86 / 222
【第2部】20.恋敵
1
しおりを挟む
二人で歩いていると、またトモのかつての同僚に出くわした。何度か出くわしたことがあるが、そんなに出会うものなのだろうか、と不思議に思ったほどだ。
彼はその世界にいるときは目立つ存在だったのだろう。組でも腕っ節を買われたと聞いたこともあるし、顔が知られているのだろうか。夜歩けば、男でも女でも「久しぶりだな」と声をかけられることがあった。
(まあ、この界隈じゃ、ね……)
「よう、トモさん」
「おう」
二人の男性は、聡子をじろじろと不躾に見やった。
「ずいぶん好みが変わったんっすね?」
相変わらずトモさんはもてますねえ、とうらやましそうに言う。
「今度はどこの店の女なんっすか、オレたちにも紹介してくださいよ」
元舎弟仲間だったらしい男たちはひそひそとトモに言う。
「ちげーよ、俺の……連れだよ」
「連れ? どういう意味っすか?」
「俺の女、だよ。二度も言わすな」
聡子にも聞こえてきた。
トモの台詞に、元舎弟仲間たちが目を丸くさせて聡子を見た。
トモの背後でぺこりと会釈をする。
「ええっ、彼女ってことですか! いつできたんっすか」
「どこで知り合ったんすか! 上玉じゃん!」
「女とつきあうことはねえって言ってたのに……裏切り者っ」
聡子はいたたまれない気持ちになった。
まるで自分が、智幸にふさわしくないと言われているみたいだったからだ。
「わたしが隣にいるのがそんなに変なのかな……」
聡子のつぶやきを耳にしたトモは、二人の男に詰め寄った。
「おい……さっきから聞いてりゃ人の女を……。こいつは俺が本気で惚れた女だ、おまえらにつべこべ言われる筋合いねえぞ」
じゃあな行くぞ、とトモは聡子の腕を引きその場を去た。
聡子はトモの横顔を見上げ、慌ててついていった。
少し赤くなっているトモの顔に、聡子は嬉しくなる。
後ろを振り返ると、二人の男はぽかんをこちらを見ていた。
「悪かったな」
「大丈夫です」
「昔の俺のことは、おまえも知ってるだろうけど……」
「昔は昔、今は今ですから」
「……そっか」
ありがとな、とトモは聡子の頭を撫でた。
聡子はトモに頭を撫でられるのが好きだった。
***
聡子は、トモが女と腕を組んで歩いている所に出くわした。が、トモのほうは聡子に見られていることに気づいていない。
「ねぇえー、トモ、お願い」
「イ、ヤ、だ」
「なんでよ」
「俺はおまえとつきあう気はねえ」
どうやら女に交際を迫られているらしい。
トモが密かにモテるということはわかっていた。あんな強面で口は悪いが、優しいし、気っ風がいい。乱暴だが、女子供に手をあげることはしないし、裏表もない。
「じゃあどうしたらつきあってくれるの」
「そんな日は絶対に来ない」
「あたし、遊びじゃなくて本気だったのに。わかってたでしょ」
自分と同じだ、と聡子は思った。
「会うのやめるって言ったのはそっちだろ」
「だってトモ、あたしのことちゃんと見てくれないから」
女のほうはトモに気があるようだが、トモにはその気はないようだ。
(いつ頃の話だろう……)
自分と関係を持つようになってからは、ほかの女とはあまり遊ばなくなったと言っていた。ということは二年より前と思われた。だが、全くとは言っていないし、たくさん女はいたおうなので同時の可能性はある。
「悪い、俺、つきあってる女いるんだわ」
「えっ、嘘、誰ともつきあう気はないって言ってたよね?」
女は相当驚いている様子だ。
「あの頃はな。今は本気で惚れた女がいる」
「何それ。あたしがダメでどうしてその女がいいのよ! どんな女よ!」
と彼女がヒステリックに叫ぶ。
「おまえには関係ない」
「ひどい……」
「第一、おまえは広田とつきあってんじゃねえのかよ」
「広田? ああ……あいつ? あの男はあたしに惚れてるだけ。あたしは興味ナイわよ。勝手につきまとってきて迷惑してんだから」
「広田がかわいそうだな……」
もうおまえと会うこともない、と冷たく言い放つ。
ちゃんと言ってくれてよかった、と思う聡子だったが、次の女の台詞に耳を疑った。
「わかった。じゃあ……最後のお願いきいてよ」
「なんだよ」
彼女は、トモにとんでもない願い事をしたのだった。
しかもトモはそれを了承したのだ。
(嘘……!)
聡子はその場から去った。
彼はその世界にいるときは目立つ存在だったのだろう。組でも腕っ節を買われたと聞いたこともあるし、顔が知られているのだろうか。夜歩けば、男でも女でも「久しぶりだな」と声をかけられることがあった。
(まあ、この界隈じゃ、ね……)
「よう、トモさん」
「おう」
二人の男性は、聡子をじろじろと不躾に見やった。
「ずいぶん好みが変わったんっすね?」
相変わらずトモさんはもてますねえ、とうらやましそうに言う。
「今度はどこの店の女なんっすか、オレたちにも紹介してくださいよ」
元舎弟仲間だったらしい男たちはひそひそとトモに言う。
「ちげーよ、俺の……連れだよ」
「連れ? どういう意味っすか?」
「俺の女、だよ。二度も言わすな」
聡子にも聞こえてきた。
トモの台詞に、元舎弟仲間たちが目を丸くさせて聡子を見た。
トモの背後でぺこりと会釈をする。
「ええっ、彼女ってことですか! いつできたんっすか」
「どこで知り合ったんすか! 上玉じゃん!」
「女とつきあうことはねえって言ってたのに……裏切り者っ」
聡子はいたたまれない気持ちになった。
まるで自分が、智幸にふさわしくないと言われているみたいだったからだ。
「わたしが隣にいるのがそんなに変なのかな……」
聡子のつぶやきを耳にしたトモは、二人の男に詰め寄った。
「おい……さっきから聞いてりゃ人の女を……。こいつは俺が本気で惚れた女だ、おまえらにつべこべ言われる筋合いねえぞ」
じゃあな行くぞ、とトモは聡子の腕を引きその場を去た。
聡子はトモの横顔を見上げ、慌ててついていった。
少し赤くなっているトモの顔に、聡子は嬉しくなる。
後ろを振り返ると、二人の男はぽかんをこちらを見ていた。
「悪かったな」
「大丈夫です」
「昔の俺のことは、おまえも知ってるだろうけど……」
「昔は昔、今は今ですから」
「……そっか」
ありがとな、とトモは聡子の頭を撫でた。
聡子はトモに頭を撫でられるのが好きだった。
***
聡子は、トモが女と腕を組んで歩いている所に出くわした。が、トモのほうは聡子に見られていることに気づいていない。
「ねぇえー、トモ、お願い」
「イ、ヤ、だ」
「なんでよ」
「俺はおまえとつきあう気はねえ」
どうやら女に交際を迫られているらしい。
トモが密かにモテるということはわかっていた。あんな強面で口は悪いが、優しいし、気っ風がいい。乱暴だが、女子供に手をあげることはしないし、裏表もない。
「じゃあどうしたらつきあってくれるの」
「そんな日は絶対に来ない」
「あたし、遊びじゃなくて本気だったのに。わかってたでしょ」
自分と同じだ、と聡子は思った。
「会うのやめるって言ったのはそっちだろ」
「だってトモ、あたしのことちゃんと見てくれないから」
女のほうはトモに気があるようだが、トモにはその気はないようだ。
(いつ頃の話だろう……)
自分と関係を持つようになってからは、ほかの女とはあまり遊ばなくなったと言っていた。ということは二年より前と思われた。だが、全くとは言っていないし、たくさん女はいたおうなので同時の可能性はある。
「悪い、俺、つきあってる女いるんだわ」
「えっ、嘘、誰ともつきあう気はないって言ってたよね?」
女は相当驚いている様子だ。
「あの頃はな。今は本気で惚れた女がいる」
「何それ。あたしがダメでどうしてその女がいいのよ! どんな女よ!」
と彼女がヒステリックに叫ぶ。
「おまえには関係ない」
「ひどい……」
「第一、おまえは広田とつきあってんじゃねえのかよ」
「広田? ああ……あいつ? あの男はあたしに惚れてるだけ。あたしは興味ナイわよ。勝手につきまとってきて迷惑してんだから」
「広田がかわいそうだな……」
もうおまえと会うこともない、と冷たく言い放つ。
ちゃんと言ってくれてよかった、と思う聡子だったが、次の女の台詞に耳を疑った。
「わかった。じゃあ……最後のお願いきいてよ」
「なんだよ」
彼女は、トモにとんでもない願い事をしたのだった。
しかもトモはそれを了承したのだ。
(嘘……!)
聡子はその場から去った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女の子がいろいろされる話
ききょきょん
恋愛
女の子がいじめらたり、いじられたり色々される話です。
私の気分であげるので、性癖とか方向性はぐちゃぐちゃです、よろしくお願いします。
思いついたら載せてくゆるいやつです。。
エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
【R-18】なんちゃって官能小説
黒子猫
現代文学
女性の欲望から産み出される妄想を官能小説風に仕上げております。
「なんちゃって」ですので、あくまで『官能小説風』であることをご了承下さい。
一話完結物です(予定)
快楽のエチュード〜父娘〜
狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい……
父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。
月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。
こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる