大人の恋愛の始め方

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【第2部】23.不安

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 神崎と一緒に、聡子は警察署に来た。
 カズの運転する神崎の車に乗り込んだ際、
「わたしのせいで……申し訳ありません」
 聡子は頭を下げる。
「あなたが詫びることはありませんよ」
 優しい声だった。その声に幾分か救われた気がした。
 店で出会った時もそうだったが、厳しくもあり優しい人物なのだろうということはよくわかった。
「さあ、影山を迎えに行きましょう。あなたが来てくれたとわかれば、あの男も喜ぶはずです」
 堪えていた涙が零れ、そっと拭った。
 今ここで泣くべきではない、と姿勢を正して前を向いた。


 神崎は、トモの身元保証人として警察署に来た。
 ロビーで神崎、カズ、聡子が待っていると、警察官に付き添われたトモが現れた。憔悴した顔には、伸びた無精髭、たった何日なのかもしれないが、少し頬がこけているように見える。
 三人の姿を見たトモは、少し驚いた様子だった。神崎、もしくは神崎とカズだけだと思っていたのかもしれない。恐らく聡子の姿に驚いたのだと思った。
 もういいですよ、と警察官が言ったようで、トモは小さく頭を下げたあと、聡子達のほうへ向かって歩いてきた。
 彼は解放されたのだ。聡子が広田からの暴行等の被害届を出したことにより、トモの広田への傷害容疑について、一旦釈放されることになったようだ。広田が、トモから暴行を受けたという被害届が取り下げられない限りはトモの容疑がなくなったわけではなかった。
 しかし、聡子が意を決して被害届を出したことは大きかった。
「会長、申し訳ありませんでした」
「私より彼女のほうがひどく心配していたぞ」
「すみません」
「彼女に何か言っておやりなさい」
 先に行っておくよ、と神崎がカズを促した。
 カズも頭を下げ、二人はロビーを出て行った。
 トモと聡子は対峙し、
「よかった……」
 彼を見上げたあと、抱きついた。
 人目があっても関係なかった。
「よかった、無事で」
「無事に決まってんだろ」
「心配したんですよ」
 トモも抱き返してくれた。
 頭の上に、トモの顔があるのを感じた。
「馬鹿野郎……無茶しやがって」
「え?」
「なんで言ったんだ。墓場まで持ってくって言ったろ」
 そのことか、と聡子は思った。
「でも、真実を言わないと……智幸さんが無実の罪を着せられてしまうんですよ。本当のこと話さないと、智幸さんが捕まっちゃうから……悪いのはあの人なのに。だから昨日、ここに来て被害届を出しました」
「嫌なこと思い出させて、自分がされたことを話すのって……辛かっただろ」
 頷いたが、
「智幸さんのためなら平気ですよ」
 と力強く言った。
「ありがとな」
 そう言って、トモが頭を撫でた。
「おまえの度胸のおかげだ」
「まずは智幸さんをここから出すことばっかり考えてました」
 聡子はトモの腕から抜け、彼を見上げた。
「わたし、もう黙ってるのは嫌だと思って」
「うん」
 頭をぽんぽんと撫でて、トモは腕を掴んだ。
「行こう」
「はい」
 警察署を後にした。
 受付の警察官たちが、二人の抱擁を見ていたようだが、そんなことはどうでもいい。神崎とカズの元へ向かった。
「市川さんが、おっしゃったんですよ。公然わいせつについては釈放されましたけど、わたしに対しての罪は、わたしが申告することで相手を裁くことができるって」
「カズの助言か?」
「あ、えと、真実を話すことを決めたのはわたしですよ。市川さんは智幸さんの意思を尊重したい気持ちと、救いたい気持ち両方で悩んでらしたから……わたしが話せば済む話だって気付いて、もう怖いものなしになりました」
 そんな簡単なものじゃなかっただろ、とトモは言う。
「そうですけど……。自分のことより、智幸さんを何とかしたかったから。あの時、智幸さんがわたしのためにしてくれたこと、ですから」
「……辛い思いさせたな」
「大丈夫です。話を聞いてくれた警察の方、女性だったし。事務的な感じはしなかったから、それだけでも救われましたよ」
「……そうか」
 聡子の肩を抱き、安心させるように小さく揺さぶった。
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