元気か?」
「はい、普通に元気かと」
「それならいいな。おまえと付き合うようになってからは、あんまり連絡取ってないからさ」
「前は取り合ってたんですか?」
飲みに行った時に妻の代わりに迎えに来させるようなことはしている、というのは聞いたことがあったが、そんなに頻繁に取っていたのだろうかと首を傾げる。
「そういうわけじゃないよ。まあ飲みの時に迎えの車出してもらったりしてたからさ、そのときに話しててな」
「そうですか……」
「ヤキモチ妬くなよ?」
「いや別に、妬きはしませんけど」
何言ってんだこの人、と祐策は軽く睨む。
「まほちゃんの好きな男が祐策だとはびっくりしたけどなあ。祐策でよかったよ」
「…………」
真穂子から「好きな人ができた」という話を聞いてはいたらしい。義兄にそんな話するものなのか、と思ったが、真穂子と姉は仲がいいようなので、義兄の高虎ともそれなりに親しいのだろうと思えた。
「俺さ、勝手に祐策の彼女にまほちゃんいいよなあって思ってたから、好きな男が出来たって聞いて、あーあ、って思ってたんだけど。まさか同じ会社でそれが祐策だったとはさ。ほんとびっくりしたわ。……マジで祐策でよかった」
「そう、ですか……」
どうして真穂子が自分の彼女にいい、なんて思ったのか高虎の思考も気になる。
「まほちゃん、男運悪かったからさ、安心してる。祐策なら大丈夫って思うからさ」
「そんないいもんでもないですよ、俺は……」
高虎にそう言われてしまうと、ただただ気恥ずかしい。でもそんな太鼓判を押されるほどの男でもないと自分で思ってしまう。
「何より内面は生真面目だしな」
「……そうですかね……」
まあ不真面目ではないか、とは思う祐策だ。
「もう、遊びの女は切ってんだろ」
祐策に本気でない相手がいたことは、高虎も知っている。特にユキミは、高虎やトモ目当てで近づいてきた女で、相手にされず、言い方は悪いが祐策に回ってきた女なのだから。
「……とっくに切ってますよ。雪野さんに惚れてからは、全然……」
「そういうところが真面目なんだよ」
その頃は、真穂子と高虎が不適切な関係なのだと誤解していたのだが。
「祐策は女の評判良かったもんな」
「なんのですか」
「……決まってんだろ。セックスのだよ」
ぶっ、と茶を吹き出しかけてとどまった。
「し、知りませんよそんなの」
「おまえのセックスが丁寧だって、評判聞いたけどな」
「やめてくださいよ」
「まほちゃんも悦ぶだろうなあ」
「お願いですから、雪野さんの耳にはそんなの入れないでくださいよ」
「わかってるって。言えねえよ」
ほんとかよ、と祐策は心の中で悪態をついた。
背が高くて顔もイケメンで、頭もいいし、経営者で人柄もいい。ただ卑猥な話が好きな男で、元ヤクザ仲間も自分も少々困ることがある。
「で? まほちゃんをちゃんと悦ばせてんだろうな?」
「……あのですね、雪野さんは他人、ましてや義理とは言え兄弟に性事情知られたくないと思いますよ」
「ん、そうか? じゃあさ、義兄義妹抜きにして、純粋におまえと俺の仲ってことで」
どういう仲だよ意味わからん、と口にはしないがツッコミを入れる。
「言いませんよ」
「なんで」
「言いたくないですよ」
「ケチ」
「なんとでも言ってください」
「……まあいっか。祐策としてるなら」
「?」
どういうことだろう、と祐策は高虎の顔を見返した。
「可愛い義妹が、祐策の手中に落ちちまったかあ。まあ祐策なら、全然オッケーだしな。安心できるし」
「…………」
義理とはいえ高虎は妹になった真穂子のことを可愛がっているのだろう。高虎には兄弟姉妹はいないし、自分を慕ってくれる者にはとても甘い。祐策達のことも可愛がってくれているのだから。
「で、どんなセックスしてんだよ」
「……ブッ」
やはり高虎は卑猥で下ネタが好きな男だったようだ。他の同居人にも同じことを聞いて、煙たがられていた。それでも本気で遠ざけないのは、会長の甥ということを抜きにしても、彼には世話になっっていたし、憎めない男だからなのだ。
「だから、言いませんって。俺たちに片っ端から訊いてますよね? トモさんにも三原にも訊いてましたよね!?」
「なんでだよー。いいじゃん聞きたいじゃん。トモもさ、教えないって言うんだよな。あいつにいろんな女教えたの俺なのに」
いやあんたそれ言わないほうがいいよ、と口から出そうになった。
「気になるじゃんかー」
「言いません」
「ケーチ。前は話してくれたじゃん。あの女はよかっただろ、ってきいたら、よかったです、とかさあ。好みの女とかも言ってくれたから、まわしてやれたのにさあ」
「なんとでも言ってください。てか神崎さん、もう既婚者なんだから、そういう下品な発言やめてくださいよ」
「既婚だからこそ、だよ。奥さんしかさー出来ないし」
「それは当然ですよ。既婚者じゃなくても、決まった相手がいるならダメでしょうが」
若い頃は遊べたなあ、と高虎が呟き、祐策は呆れてしまった。
「で? で? まほちゃんとはどんな感じ?」
「……言わないって言ってるじゃないですか」
「強引な感じでやるわけ? それともマホちゃんが?」
「…………」
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