83 / 222
【第2部】19.約束
1
しおりを挟む トモは意を決し、日曜日に有給を取った。
「聡子、次の日曜、休みもらったから……出かけるか」
「えっ!」
聡子は当然驚いた。
火曜日の夜のことだ。
二人で並んで寛いでいる時に、ふいにトモは言った。
「えっ、日曜……忙しい日じゃないですか、大丈夫なんですか」
「みんなにOKもらった」
だから出かけよう、とトモは笑った。
「みんな、いいよ、って。店長も、おまえは今まで自分の事情で休んだことないから休め、ってさ。ありがたいよな」
今日の仕事終わり、店長に相談をしたところ、一つ返事で承諾してもらえた。駄目だろうと思っていた。
「いいよ」
「本当ですか」
「別にいいよ。トモがいないと困るけどさ、まあ、なんとかなる。女房にも手伝ってもらうし。そのかわり、日曜の昼は人数の多い予約が入ってるし、夜も何件か予約入ってるから、土曜の夜はちょっと仕込みしときたいし、遅くなるけどいいか?」
「全然問題ないです!」
「彼女とデートだろ」
「えっ」
店長にはばれている。
「最近はよく働くし、どれくらい前からか忘れたけど、もっと働かせろって言ってきたもんな?」
確かに……聡子と付き合うようになってからは、以前よりもっと仕事に集中するようになった。初めはアルバイトで入って修行をし、料理人になった。聡子のいた店に通うようになってからは、触発されたのか思い出せないが、一人前になりたくて何でも率先してやったのだ。
「自分のために有給使ったことないしな。いいよ、全然。その代わり彼女と楽しんで来い」
「ありがとうございます」
聡子は嬉しそうにトモに飛びついた。
「どこに行きたい? どこでもいいぞ」
「じゃあお弁当作ってお出かけ、したいです」
「遊園地、行くか……?」
「いいんですか?」
「おう、まだ二人で行ったことねえし」
「お弁当、がんばりますね!」
やはり年相応の女の子だと思った。嬉しくてたまらない、と言ったふうに、弁当のおかずは何がいいかな、何作ろうかな、何が食べたいですか、とトモに話しかけてきた。
「そうだなあ、卵焼きは外せないよな」
「卵焼きですね」
もう思考は日曜日の遊園地に飛んで行ってしまっている。
目の前にいる自分のことはもう見えていないのだろうか。
遊園地に負けた気がして、聡子の口の端を抓った。
「うぎゃ」
「楽しみだな」
「もう、いきなり抓んないでくださいよ」
「俺のことほったらかしだなと思ってさ」
「あっ、ヤキモチですか?」
「うん」
「何にヤキモチ妬くんですか」
「遊園地と弁当」
妬く意味がわかりませんよ、と聡子は笑う。
「智幸さんと一緒に行くのに」
「もう日曜日に意識が飛んでってるからさ」
「……そうですね、ごめんなさい。嬉しすぎて」
怒ってますか、と聡子はキスをくれた。
「怒ってるわけないだろ」
トモは同じようにキスを返した。
「…………」
「…………」
二人は見つめ合い、また自然と唇が触れる。
求め合う合図のように、二人は互いの唇を貪った。
「聡子、次の日曜、休みもらったから……出かけるか」
「えっ!」
聡子は当然驚いた。
火曜日の夜のことだ。
二人で並んで寛いでいる時に、ふいにトモは言った。
「えっ、日曜……忙しい日じゃないですか、大丈夫なんですか」
「みんなにOKもらった」
だから出かけよう、とトモは笑った。
「みんな、いいよ、って。店長も、おまえは今まで自分の事情で休んだことないから休め、ってさ。ありがたいよな」
今日の仕事終わり、店長に相談をしたところ、一つ返事で承諾してもらえた。駄目だろうと思っていた。
「いいよ」
「本当ですか」
「別にいいよ。トモがいないと困るけどさ、まあ、なんとかなる。女房にも手伝ってもらうし。そのかわり、日曜の昼は人数の多い予約が入ってるし、夜も何件か予約入ってるから、土曜の夜はちょっと仕込みしときたいし、遅くなるけどいいか?」
「全然問題ないです!」
「彼女とデートだろ」
「えっ」
店長にはばれている。
「最近はよく働くし、どれくらい前からか忘れたけど、もっと働かせろって言ってきたもんな?」
確かに……聡子と付き合うようになってからは、以前よりもっと仕事に集中するようになった。初めはアルバイトで入って修行をし、料理人になった。聡子のいた店に通うようになってからは、触発されたのか思い出せないが、一人前になりたくて何でも率先してやったのだ。
「自分のために有給使ったことないしな。いいよ、全然。その代わり彼女と楽しんで来い」
「ありがとうございます」
聡子は嬉しそうにトモに飛びついた。
「どこに行きたい? どこでもいいぞ」
「じゃあお弁当作ってお出かけ、したいです」
「遊園地、行くか……?」
「いいんですか?」
「おう、まだ二人で行ったことねえし」
「お弁当、がんばりますね!」
やはり年相応の女の子だと思った。嬉しくてたまらない、と言ったふうに、弁当のおかずは何がいいかな、何作ろうかな、何が食べたいですか、とトモに話しかけてきた。
「そうだなあ、卵焼きは外せないよな」
「卵焼きですね」
もう思考は日曜日の遊園地に飛んで行ってしまっている。
目の前にいる自分のことはもう見えていないのだろうか。
遊園地に負けた気がして、聡子の口の端を抓った。
「うぎゃ」
「楽しみだな」
「もう、いきなり抓んないでくださいよ」
「俺のことほったらかしだなと思ってさ」
「あっ、ヤキモチですか?」
「うん」
「何にヤキモチ妬くんですか」
「遊園地と弁当」
妬く意味がわかりませんよ、と聡子は笑う。
「智幸さんと一緒に行くのに」
「もう日曜日に意識が飛んでってるからさ」
「……そうですね、ごめんなさい。嬉しすぎて」
怒ってますか、と聡子はキスをくれた。
「怒ってるわけないだろ」
トモは同じようにキスを返した。
「…………」
「…………」
二人は見つめ合い、また自然と唇が触れる。
求め合う合図のように、二人は互いの唇を貪った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる