124 / 222
【第2部】27.決意
1
しおりを挟む
本気で、一緒に住む部屋を探しはじめた。
「家具はあとでもいいと思う」
まずは二人の住みたい部屋についての意見を出し、それに添って部屋情報を集め、二人で考えた。今日明日に部屋を決めなくてもいいから、それより行動に移そう、トモが言うと聡子も頷いてくれた。
夜、会うと聡子の部屋で話し合いをすることが多くなった。
「会長さんを、説得できるんですか?」
「会長? 神崎会長? なんでだ?」
聡子の質問の意図が理解できないトモだった。
「だって恩があるから、って……朝は一緒に食事をする取り決めだって話してくださったじゃないですか」
「それは同居のルールだ。会長は、俺たちが独立するのが駄目だと思ってはいないよ。独立するならしろっていうスタンスだ。そもそも、組を抜けて五年経過しないと……いろんな契約が出来ないから、俺たちの面倒を見てくれてる。寧ろ、五年経ったんだからいつまでもすがってるほうがおかしいんだ」
大丈夫だよ、とトモは笑った。
「わたし、会長さんにご挨拶したいです。バーで働いてた時に一度お会いして、あの……警察の、あの時にお会いした、それっきりなんです。トモさんと暮らすに当たって、ご挨拶しなきゃって思ってます」
親代わりみたいな存在だというのを知っているから彼女はそう言ったのだろう。
(だったら……)
「俺は、聡子のお母さんいご挨拶に行かないといけないな」
「え?」
「おまえが寝込んだ時に会った、あれっきりだ。ちゃんと挨拶してないし、同棲する前に許可もらっとかないとな」
「別に一緒に住むことも事後報告でいいんじゃないですか?」
聡子はきょとんとしている。
「いや……ちゃんとケジメつける。あの時、自分の素性を少し話しただけの程度だ。ちゃんと真剣に聡子と付き合ってて将来を考えてること、伝えたい」
「……わかりました。智幸さんがそう思うんでしたら、そうしましょうか……ありがとうございます」
嬉しそうに笑う聡子だった。
聡子の母親の都合に合わせる、とトモは伝えた。
だったら、と聡子はおずおずと言う。
「わたしは、智幸さんのご家族……にご挨拶しなくてもいいんでしょうか」
「…………」
「いえ、すみません。必要ないと思われるのなら、大丈夫です」
「…………」
トモが無言になってしまったことに、聡子は気まずそうに遮った。
「気を悪くされたならごめんなさい。……部屋の候補、絞ったので内覧するところ選びましょうか」
話題を変えようと聡子は、不動産屋のチラシを並べる。
「聡子」
「……はい」
手を止め、聡子はトモを見返した。
彼女は自分からトモの家族のことを訊いたことはなかった。聡子が「妹か」と言われた時に、妹がいるのかと尋ねてきたことがある。あの頃は……自分のことを、ただ寝るだけの相手に話す気もなかったし、話したくもなかったから突っぱねた。それ以降は、タブーだと思っているのか何も自分からは尋ねてくることはなかった。
今は、きっと思い切って言ったのだろう。自分が答えないことで、また訊いてはいけなかった、と思ったに違いない。
「別に自分の身内のことを言いたくなかったわけじゃない」
「え?」
「訊きたいなら話す。でも大した家族じゃないし、挨拶に行く必要もない」
「…………」
「と俺は思っている」
「……わかりました。じゃあ、挨拶はなしで構いません。でも」
聡子は真っ直ぐにトモを見た。
「智幸さんのことは……知りたいです」
「……そうか」
「まだまだ知らないことが多すぎて」
ごめんな、とトモは手を伸ばし、聡子の頭を撫でた。
隣に来て、とトモはベッドを背もたれにしたあと、聡子を横に座らせた。素直に応じた彼女はトモに寄り添うように腰を下ろした。
「何から知りたい?」
「んー……」
じゃあ家族構成、と彼女はおずおず言った。
「妹さんがいるのかな、って思ってたので……でも話したくなさそうだったし」
「そうだったか?」
「前、その……わたしが『妹さんがいるんですね、それともわたしのこと妹だって言ってるんですか』って言ったら急に怒りだして……覚えてないですか?」
トモは記憶を辿る。
「う……悪い……覚えてない……」
「そう、ですよね」
聡子の顔を見ると、少し寂しそうだった。
「ごめん」
「いえ、いいんですよ」
だってセックスする前だったし、と彼女は言った。
「わたしのこと妹みたいに思ってるんですか、って言ったら智幸さんが怒り出して……」
「そうだったっけ……」
なんとなく、記憶を拾い始める。
元の仲間に会って、聡子を見て「噂の妹か」と言われてことがあったような気がする。
「んー……思い出せないな」
「思い出さなくっていいですよ。わたしは智幸さんが好きだったので覚えてるだけで」
聡子の肩を抱き、もう一度詫びた。
「別に妹がいることを隠してるわけじゃない。言いたくないわけでもない。使いっ走りの頃は人に話したこともあった。けど、若が……神崎さんが」
急に高虎の名前が出てきたことで、聡子はきょとんとした。
「あまり自分の素性を話すな、って。今は信頼できる相手でも、何をどう裏切ってくるかわからない。縁を切った家族でも、危害が加えられる可能性もあるぞ、って教えられて……それからは自分のことを話さなくなった」
「そうだったんですね……」
高虎には本当に色々教えてもらったな、と思うトモだった。
「家具はあとでもいいと思う」
まずは二人の住みたい部屋についての意見を出し、それに添って部屋情報を集め、二人で考えた。今日明日に部屋を決めなくてもいいから、それより行動に移そう、トモが言うと聡子も頷いてくれた。
夜、会うと聡子の部屋で話し合いをすることが多くなった。
「会長さんを、説得できるんですか?」
「会長? 神崎会長? なんでだ?」
聡子の質問の意図が理解できないトモだった。
「だって恩があるから、って……朝は一緒に食事をする取り決めだって話してくださったじゃないですか」
「それは同居のルールだ。会長は、俺たちが独立するのが駄目だと思ってはいないよ。独立するならしろっていうスタンスだ。そもそも、組を抜けて五年経過しないと……いろんな契約が出来ないから、俺たちの面倒を見てくれてる。寧ろ、五年経ったんだからいつまでもすがってるほうがおかしいんだ」
大丈夫だよ、とトモは笑った。
「わたし、会長さんにご挨拶したいです。バーで働いてた時に一度お会いして、あの……警察の、あの時にお会いした、それっきりなんです。トモさんと暮らすに当たって、ご挨拶しなきゃって思ってます」
親代わりみたいな存在だというのを知っているから彼女はそう言ったのだろう。
(だったら……)
「俺は、聡子のお母さんいご挨拶に行かないといけないな」
「え?」
「おまえが寝込んだ時に会った、あれっきりだ。ちゃんと挨拶してないし、同棲する前に許可もらっとかないとな」
「別に一緒に住むことも事後報告でいいんじゃないですか?」
聡子はきょとんとしている。
「いや……ちゃんとケジメつける。あの時、自分の素性を少し話しただけの程度だ。ちゃんと真剣に聡子と付き合ってて将来を考えてること、伝えたい」
「……わかりました。智幸さんがそう思うんでしたら、そうしましょうか……ありがとうございます」
嬉しそうに笑う聡子だった。
聡子の母親の都合に合わせる、とトモは伝えた。
だったら、と聡子はおずおずと言う。
「わたしは、智幸さんのご家族……にご挨拶しなくてもいいんでしょうか」
「…………」
「いえ、すみません。必要ないと思われるのなら、大丈夫です」
「…………」
トモが無言になってしまったことに、聡子は気まずそうに遮った。
「気を悪くされたならごめんなさい。……部屋の候補、絞ったので内覧するところ選びましょうか」
話題を変えようと聡子は、不動産屋のチラシを並べる。
「聡子」
「……はい」
手を止め、聡子はトモを見返した。
彼女は自分からトモの家族のことを訊いたことはなかった。聡子が「妹か」と言われた時に、妹がいるのかと尋ねてきたことがある。あの頃は……自分のことを、ただ寝るだけの相手に話す気もなかったし、話したくもなかったから突っぱねた。それ以降は、タブーだと思っているのか何も自分からは尋ねてくることはなかった。
今は、きっと思い切って言ったのだろう。自分が答えないことで、また訊いてはいけなかった、と思ったに違いない。
「別に自分の身内のことを言いたくなかったわけじゃない」
「え?」
「訊きたいなら話す。でも大した家族じゃないし、挨拶に行く必要もない」
「…………」
「と俺は思っている」
「……わかりました。じゃあ、挨拶はなしで構いません。でも」
聡子は真っ直ぐにトモを見た。
「智幸さんのことは……知りたいです」
「……そうか」
「まだまだ知らないことが多すぎて」
ごめんな、とトモは手を伸ばし、聡子の頭を撫でた。
隣に来て、とトモはベッドを背もたれにしたあと、聡子を横に座らせた。素直に応じた彼女はトモに寄り添うように腰を下ろした。
「何から知りたい?」
「んー……」
じゃあ家族構成、と彼女はおずおず言った。
「妹さんがいるのかな、って思ってたので……でも話したくなさそうだったし」
「そうだったか?」
「前、その……わたしが『妹さんがいるんですね、それともわたしのこと妹だって言ってるんですか』って言ったら急に怒りだして……覚えてないですか?」
トモは記憶を辿る。
「う……悪い……覚えてない……」
「そう、ですよね」
聡子の顔を見ると、少し寂しそうだった。
「ごめん」
「いえ、いいんですよ」
だってセックスする前だったし、と彼女は言った。
「わたしのこと妹みたいに思ってるんですか、って言ったら智幸さんが怒り出して……」
「そうだったっけ……」
なんとなく、記憶を拾い始める。
元の仲間に会って、聡子を見て「噂の妹か」と言われてことがあったような気がする。
「んー……思い出せないな」
「思い出さなくっていいですよ。わたしは智幸さんが好きだったので覚えてるだけで」
聡子の肩を抱き、もう一度詫びた。
「別に妹がいることを隠してるわけじゃない。言いたくないわけでもない。使いっ走りの頃は人に話したこともあった。けど、若が……神崎さんが」
急に高虎の名前が出てきたことで、聡子はきょとんとした。
「あまり自分の素性を話すな、って。今は信頼できる相手でも、何をどう裏切ってくるかわからない。縁を切った家族でも、危害が加えられる可能性もあるぞ、って教えられて……それからは自分のことを話さなくなった」
「そうだったんですね……」
高虎には本当に色々教えてもらったな、と思うトモだった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる