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【第2部】24.緊張
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「そういえばわたし、市川さんに何のお礼も出来ていないんです」
聡子が言った。
ようやく日常に戻ることができた。
広田が逮捕されたということは、被害届を出した聡子に連絡があったという。リカのほうはどうなのか、情報はないようだ。聡子に「もう一人捕まってないか聞いてないか」などと言えるわけがないし、そこは黙っておいた。
そして、警察署に行かなければいけなくなった、と彼女は言った。まだ行っていないが、明日の日曜日に行く、と彼女は話してくれた。
「一人で行けるか」
と尋ねると、行きますと答えた。
「カズを付き添わせようか?」
「大丈夫ですよ」
その会話の流れから、聡子はカズに対しての感謝を伝えられていないと言った。
「市川さんにはとてもお世話になってしまって……」
「いいよ、あいつには俺がちゃんと伝えてる。カズはおまえのことめちゃくちゃ心配してるからな。けど、礼がないとかそんなこと言う男じゃないよ」
「……はい」
カズは隣に座った聡子の顔を覗き込み、笑った。
「今度お会いできる機会があったら、その時に是非」
「おう。またカズには会うだろうから」
「はい」
聡子の淹れてくれた茶を飲み、久しぶりに二人でのんびりと過ごしている。こんな何気ない時間が幸せだった。
「髭、剃ったんですね」
「お? おお、まあ。なんでだ?」
「迎えに行った時に髭が伸びてて、出会った時みたいだったなあって」
出会った時……、というと三、四年くらい前だろうか、と考える。ファミレスで聡子がバイトをしている頃だろう。確かにむさ苦しい顔だった。
「髭のほうがいいのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。ちょっと懐かしく思っただけです。わたしは髭は剃ってるほうが好きですね」
「そうか、よかった。食べ物を扱う仕事だからな、不潔に見えるのはちょっと、俺自身抵抗があってな。オーナーは否定はしないけどさ」
ちゃんと仕事に向き合ってるんですね、と聡子は言う。
「カッコいいですね」
「そ、そうか?」
「はい」
にこっと笑う聡子に、トモの胸が弾んだ。
(こういうこと恥ずかしげもなく言うんだよな……)
調子狂うわ、と聡子の顔を見つめる。
「どうしました?」
「いや……ちょっと嬉しかっただけだ」
「?」
照れ隠しに、わしゃわしゃと聡子の前髪を撫でると、
「もう、何するんですか」
と困ったようにトモの手を掴んだ。
「おまえは、こんなオッサンの何がいいんだろうなあ、っていつも思うんだよな」
「またそれ言う。オッサンじゃないし、わたしは智幸さんのぜーんぶが大好きなんですってば!」
「そうだったな」
「そんなに心配ですか?」
「うん、心配になるな」
聡子がトモの身体に擦り寄ってきた。
「おまえが可愛すぎて心配になる」
「自信持ってください。わたしは、智幸さんしか興味ありませんから」
「カズみたいに頭が良くて若けりゃ、おまえに釣り合ったのかなあ……って時々思ったりするんだよな」
「思わないでください!」
珍しくうじうじとした言葉を言ってしまったトモの両頬を、聡子は抓った。
「いててて」
「智幸さんにそんなこと思わせてるのはわたしなので」
聡子はトモに跨がり、抓った頬を挟んでキスをした。
「わたしの『大好き』が足りないみたいなので」
「…………」
身体を抱き、左手で髪を撫でてやる。
「俺はさ、高校中退で勉強もできねえし、料理しか脳がなくて、正直顔もパッとしないだろ」
「そんなことないです!」
「カズはさ……高専機械科出てて、機械工学っていうのにめちゃくちゃ詳しいし、頭もいいんだよな。顔もあの通りきれいな顔してるし、性格も申し分ないし。年も……若いしな。カズみたいだったら、おまえと釣り合えたのかな」
「そんなことない! そんなことないもん!」
聡子はトモに首に飛びついた。
「智幸さんだから好きになったの! ピンチの時に現れて、いつも助けてくれた……智幸さんは覚えてないかもしれないけど……わたしにとってはヒーローなの、王子様なの! カッコいい彼氏なんです!」
「王子様はちょっと、がらでもねえと思うぞ」
「いいんです!」
「……愛されてんなあ」
「ダメですか?」
「ダメなわけあるか。めちゃくちゃ嬉しいよ」
二人はくちづけを交わす。
「俺も同じ気持ちだしな」
「同じって?」
「同じは同じだよ」
「言ってみて下さい」
「また今度な」
「……けち」
「大事な言葉は、大事な時に言うもんだよ」
「まあ、別にいいですけど」
信じてますから、と聡子はトモの胸に顔を埋めた。
「もう少し、待っててくれ」
「……待ちますよ」
ちゅ、と軽くキスをする。
嬉しそうに聡子が笑った。
「あー無理」
トモはゆっくり聡子を抱え、ベッドに落とした。
聡子を快楽の時間へと誘(いざな)う。
「わっ」
「最高にエロい声が聞きたくなった」
「なっ……今から?」
「うん、今から。駄目か?」
「駄目なことはないですけど。もう遅いし、声、抑えなきゃ……」
「押し殺す声がまたエロいんだよ」
「もう……智幸さんってば!」
シャツをまくり上げ、そこに現れた柔らかな膨らみを確認すると、すぐさま先端に吸いつき、ちゅうちゅうと音を立てた。右手で聡子の秘めた部分に指を入れる。ぐちゅぐちゅと激しい水音が響いた。
「そんな激しくしちゃ……」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ない、ですけど……」
「イイんだろ?」
「…………」
「おまえのイイところ、教えてくれよ」
「……知ってるじゃないですか……」
「おまえの口から聞きたいんだよ」
耳元で囁くと、その耳が朱に染まった。
「……なあ、言えよ」
「全部?」
「ああ、全部言え。おまえを不安にさせた分、全部気持ちよくさせてやるよ」
「……智幸さんでいっぱいにしてくれますか?」
「してやるよ」
ぺろっと耳を舐めると、聡子はぴくりと身体を震わせた。
「言ってくれよ」
こくりと頷き、トモの手を誘導した。
聡子が言った。
ようやく日常に戻ることができた。
広田が逮捕されたということは、被害届を出した聡子に連絡があったという。リカのほうはどうなのか、情報はないようだ。聡子に「もう一人捕まってないか聞いてないか」などと言えるわけがないし、そこは黙っておいた。
そして、警察署に行かなければいけなくなった、と彼女は言った。まだ行っていないが、明日の日曜日に行く、と彼女は話してくれた。
「一人で行けるか」
と尋ねると、行きますと答えた。
「カズを付き添わせようか?」
「大丈夫ですよ」
その会話の流れから、聡子はカズに対しての感謝を伝えられていないと言った。
「市川さんにはとてもお世話になってしまって……」
「いいよ、あいつには俺がちゃんと伝えてる。カズはおまえのことめちゃくちゃ心配してるからな。けど、礼がないとかそんなこと言う男じゃないよ」
「……はい」
カズは隣に座った聡子の顔を覗き込み、笑った。
「今度お会いできる機会があったら、その時に是非」
「おう。またカズには会うだろうから」
「はい」
聡子の淹れてくれた茶を飲み、久しぶりに二人でのんびりと過ごしている。こんな何気ない時間が幸せだった。
「髭、剃ったんですね」
「お? おお、まあ。なんでだ?」
「迎えに行った時に髭が伸びてて、出会った時みたいだったなあって」
出会った時……、というと三、四年くらい前だろうか、と考える。ファミレスで聡子がバイトをしている頃だろう。確かにむさ苦しい顔だった。
「髭のほうがいいのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。ちょっと懐かしく思っただけです。わたしは髭は剃ってるほうが好きですね」
「そうか、よかった。食べ物を扱う仕事だからな、不潔に見えるのはちょっと、俺自身抵抗があってな。オーナーは否定はしないけどさ」
ちゃんと仕事に向き合ってるんですね、と聡子は言う。
「カッコいいですね」
「そ、そうか?」
「はい」
にこっと笑う聡子に、トモの胸が弾んだ。
(こういうこと恥ずかしげもなく言うんだよな……)
調子狂うわ、と聡子の顔を見つめる。
「どうしました?」
「いや……ちょっと嬉しかっただけだ」
「?」
照れ隠しに、わしゃわしゃと聡子の前髪を撫でると、
「もう、何するんですか」
と困ったようにトモの手を掴んだ。
「おまえは、こんなオッサンの何がいいんだろうなあ、っていつも思うんだよな」
「またそれ言う。オッサンじゃないし、わたしは智幸さんのぜーんぶが大好きなんですってば!」
「そうだったな」
「そんなに心配ですか?」
「うん、心配になるな」
聡子がトモの身体に擦り寄ってきた。
「おまえが可愛すぎて心配になる」
「自信持ってください。わたしは、智幸さんしか興味ありませんから」
「カズみたいに頭が良くて若けりゃ、おまえに釣り合ったのかなあ……って時々思ったりするんだよな」
「思わないでください!」
珍しくうじうじとした言葉を言ってしまったトモの両頬を、聡子は抓った。
「いててて」
「智幸さんにそんなこと思わせてるのはわたしなので」
聡子はトモに跨がり、抓った頬を挟んでキスをした。
「わたしの『大好き』が足りないみたいなので」
「…………」
身体を抱き、左手で髪を撫でてやる。
「俺はさ、高校中退で勉強もできねえし、料理しか脳がなくて、正直顔もパッとしないだろ」
「そんなことないです!」
「カズはさ……高専機械科出てて、機械工学っていうのにめちゃくちゃ詳しいし、頭もいいんだよな。顔もあの通りきれいな顔してるし、性格も申し分ないし。年も……若いしな。カズみたいだったら、おまえと釣り合えたのかな」
「そんなことない! そんなことないもん!」
聡子はトモに首に飛びついた。
「智幸さんだから好きになったの! ピンチの時に現れて、いつも助けてくれた……智幸さんは覚えてないかもしれないけど……わたしにとってはヒーローなの、王子様なの! カッコいい彼氏なんです!」
「王子様はちょっと、がらでもねえと思うぞ」
「いいんです!」
「……愛されてんなあ」
「ダメですか?」
「ダメなわけあるか。めちゃくちゃ嬉しいよ」
二人はくちづけを交わす。
「俺も同じ気持ちだしな」
「同じって?」
「同じは同じだよ」
「言ってみて下さい」
「また今度な」
「……けち」
「大事な言葉は、大事な時に言うもんだよ」
「まあ、別にいいですけど」
信じてますから、と聡子はトモの胸に顔を埋めた。
「もう少し、待っててくれ」
「……待ちますよ」
ちゅ、と軽くキスをする。
嬉しそうに聡子が笑った。
「あー無理」
トモはゆっくり聡子を抱え、ベッドに落とした。
聡子を快楽の時間へと誘(いざな)う。
「わっ」
「最高にエロい声が聞きたくなった」
「なっ……今から?」
「うん、今から。駄目か?」
「駄目なことはないですけど。もう遅いし、声、抑えなきゃ……」
「押し殺す声がまたエロいんだよ」
「もう……智幸さんってば!」
シャツをまくり上げ、そこに現れた柔らかな膨らみを確認すると、すぐさま先端に吸いつき、ちゅうちゅうと音を立てた。右手で聡子の秘めた部分に指を入れる。ぐちゅぐちゅと激しい水音が響いた。
「そんな激しくしちゃ……」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ない、ですけど……」
「イイんだろ?」
「…………」
「おまえのイイところ、教えてくれよ」
「……知ってるじゃないですか……」
「おまえの口から聞きたいんだよ」
耳元で囁くと、その耳が朱に染まった。
「……なあ、言えよ」
「全部?」
「ああ、全部言え。おまえを不安にさせた分、全部気持ちよくさせてやるよ」
「……智幸さんでいっぱいにしてくれますか?」
「してやるよ」
ぺろっと耳を舐めると、聡子はぴくりと身体を震わせた。
「言ってくれよ」
こくりと頷き、トモの手を誘導した。
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