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【第2部】22.絶望
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***
しばらく横になったあと、二人は診療所を出た。
「ありがとうございました」
カズは聡子を送った。
「智幸さんがどうしてこんなわたしとつきあってくれているのか、時々不思議に思うんですよ……」
「え?」
「何の取り柄もなくて、智幸さんの好みのタイプでもないし、今まで特定の女の人とつきあったこともないっていう人が……なんでわたしを選んでくれたのかなって不思議で。こんな汚い身体になって……だからもう、何の価値もないなって……」
カズは蒼白になった。
トモの彼女は今どん底だ、そう感じた。
「それは絶対ないです! 彼女さんのことを何も知らない俺ですけど、トモさんのことは、尊敬してるから知ってます。トモさんは彼女さんのことを、汚いとか価値がないなんて絶対思わないですよ。トモさんはあんな見てくれですけど、組には関係のなかった俺のこともすごく可愛がってくれるし、あんまり笑うことないし、感情もよくわからない人だけど……。今日、俺に彼女さんを託す前、すっげー顔で彼女さんにキスしてたの見て……めちゃくちゃ好きなんだってのが伝わってきたし……そんな悲しいこと言わないでください」
俺は羨ましかったです、とカズは言った。
聡子のアパートの部屋にたどり着いた。
「市川さん、本当ににすみません、ありがとうございました」
「いや……何度も言いますけど、俺は何の助けもできなかったですから……。かけてあげる言葉も出ないくらいで……」
カズは聡子の顔色を伺うが、彼女がどういう感情なのか全くわからなかった。言葉からは、感謝が伝わってくるし、トモやカズへの正の感情も感じられる。がそれ以外の感情は、負の感情という一言しか感じられない。悲しみなのか怒りなのか……わからなかった。
「あの、お茶でも飲んでいかれませんか」
聡子が言うと、カズは首を激しく横に振った。
「トモさんの彼女さんちに上がり込むなんてできませんよ!」
ドアを閉めると、カズは逃げるように走った。
カズはすぐにトモに連絡をした。
「やっぱり一人にさせるのはまずいかもです……」
『何かあったか』
トモの声は強ばっている。
「いや……普段の彼女さんがどんな言動するのか知らないのでわからないですけど、やけに、『汚い身体になった』とか『自分はもう価値がない』とか、トモさんにふさわしくないって口走ってて……ちょっと……」
『……まさか、自殺とか……したりしねえよな……?』
「えっ」
恋人のあなたがなんてこと言うんですか、とカズは叱責した。
『悪い……』
カズは、
「俺、トモさんが帰ってくるまでここで彼女さんち張ってます……。もし出かけてったり、ベランダから身を投げたり……」
『おまえが物騒なこと言うなよ!』
「すみません!」
カズは聡子の部屋を見守ることを提案した。
『本当にすまない。仕込み、なるべく早く済ませる』
「大丈夫です。俺は仕事終わってますし、明日も休みですから」
『頼む』
***
聡子は部屋に入ると、すぐに風呂に入った。
広田に触れられた場所をごしごしと洗う。
擦りむくのじゃないかと思うほど、強く擦った。もう擦りむいているので、これ以上擦りむいてしまえば傷口が開いて痛むし、血が流れてしまう。もう、どうでもよかった。
(智幸さんの手の温もり、忘れてしまう……)
気持ち悪い気持ち悪い、と広田のことを払拭しようとしていた。
(早く智幸さんに抱きしめてもらいたい……)
体中をあの気持ち悪い手が這っていたことを思い出し、身震いをした。あの時は強がって抵抗したが、もしカズが見かけて疑問に思わなかったら、最後まで襲われていただろう。それでも、あと少し遅かったなら……。
目の前で、押しつけられそうになった広田のものが蘇り、吐き気がした。
聡子は浴室に蹲った。
しばらく横になったあと、二人は診療所を出た。
「ありがとうございました」
カズは聡子を送った。
「智幸さんがどうしてこんなわたしとつきあってくれているのか、時々不思議に思うんですよ……」
「え?」
「何の取り柄もなくて、智幸さんの好みのタイプでもないし、今まで特定の女の人とつきあったこともないっていう人が……なんでわたしを選んでくれたのかなって不思議で。こんな汚い身体になって……だからもう、何の価値もないなって……」
カズは蒼白になった。
トモの彼女は今どん底だ、そう感じた。
「それは絶対ないです! 彼女さんのことを何も知らない俺ですけど、トモさんのことは、尊敬してるから知ってます。トモさんは彼女さんのことを、汚いとか価値がないなんて絶対思わないですよ。トモさんはあんな見てくれですけど、組には関係のなかった俺のこともすごく可愛がってくれるし、あんまり笑うことないし、感情もよくわからない人だけど……。今日、俺に彼女さんを託す前、すっげー顔で彼女さんにキスしてたの見て……めちゃくちゃ好きなんだってのが伝わってきたし……そんな悲しいこと言わないでください」
俺は羨ましかったです、とカズは言った。
聡子のアパートの部屋にたどり着いた。
「市川さん、本当ににすみません、ありがとうございました」
「いや……何度も言いますけど、俺は何の助けもできなかったですから……。かけてあげる言葉も出ないくらいで……」
カズは聡子の顔色を伺うが、彼女がどういう感情なのか全くわからなかった。言葉からは、感謝が伝わってくるし、トモやカズへの正の感情も感じられる。がそれ以外の感情は、負の感情という一言しか感じられない。悲しみなのか怒りなのか……わからなかった。
「あの、お茶でも飲んでいかれませんか」
聡子が言うと、カズは首を激しく横に振った。
「トモさんの彼女さんちに上がり込むなんてできませんよ!」
ドアを閉めると、カズは逃げるように走った。
カズはすぐにトモに連絡をした。
「やっぱり一人にさせるのはまずいかもです……」
『何かあったか』
トモの声は強ばっている。
「いや……普段の彼女さんがどんな言動するのか知らないのでわからないですけど、やけに、『汚い身体になった』とか『自分はもう価値がない』とか、トモさんにふさわしくないって口走ってて……ちょっと……」
『……まさか、自殺とか……したりしねえよな……?』
「えっ」
恋人のあなたがなんてこと言うんですか、とカズは叱責した。
『悪い……』
カズは、
「俺、トモさんが帰ってくるまでここで彼女さんち張ってます……。もし出かけてったり、ベランダから身を投げたり……」
『おまえが物騒なこと言うなよ!』
「すみません!」
カズは聡子の部屋を見守ることを提案した。
『本当にすまない。仕込み、なるべく早く済ませる』
「大丈夫です。俺は仕事終わってますし、明日も休みですから」
『頼む』
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聡子は部屋に入ると、すぐに風呂に入った。
広田に触れられた場所をごしごしと洗う。
擦りむくのじゃないかと思うほど、強く擦った。もう擦りむいているので、これ以上擦りむいてしまえば傷口が開いて痛むし、血が流れてしまう。もう、どうでもよかった。
(智幸さんの手の温もり、忘れてしまう……)
気持ち悪い気持ち悪い、と広田のことを払拭しようとしていた。
(早く智幸さんに抱きしめてもらいたい……)
体中をあの気持ち悪い手が這っていたことを思い出し、身震いをした。あの時は強がって抵抗したが、もしカズが見かけて疑問に思わなかったら、最後まで襲われていただろう。それでも、あと少し遅かったなら……。
目の前で、押しつけられそうになった広田のものが蘇り、吐き気がした。
聡子は浴室に蹲った。
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