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【第2部】27.決意
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本気で、一緒に住む部屋を探しはじめた。
「家具はあとでもいいと思う」
まずは二人の住みたい部屋についての意見を出し、それに添って部屋情報を集め、二人で考えた。今日明日に部屋を決めなくてもいいから、それより行動に移そう、トモが言うと聡子も頷いてくれた。
夜、会うと聡子の部屋で話し合いをすることが多くなった。
「会長さんを、説得できるんですか?」
「会長? 神崎会長? なんでだ?」
聡子の質問の意図が理解できないトモだった。
「だって恩があるから、って……朝は一緒に食事をする取り決めだって話してくださったじゃないですか」
「それは同居のルールだ。会長は、俺たちが独立するのが駄目だと思ってはいないよ。独立するならしろっていうスタンスだ。そもそも、組を抜けて五年経過しないと……いろんな契約が出来ないから、俺たちの面倒を見てくれてる。寧ろ、五年経ったんだからいつまでもすがってるほうがおかしいんだ」
大丈夫だよ、とトモは笑った。
「わたし、会長さんにご挨拶したいです。バーで働いてた時に一度お会いして、あの……警察の、あの時にお会いした、それっきりなんです。トモさんと暮らすに当たって、ご挨拶しなきゃって思ってます」
親代わりみたいな存在だというのを知っているから彼女はそう言ったのだろう。
(だったら……)
「俺は、聡子のお母さんいご挨拶に行かないといけないな」
「え?」
「おまえが寝込んだ時に会った、あれっきりだ。ちゃんと挨拶してないし、同棲する前に許可もらっとかないとな」
「別に一緒に住むことも事後報告でいいんじゃないですか?」
聡子はきょとんとしている。
「いや……ちゃんとケジメつける。あの時、自分の素性を少し話しただけの程度だ。ちゃんと真剣に聡子と付き合ってて将来を考えてること、伝えたい」
「……わかりました。智幸さんがそう思うんでしたら、そうしましょうか……ありがとうございます」
嬉しそうに笑う聡子だった。
聡子の母親の都合に合わせる、とトモは伝えた。
だったら、と聡子はおずおずと言う。
「わたしは、智幸さんのご家族……にご挨拶しなくてもいいんでしょうか」
「…………」
「いえ、すみません。必要ないと思われるのなら、大丈夫です」
「…………」
トモが無言になってしまったことに、聡子は気まずそうに遮った。
「気を悪くされたならごめんなさい。……部屋の候補、絞ったので内覧するところ選びましょうか」
話題を変えようと聡子は、不動産屋のチラシを並べる。
「聡子」
「……はい」
手を止め、聡子はトモを見返した。
彼女は自分からトモの家族のことを訊いたことはなかった。聡子が「妹か」と言われた時に、妹がいるのかと尋ねてきたことがある。あの頃は……自分のことを、ただ寝るだけの相手に話す気もなかったし、話したくもなかったから突っぱねた。それ以降は、タブーだと思っているのか何も自分からは尋ねてくることはなかった。
今は、きっと思い切って言ったのだろう。自分が答えないことで、また訊いてはいけなかった、と思ったに違いない。
「別に自分の身内のことを言いたくなかったわけじゃない」
「え?」
「訊きたいなら話す。でも大した家族じゃないし、挨拶に行く必要もない」
「…………」
「と俺は思っている」
「……わかりました。じゃあ、挨拶はなしで構いません。でも」
聡子は真っ直ぐにトモを見た。
「智幸さんのことは……知りたいです」
「……そうか」
「まだまだ知らないことが多すぎて」
ごめんな、とトモは手を伸ばし、聡子の頭を撫でた。
隣に来て、とトモはベッドを背もたれにしたあと、聡子を横に座らせた。素直に応じた彼女はトモに寄り添うように腰を下ろした。
「何から知りたい?」
「んー……」
じゃあ家族構成、と彼女はおずおず言った。
「妹さんがいるのかな、って思ってたので……でも話したくなさそうだったし」
「そうだったか?」
「前、その……わたしが『妹さんがいるんですね、それともわたしのこと妹だって言ってるんですか』って言ったら急に怒りだして……覚えてないですか?」
トモは記憶を辿る。
「う……悪い……覚えてない……」
「そう、ですよね」
聡子の顔を見ると、少し寂しそうだった。
「ごめん」
「いえ、いいんですよ」
だってセックスする前だったし、と彼女は言った。
「わたしのこと妹みたいに思ってるんですか、って言ったら智幸さんが怒り出して……」
「そうだったっけ……」
なんとなく、記憶を拾い始める。
元の仲間に会って、聡子を見て「噂の妹か」と言われてことがあったような気がする。
「んー……思い出せないな」
「思い出さなくっていいですよ。わたしは智幸さんが好きだったので覚えてるだけで」
聡子の肩を抱き、もう一度詫びた。
「別に妹がいることを隠してるわけじゃない。言いたくないわけでもない。使いっ走りの頃は人に話したこともあった。けど、若が……神崎さんが」
急に高虎の名前が出てきたことで、聡子はきょとんとした。
「あまり自分の素性を話すな、って。今は信頼できる相手でも、何をどう裏切ってくるかわからない。縁を切った家族でも、危害が加えられる可能性もあるぞ、って教えられて……それからは自分のことを話さなくなった」
「そうだったんですね……」
高虎には本当に色々教えてもらったな、と思うトモだった。
「家具はあとでもいいと思う」
まずは二人の住みたい部屋についての意見を出し、それに添って部屋情報を集め、二人で考えた。今日明日に部屋を決めなくてもいいから、それより行動に移そう、トモが言うと聡子も頷いてくれた。
夜、会うと聡子の部屋で話し合いをすることが多くなった。
「会長さんを、説得できるんですか?」
「会長? 神崎会長? なんでだ?」
聡子の質問の意図が理解できないトモだった。
「だって恩があるから、って……朝は一緒に食事をする取り決めだって話してくださったじゃないですか」
「それは同居のルールだ。会長は、俺たちが独立するのが駄目だと思ってはいないよ。独立するならしろっていうスタンスだ。そもそも、組を抜けて五年経過しないと……いろんな契約が出来ないから、俺たちの面倒を見てくれてる。寧ろ、五年経ったんだからいつまでもすがってるほうがおかしいんだ」
大丈夫だよ、とトモは笑った。
「わたし、会長さんにご挨拶したいです。バーで働いてた時に一度お会いして、あの……警察の、あの時にお会いした、それっきりなんです。トモさんと暮らすに当たって、ご挨拶しなきゃって思ってます」
親代わりみたいな存在だというのを知っているから彼女はそう言ったのだろう。
(だったら……)
「俺は、聡子のお母さんいご挨拶に行かないといけないな」
「え?」
「おまえが寝込んだ時に会った、あれっきりだ。ちゃんと挨拶してないし、同棲する前に許可もらっとかないとな」
「別に一緒に住むことも事後報告でいいんじゃないですか?」
聡子はきょとんとしている。
「いや……ちゃんとケジメつける。あの時、自分の素性を少し話しただけの程度だ。ちゃんと真剣に聡子と付き合ってて将来を考えてること、伝えたい」
「……わかりました。智幸さんがそう思うんでしたら、そうしましょうか……ありがとうございます」
嬉しそうに笑う聡子だった。
聡子の母親の都合に合わせる、とトモは伝えた。
だったら、と聡子はおずおずと言う。
「わたしは、智幸さんのご家族……にご挨拶しなくてもいいんでしょうか」
「…………」
「いえ、すみません。必要ないと思われるのなら、大丈夫です」
「…………」
トモが無言になってしまったことに、聡子は気まずそうに遮った。
「気を悪くされたならごめんなさい。……部屋の候補、絞ったので内覧するところ選びましょうか」
話題を変えようと聡子は、不動産屋のチラシを並べる。
「聡子」
「……はい」
手を止め、聡子はトモを見返した。
彼女は自分からトモの家族のことを訊いたことはなかった。聡子が「妹か」と言われた時に、妹がいるのかと尋ねてきたことがある。あの頃は……自分のことを、ただ寝るだけの相手に話す気もなかったし、話したくもなかったから突っぱねた。それ以降は、タブーだと思っているのか何も自分からは尋ねてくることはなかった。
今は、きっと思い切って言ったのだろう。自分が答えないことで、また訊いてはいけなかった、と思ったに違いない。
「別に自分の身内のことを言いたくなかったわけじゃない」
「え?」
「訊きたいなら話す。でも大した家族じゃないし、挨拶に行く必要もない」
「…………」
「と俺は思っている」
「……わかりました。じゃあ、挨拶はなしで構いません。でも」
聡子は真っ直ぐにトモを見た。
「智幸さんのことは……知りたいです」
「……そうか」
「まだまだ知らないことが多すぎて」
ごめんな、とトモは手を伸ばし、聡子の頭を撫でた。
隣に来て、とトモはベッドを背もたれにしたあと、聡子を横に座らせた。素直に応じた彼女はトモに寄り添うように腰を下ろした。
「何から知りたい?」
「んー……」
じゃあ家族構成、と彼女はおずおず言った。
「妹さんがいるのかな、って思ってたので……でも話したくなさそうだったし」
「そうだったか?」
「前、その……わたしが『妹さんがいるんですね、それともわたしのこと妹だって言ってるんですか』って言ったら急に怒りだして……覚えてないですか?」
トモは記憶を辿る。
「う……悪い……覚えてない……」
「そう、ですよね」
聡子の顔を見ると、少し寂しそうだった。
「ごめん」
「いえ、いいんですよ」
だってセックスする前だったし、と彼女は言った。
「わたしのこと妹みたいに思ってるんですか、って言ったら智幸さんが怒り出して……」
「そうだったっけ……」
なんとなく、記憶を拾い始める。
元の仲間に会って、聡子を見て「噂の妹か」と言われてことがあったような気がする。
「んー……思い出せないな」
「思い出さなくっていいですよ。わたしは智幸さんが好きだったので覚えてるだけで」
聡子の肩を抱き、もう一度詫びた。
「別に妹がいることを隠してるわけじゃない。言いたくないわけでもない。使いっ走りの頃は人に話したこともあった。けど、若が……神崎さんが」
急に高虎の名前が出てきたことで、聡子はきょとんとした。
「あまり自分の素性を話すな、って。今は信頼できる相手でも、何をどう裏切ってくるかわからない。縁を切った家族でも、危害が加えられる可能性もあるぞ、って教えられて……それからは自分のことを話さなくなった」
「そうだったんですね……」
高虎には本当に色々教えてもらったな、と思うトモだった。
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