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【第2部】26.若
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聡子のアパートに行くと、彼女は既に戻っており、トモが戻ると不安そうな表情を見せた。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
「ああ」
「取りあえずゆっくりしましょうか。あっ、ジャケットはクリーニングに出しました。明後日には仕上がるみたいです」
「そうか、悪かったな」
「いえ」
「ありがとな」
聡子を頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
「水曜日にはもらえるので、金曜に来られたらお渡ししますね」
「うん、助かるよ」
座っててくださいね、と促し、トモは遠慮なく従った。
聡子はお茶を用意すると、出してくれた。
「ありがとう」
彼女もローテーブルの前に座り、トモを見た。
「いろいろ悪かったな。店は掃除だけでよかったんだな?」
「はい、何にもしなくていいです、って。でもちゃんと掃除しておきましたよ。あ、せっかく買った文庫本、駄目になっちゃいましたけど」
「……あのクソガキに弁償させればよかったな」
ちっ、と舌打ちをし、聡子が買った本に零れたコーヒーがかかってしまったために、もう処分せざるを得なくなったと言った。
「本には何の罪もないんですけどね……」
「あのクソガキ……」
「仕方ないですね」
そう言いつつも聡子は残念な顔をしていた。
「あ、そうだ、あのあと、どうなったんですか?」
彼女は、二人の男が連れて行かれた後のことを知りたがった。
車にに乗り込もうとした時点で金髪が逃げだし、黒髪だけが残ったこと。トモの運転で一応神崎邸に向かい、神崎高虎が黒髪の川尻慶太を尋問したこと。聡子に対して一応の「詫び」を入れていたこと。途中で「神崎組の構成員ではない」と白状したことなど、話して聞かせた。
「やっぱり嘘でしたか」
「だよな」
「ですよー」
聡子は口を尖らせ、苦々しい顔をしてみせた。
「若が……神崎さんが成敗してくれたってことで」
「そうですね。でもあの人も胡散臭いですけどね」
「はは……聡子にかかると形無しだな……」
きっと高虎は今頃くしゃみをしている頃だろう。
「俺にとっちゃ可愛がってもらったいい兄貴分なんだよ。刺青入れるな、とか、自分の得意なこと見つけろ、とか、最初はうるさいなと思ってたけど、そういうこと言ってくれた人だからな。それが今につながってる」
「ふーん……」
聡子にとっては、高虎の印象は良くないままのようだ。無理も無いが。
「聡子によろしく、って言ってたぞ。印象は激悪だろうけど、ってさ」
「わかってるじゃないですか」
「はは……」
よほど根に持っているようだ。
(あのあとの会話、聞かせられないわな……)
「智幸さんが大事にしている方なら、わたしも嫌っちゃいけませんね」
「……そうか?」
「一回しか会ったことない方ですし、一方的に嫌うのはよくないかなって。でも! わたしを見て、どこの店の女かって訊かれるの、ほんとに苦痛です」
「ごめん、それは俺の素行のせいだな」
「……俺の恋人、って言ってくれたので、智幸さんに免じて許しますけど」
ありがとな、とトモは笑った。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
「ああ」
「取りあえずゆっくりしましょうか。あっ、ジャケットはクリーニングに出しました。明後日には仕上がるみたいです」
「そうか、悪かったな」
「いえ」
「ありがとな」
聡子を頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。
「水曜日にはもらえるので、金曜に来られたらお渡ししますね」
「うん、助かるよ」
座っててくださいね、と促し、トモは遠慮なく従った。
聡子はお茶を用意すると、出してくれた。
「ありがとう」
彼女もローテーブルの前に座り、トモを見た。
「いろいろ悪かったな。店は掃除だけでよかったんだな?」
「はい、何にもしなくていいです、って。でもちゃんと掃除しておきましたよ。あ、せっかく買った文庫本、駄目になっちゃいましたけど」
「……あのクソガキに弁償させればよかったな」
ちっ、と舌打ちをし、聡子が買った本に零れたコーヒーがかかってしまったために、もう処分せざるを得なくなったと言った。
「本には何の罪もないんですけどね……」
「あのクソガキ……」
「仕方ないですね」
そう言いつつも聡子は残念な顔をしていた。
「あ、そうだ、あのあと、どうなったんですか?」
彼女は、二人の男が連れて行かれた後のことを知りたがった。
車にに乗り込もうとした時点で金髪が逃げだし、黒髪だけが残ったこと。トモの運転で一応神崎邸に向かい、神崎高虎が黒髪の川尻慶太を尋問したこと。聡子に対して一応の「詫び」を入れていたこと。途中で「神崎組の構成員ではない」と白状したことなど、話して聞かせた。
「やっぱり嘘でしたか」
「だよな」
「ですよー」
聡子は口を尖らせ、苦々しい顔をしてみせた。
「若が……神崎さんが成敗してくれたってことで」
「そうですね。でもあの人も胡散臭いですけどね」
「はは……聡子にかかると形無しだな……」
きっと高虎は今頃くしゃみをしている頃だろう。
「俺にとっちゃ可愛がってもらったいい兄貴分なんだよ。刺青入れるな、とか、自分の得意なこと見つけろ、とか、最初はうるさいなと思ってたけど、そういうこと言ってくれた人だからな。それが今につながってる」
「ふーん……」
聡子にとっては、高虎の印象は良くないままのようだ。無理も無いが。
「聡子によろしく、って言ってたぞ。印象は激悪だろうけど、ってさ」
「わかってるじゃないですか」
「はは……」
よほど根に持っているようだ。
(あのあとの会話、聞かせられないわな……)
「智幸さんが大事にしている方なら、わたしも嫌っちゃいけませんね」
「……そうか?」
「一回しか会ったことない方ですし、一方的に嫌うのはよくないかなって。でも! わたしを見て、どこの店の女かって訊かれるの、ほんとに苦痛です」
「ごめん、それは俺の素行のせいだな」
「……俺の恋人、って言ってくれたので、智幸さんに免じて許しますけど」
ありがとな、とトモは笑った。
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