108 / 222
【第2部】23.不安
7
しおりを挟む
人の情事を見聞きするのはつまらなかった。そして気持ち悪いだけだ。一度でもこの女を抱いたのは間違いだったと思った。
(広田はただただ早いし、雑でそのくせ何回もヤるし、あの女も結局誰でもいいんじゃねえか)
ただただ呆れてしまった。
クズのセックスは参考にもならない。用が済んだら耳にしたことをさっさと忘れよう、そう思った。
二人のお楽しみが終わった頃、トモはカズにメッセージを送った。すぐにカズがやってきた。
ノックがされ、二人がベッドから起き上がる物音がした。
(カズが来たな)
バタバタと音がする。
隙間から、バスタオルを腰に巻いた広田の姿が見えた。
「はい」
広田がドアを開けると、すぐにカズの声がした。
「何の用だ」
「すみませんが、荷物を回収させてもらえますか」
「は?」
ズカズカと入ってきたカズを、広田は制止しようとする。
「ちょっと何よあんた!」
カズの姿に驚き声をあげるリカだ。
その隙にクローゼットから脱出し、照明を点けると、広田とリカの背後に立った。
「え?」
いきなり灯りがついたことで、二人は振り返った。
「トモ……!」
「トモ!?」
二人の声が重なった。
その隙に、カズは隠して置いた機器を回収している。
「なんでおまえがここに」
「ここは俺が取った部屋だ」
「トモ、どこに行ってたのよ! あんたのかわりこいつに犯されたじゃないのよ!」
「は?」
さげすんだ目でリカを見た。
「何が犯されただ、広田にお粗末なもん突っこまれて、あんあん言ってたのはどこの阿婆擦れだよ」
トモは一蹴した。
リカの顔色が変わる。
「で、広田……てめえ、俺は絶対に許さねえって言ったよな」
のこのこ釈放されやがって、と一歩踏み出すと、広田は震えながら、股間の辺りを押さえ後ずさった。いつかのように、顔を殴られても大事なものは守りたいのだろう。
「リカ、おまえもだ。人の女を犯すようこいつを唆しやがって……絶対に許さねえ」
「ち、違うわよ。こいつが、広田が、トモのこと気に入らないっていうから、ちょっとアドバイスしただけよ」
「嘘つけ! おまえが、トモの女をレイプして来いって言ったんだろ」
「言ってないわよ! 痛い目に遭わせてとは言ったけど! ね、トモ、ごめんね、わたしのこと好きにしていいから、ねっ?」
「は? するかよ」
近寄ってきたリカを右手で押し返した。
「反吐がでるわ」
「トモさん、オッケーです」
カズが小声で言った。
「おまえら、絶対……許さねえからな」
リカは言い訳をし、広田は無言で怯える。
「広田。のうのうと出来るのも今のうちだ。近いうちに《別荘》に行くことになるぞ。リカ、おまえも逃れられると思うなよ。俺を怒らせたらどうなるか……覚悟しとけ」
別荘、とは《刑務所》を指しているが、広田にはわかったようだ。
トモはICレコーダーを取り出し、一度見せてポケットにしまった。
「この阿婆擦れが。金でこいつを雇ったクズが」
リカは性懲りもせず、トモにすがろうと近寄った。
「雇ってない!」
「金でこいつに俺の女を襲わせた」
「金なんか渡してない! この男が勝手にやっただけよ!」
(金を渡してないのか? なら単純に広田が、リカをモノに出来ると思って?)
バカなのか、と呆れるしかなかった。本当に金の報酬なしで、リカのためにやったのだろうか。
「二度と俺の前に現れるな。もしのこのこ出てきやがったら……命はないと思え」
狂犬が……、とリカが呟くのが聞こえた。
トモは広田を一瞥し、カズと共に部屋を出たのだった。
ホテルを出ると、二人はトモの車に乗り込む。
「カズ、いろいろ助かった」
「まあ、自分に出来ることしかしてないですけどね」
「ちょっと犯罪スレスレなところもあったけどな」
「なんとかなりますよ」
昨日警察から戻ったすぐ後、カズに協力を要請し、広田とリカを呼び出すことを考えた。
聡子が被害届を出したことで、早いうちに広田が捕まると考え、その前にリカが共犯だと言う言質を取りたかった。
リカを指定時間に呼び出したあと、時間をずらして広田を呼び出す。しかしトモからの電話だときっと彼は呼び出しに応じない。ITに強いカズなら何かしらの作があるのでは、と相談し、非通知でリカの声を語り留守番電話にメッセージを残した。リカの声、これはカズが変声システムで作ってくれた。リカの声を知っているトモの指示で、システムを使ってカズが調整をしてくれたことにより、リカに近い声を作り出し、広田を呼び出すことに成功した。予約していた部屋に、トモとカズは、遠隔で録音録画が可能なカメラとレコーダーを設置し、あとで回収したという流れだ。カメラとレコーダーの設置は、盗撮盗聴に該当する可能性が高く、不当な利用をした場合は罪になるという認識は持ち合わせていた。
(けど、これはあいつらに復讐するためだ)
カメラとレコーダーは言うなれば保険だ。自分の持っているICレコーダーの録音に失敗した時のためのものである。
「あいつらが捕まるのは時間の問題だ」
「今、通報しなくていいですかね?」
「いいだろ。聡子が通報するならともかく、俺らが通報したら……こっちがヤバイことになるかもしれないしな」
「それもそうですね」
まずはICレコーダーの確認だ、とトモは再生ボタンを押す。
二人の声がはっきりと録音されていた。
「バッチリだな」
「ですね。リカって女の証言も入ってますし、聡子さんを酷い目に遭わせた奴ら、裁きにかけられますね」
「まあ……法的な罰がどんだけ下るか、納得がいくかどうかはともかくだけどな」
「女性を一人辱めといて、軽い刑なわけないですよ。それに犯罪を犯してのうのうを生きていけるはずがないです」
そうだな、とトモは小さく頷いた。
(自分も、犯罪紛いのことして生きてたこともあったからな……)
偉そうなことは言えねえけど、と心のなかで呟く。
「取りあえず、さっさと帰るか。もう真夜中だしな」
「そうですね」
「もう遅いから、聡子には会えねえな……」
メッセージも入れていなかったことに気付き、車を止め、スマホを確認する。
「メッセージ来てました?」
「ああ、今日は会えそうにないのか、って」
「うわ……まずい……まずいですよ」
「なんで」
「だって昨日久しぶりに会えて、やっと今日一緒に過ごせるかと思ってたんじゃないですかね?」
なぜかカズが心配している。
メッセージがいくつか入っていて、最後に「おやすみ」というスタンプが送られていた。
「まあ、そんな心の狭い女じゃない。連絡が遅くなったのは申し訳ないけど、そこまで聞き分けのない女でも、束縛する女でもないし、ちゃんとわかってくれる」
《遅くなって悪い おやすみ 今から帰るから今日は会えないけど明日は会いに行く》
と返信した。
「めちゃくちゃいい女なんだよ、聡子は」
「はいはい、ごちそうさまです」
「ちゃんと連絡してよって拗ねたとしても、そういうところも可愛いだろうな」
「はーいはい、もうお腹いっぱいでーす」
車を再び走らせ、神崎邸へと二人は戻って行った。
(広田はただただ早いし、雑でそのくせ何回もヤるし、あの女も結局誰でもいいんじゃねえか)
ただただ呆れてしまった。
クズのセックスは参考にもならない。用が済んだら耳にしたことをさっさと忘れよう、そう思った。
二人のお楽しみが終わった頃、トモはカズにメッセージを送った。すぐにカズがやってきた。
ノックがされ、二人がベッドから起き上がる物音がした。
(カズが来たな)
バタバタと音がする。
隙間から、バスタオルを腰に巻いた広田の姿が見えた。
「はい」
広田がドアを開けると、すぐにカズの声がした。
「何の用だ」
「すみませんが、荷物を回収させてもらえますか」
「は?」
ズカズカと入ってきたカズを、広田は制止しようとする。
「ちょっと何よあんた!」
カズの姿に驚き声をあげるリカだ。
その隙にクローゼットから脱出し、照明を点けると、広田とリカの背後に立った。
「え?」
いきなり灯りがついたことで、二人は振り返った。
「トモ……!」
「トモ!?」
二人の声が重なった。
その隙に、カズは隠して置いた機器を回収している。
「なんでおまえがここに」
「ここは俺が取った部屋だ」
「トモ、どこに行ってたのよ! あんたのかわりこいつに犯されたじゃないのよ!」
「は?」
さげすんだ目でリカを見た。
「何が犯されただ、広田にお粗末なもん突っこまれて、あんあん言ってたのはどこの阿婆擦れだよ」
トモは一蹴した。
リカの顔色が変わる。
「で、広田……てめえ、俺は絶対に許さねえって言ったよな」
のこのこ釈放されやがって、と一歩踏み出すと、広田は震えながら、股間の辺りを押さえ後ずさった。いつかのように、顔を殴られても大事なものは守りたいのだろう。
「リカ、おまえもだ。人の女を犯すようこいつを唆しやがって……絶対に許さねえ」
「ち、違うわよ。こいつが、広田が、トモのこと気に入らないっていうから、ちょっとアドバイスしただけよ」
「嘘つけ! おまえが、トモの女をレイプして来いって言ったんだろ」
「言ってないわよ! 痛い目に遭わせてとは言ったけど! ね、トモ、ごめんね、わたしのこと好きにしていいから、ねっ?」
「は? するかよ」
近寄ってきたリカを右手で押し返した。
「反吐がでるわ」
「トモさん、オッケーです」
カズが小声で言った。
「おまえら、絶対……許さねえからな」
リカは言い訳をし、広田は無言で怯える。
「広田。のうのうと出来るのも今のうちだ。近いうちに《別荘》に行くことになるぞ。リカ、おまえも逃れられると思うなよ。俺を怒らせたらどうなるか……覚悟しとけ」
別荘、とは《刑務所》を指しているが、広田にはわかったようだ。
トモはICレコーダーを取り出し、一度見せてポケットにしまった。
「この阿婆擦れが。金でこいつを雇ったクズが」
リカは性懲りもせず、トモにすがろうと近寄った。
「雇ってない!」
「金でこいつに俺の女を襲わせた」
「金なんか渡してない! この男が勝手にやっただけよ!」
(金を渡してないのか? なら単純に広田が、リカをモノに出来ると思って?)
バカなのか、と呆れるしかなかった。本当に金の報酬なしで、リカのためにやったのだろうか。
「二度と俺の前に現れるな。もしのこのこ出てきやがったら……命はないと思え」
狂犬が……、とリカが呟くのが聞こえた。
トモは広田を一瞥し、カズと共に部屋を出たのだった。
ホテルを出ると、二人はトモの車に乗り込む。
「カズ、いろいろ助かった」
「まあ、自分に出来ることしかしてないですけどね」
「ちょっと犯罪スレスレなところもあったけどな」
「なんとかなりますよ」
昨日警察から戻ったすぐ後、カズに協力を要請し、広田とリカを呼び出すことを考えた。
聡子が被害届を出したことで、早いうちに広田が捕まると考え、その前にリカが共犯だと言う言質を取りたかった。
リカを指定時間に呼び出したあと、時間をずらして広田を呼び出す。しかしトモからの電話だときっと彼は呼び出しに応じない。ITに強いカズなら何かしらの作があるのでは、と相談し、非通知でリカの声を語り留守番電話にメッセージを残した。リカの声、これはカズが変声システムで作ってくれた。リカの声を知っているトモの指示で、システムを使ってカズが調整をしてくれたことにより、リカに近い声を作り出し、広田を呼び出すことに成功した。予約していた部屋に、トモとカズは、遠隔で録音録画が可能なカメラとレコーダーを設置し、あとで回収したという流れだ。カメラとレコーダーの設置は、盗撮盗聴に該当する可能性が高く、不当な利用をした場合は罪になるという認識は持ち合わせていた。
(けど、これはあいつらに復讐するためだ)
カメラとレコーダーは言うなれば保険だ。自分の持っているICレコーダーの録音に失敗した時のためのものである。
「あいつらが捕まるのは時間の問題だ」
「今、通報しなくていいですかね?」
「いいだろ。聡子が通報するならともかく、俺らが通報したら……こっちがヤバイことになるかもしれないしな」
「それもそうですね」
まずはICレコーダーの確認だ、とトモは再生ボタンを押す。
二人の声がはっきりと録音されていた。
「バッチリだな」
「ですね。リカって女の証言も入ってますし、聡子さんを酷い目に遭わせた奴ら、裁きにかけられますね」
「まあ……法的な罰がどんだけ下るか、納得がいくかどうかはともかくだけどな」
「女性を一人辱めといて、軽い刑なわけないですよ。それに犯罪を犯してのうのうを生きていけるはずがないです」
そうだな、とトモは小さく頷いた。
(自分も、犯罪紛いのことして生きてたこともあったからな……)
偉そうなことは言えねえけど、と心のなかで呟く。
「取りあえず、さっさと帰るか。もう真夜中だしな」
「そうですね」
「もう遅いから、聡子には会えねえな……」
メッセージも入れていなかったことに気付き、車を止め、スマホを確認する。
「メッセージ来てました?」
「ああ、今日は会えそうにないのか、って」
「うわ……まずい……まずいですよ」
「なんで」
「だって昨日久しぶりに会えて、やっと今日一緒に過ごせるかと思ってたんじゃないですかね?」
なぜかカズが心配している。
メッセージがいくつか入っていて、最後に「おやすみ」というスタンプが送られていた。
「まあ、そんな心の狭い女じゃない。連絡が遅くなったのは申し訳ないけど、そこまで聞き分けのない女でも、束縛する女でもないし、ちゃんとわかってくれる」
《遅くなって悪い おやすみ 今から帰るから今日は会えないけど明日は会いに行く》
と返信した。
「めちゃくちゃいい女なんだよ、聡子は」
「はいはい、ごちそうさまです」
「ちゃんと連絡してよって拗ねたとしても、そういうところも可愛いだろうな」
「はーいはい、もうお腹いっぱいでーす」
車を再び走らせ、神崎邸へと二人は戻って行った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる