大人の恋愛の始め方

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【第2部】27.決意

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 その後はトントン拍子で物事が進んで行った。
 部屋は聡子が職場に自転車で通える場所に決め、部屋はトモと聡子それぞれ設けられる物件にした。
 基本はトモの部屋で寝て、一緒に寝られない状況の時のために、聡子が使っていたシングルベッドを彼女の部屋に置いておく。
 一緒に寝られない状況というのが、どういうことがわからず、トモはアドバイスをくれたカズに言った。
「俺らがケンカした時とかってことか?」
「それもあるかもしれませんけど、例えば病気したりで寝込むことがあったら、一緒には寝られないでしょ? トモさんと聡子さんは仕事の休みが違いますし、起こしちゃいけないときとか、そういう時のためですよ。誰もケンカする前提で言いませんよ」
「そうか……」
 カズは何者なんだ、と時々思う。失恋上級者だとは言っていたが、同棲の手引きまでなぜ詳しいのか不思議だった。
 引っ越しは、同居人達が手伝ってくれた。建築会社に勤める同居人の宮城が、職場のトラックを借りてくれて、荷物の運搬をスムーズにしてくれた。そもそもトモの荷物は少なく、聡子自身も多いほうではなかったので、わりと早く搬入は済んだ。不足しているものはこれから揃えていくつもりだ。
「みなさん、ありがとうございました」
「いいえ、トモさんと聡子さんのためなら」
 トモの三人の同居人たちは、本心からそう言ってくれているようだった。
 ペットボトルの飲み物を渡し、それぞれ受け取ってくれた。
「あと、これ……みなさんにお礼です」
 と聡子は、下げていたサコッシュから素早くポチ袋を取り出し、三人に手渡した。トモはそれが用意されていることは知らなかった。
「少ないのですが、今日のお礼ですので」
 三人は何が入っているか察し、聡子に戻そうとしたが、彼女は両手で制した。
「本当に今日はとても助かりましたので。もしかしたら今後も無理をお願いすることがあるかもしれませんし」
「それくらいは……」
「あと宮城さんは、こちら……会社の社長さんに、トラックの賃料としてお渡しいただければ嬉しいです」
「えっ」
 聡子のビジネスマナーに全員が無言になった。トモは聡子はそこまで準備していたことに驚いた。相談してくれればよかったのに、とも思ったが、相談されていても「あいつらならやってくれるから気にすんな」と言っていただろう。そういうマナーを知らなかった自分が恥ずかしくなった。
「本当にありがとうございました」
「いえ……」
「ありがとな」
 こうやっていろんな人に支えられてきて、支えられていくんだろうなと思うと、トモはとても幸せな気持ちになった。
 トモの同居人の三人は深々と頭を下げた。
 聡子も深々と頭を下げていた。
「あと何か手伝えることないですか」
 申し訳なさそうに皆が尋ねてきたが、
「いや……あとは自分らで出来ることばっかだから大丈夫だ」
 トモは笑った。
「今度、飯奢る」
「やった! 焼き肉焼き肉!」
 宮城が小躍りする。
「おまえめちゃ食うから焼き肉は食べ放題でないと駄目だ」
「えー……」
「まあまあ」
 聡子が楽しそうに笑った。
 暫く雑談をしたあと、三人が帰ろうとしたので、トモ達は見送りに行くことにした。
「あっ」
 三人の一人、三原が思い出したように声を上げた。
「カズ、あれ、あれ」
「あっ」
 話を振られたカズが何かを思い出したように、自分のトートバッグを開けた。
「危ない、忘れるところでした。これ」
 カズは、長財布くらいより一回りほど大きい、リボンのかかった白い包みを取り出した。
「これ、会長からお二人に、って預かりました」
「なんだ?」
「引っ越し祝いだそうですよ」
 うんうん、とカズの他の二人も頷いた。
「まあ年末年始の温泉旅館宿泊券だそうですよ。年末年始なら二人ともお休み一緒ですし、のんびりできるだろうって。まあ、一緒に住めば二人でいつでもイチャイチャすることはできますでしょうけど」
 最後の一言はいらないだろ、とトモは口を尖らせた。
 聡子がそれを受け取り、また深々を頭を下げた。
「会長はのんびり、っておっしゃってましたけど、しっかりイチャイチャしてきてくださいね」
「カズ……」
 聡子は顔を真っ赤にさせ、トモはカズを睨んだ。
 ちゃんと渡しましたからね、とカズはにやにやしながら言った。
「おう、おまえらが羨ましがるくらいイチャイチャしてきてやるわ。土産話楽しみにしとけ」
 そう吠えるトモを尻目に、三人は手を振って帰っていた。
「温泉に行く前に、同棲初夜、楽しむくせに」
「じゃ、お幸せに~」
「またね、聡子さん」 
 急に静かになった二人の部屋に、
「なんなんだ、あいつら……」
 トモのつぶやきが響いた。
「智幸さん、売り言葉に買い言葉で、恥ずかしいこと言わないでくださいよ」
 はい、と受け取った会長からの祝いをトモに差し出した。
「つい、な……まあ、あいつらも俺らが何してるかわかってて言ってんだし」
 口を尖らせ、むっとする聡子の唇をちょんちょんと指でつついた。
「にしても会長、気を遣ってくれたんだな……」
「ですね。引っ越し祝でこんな豪華なものいただいちゃって……お礼、伝えなきゃですよ」
 赤い顔のまま、聡子はそっぽを向いて言った。
「じゃあ、さっさと片付けて、イチャイチャするか」
「もう……イチャイチャしたいなら片付けましょうかね」
「おう。片付けたらイチャイチャしてくれるってことだな?」
「今日しなきゃいけない分が終わったら、いいですよ」
「よしっ、さっさとやるぞ」
 俄然やる気の出るトモだ。
「んもう……智幸さんのスイッチって……」
 聡子は呆れたように笑い、段ボール箱を見回した。
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