大人の恋愛の始め方

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【第2部】22.絶望

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「ごめんな」
「……どうして謝るんです?」
「おまえをこんな目に遭わせちまって……」
 自分の過去のだらしなさのせいで、聡子を危険な目に遭わせてしまったのだから。
「智幸さん」
「なんだ?」
「何度も謝ってますよ……やっぱり汚いからですか?」
「何言ってんだよ。汚くなんかねえよ。今度それ言ったら……」
「言ったら?」
 殴るぞと言いそうになったが、その言葉は間違いだと、飲み込んだ。
「言ったら……おまえは俺のもんだ、っ叫びながらあちこち走るからな」
「ふふ、じゃあ、言っちゃおうかな」
「バカ、恥ずかしくないのかよ」
「言われたいなぁって……ごめんなさい」
 彼女は小さく笑った。
「だって……智幸さんが謝る必要なんて全くないのに、ひどいことしたのはあの人なのに……なんで謝るのかわからなくて」
「俺のせいで怖い思いをさせたから……」
「智幸さんのせいじゃないですよ……」
 聡子をぎゅうっと抱きしめた。
「わたし、あの人に……いっぱい触られたんですよ。胸もおなかもおへそも、太股も、あそこも……気持ち悪い……智幸さんにしか触られたことないのに……あれを押し当てられて……口に入れられて……手で掻き回されて……」
 聡子は嗚咽をもらした。
(マジかよ)
 トモはさらに抱きしめる力を加えた。
(間に合ったと思ってたけど、あいつ、そんなところまで……! 許せねえ)
「噛みついたんですけどね」
 聡子の上体が露わになっていたことや、スカートをたくしあげられていたこと、広田が下半身をさらけ出していたこと、それを聡子の顔に押しつけていたところを総合して、彼女の発言は妄言ではないと改めて思い知らされた。
「嫌だったよな、そりゃ気持ち悪いよな? 好きでもねえ男に、そんなことされてよ……。でもおまえは汚くなんかねえよ。大事なものは、おまえは自分でちゃんと守りきったんだぞ? だから……俺が何度も上書きしてやるから。もう、言うな。思い出すかもしれない、その時は俺が上書きする」
「汚くない?」
「汚くなんかねえよ」
「ほんとに?」
「ああ」
「乱暴された女でもいい?」
「バカ、そんなこと言うな!」
 聡子の心が荒んでしまっている。
 聡子をかき抱き、トモは胸が苦しかった。
 散々好きでもない女を抱いて、自分の欲求を満たしてきたが、聡子は違う、特別だ。
 はじめは遊びのつもりで、利害一致したからというだけだったが、今では本気で惚れた女なのだ、どんなふうになっても聡子は自分の惚れた女なのだ。何があっても大事にする、そう決めた。
「だったら俺のほうが……きたねえ」
「どうして?」
「おまえと出会う前は、散々いろんな女と寝てきたからな」
「知っていますよ」
「……」
「でも、それは合意の上でしょう? 強姦でもなんでもないし、お互いの快楽のためで、わたしがどうこう言う権利はありません」
「もういい、何にも言うな」
 聡子の傷ついた頬を撫でる。
「俺のそばにいろよ」
「いてもいいんですか?」
「いいに決まってるだろ」
「……うん」
 聡子の頭を撫で、嗚咽をもらす彼女を宥めた。
 唇にキスを落とし、傷ついた頬、鼻、閉じた瞳、額……と順に唇で触れていく。
「智幸さん、好き」
「俺もおまえが好きだよ」
「よかった……嬉しいです」
 彼女はふにゃりと笑った。これは本当に嬉しい時の笑い方だとわかっている。
「わたしのこと、やっぱりイヤだって思ったら、嘘をつかないで早く言って下さいね」
「バカ、んなこと思うわけねえだろ」
 そんなこと言ってねえでもう休め、と彼女をベッドに横たわらせた。
「智幸さん……」
「ん?」
「今、上書きして」
「……今日は駄目だ。傷だらけの身体に負担がかかるだろ」
 そうですか、と聡子は目を伏せた。
「汚れてるからじゃない。今上書きしたら、俺は絶対汗だくにさせる自信がある。傷に染みるし、薬が取れるだろ?」
「……そうですね」
 聡子は頷いた。
「治ったら、おまえをめちゃくちゃ抱くからな。覚悟しとけよ」
「……はい」
 わざと乱暴に言った。
 彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃあ、わたしが眠るまで、手、握っててくれませんか」
 手を伸ばし、トモの手を掴もうとした。
 いいよ、とトモはその手を握った。
「嬉しいな」
(これくらいで喜ぶなんて……)
 本当は泊まっていってやりたい、会長との約束を破るわけにはいかなかった。事情を話せば間違いなく理解はしれくれる、しかし今夜は言いたくはなかった。
「智幸さん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
 ちゅ、とキスを落とすと、聡子は目を閉じた。
 寝息をたてるまで、トモは聡子のそばにいた。
 心配ではあったが、聡子が眠りについたのを確認し、そっと部屋を出ていった。

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