79 / 222
【第2部】17.プレゼント
2
しおりを挟む
(よし、プレゼントは用意した。今日は……甘やかす、イチャイチャする)
カズのアドバイスを素直に受け、聡子のアパートに向かう。自分の勤める飲食店のケーキも購入した。聡子はチーズケーキが好きだというのは覚えていたので、それを選んだ。
オーナー兼店長の妻自作のケーキだ。パティシエールの彼女に、こっそり「チーズケーキを二つキープお願いします」と頼んでおいた。できれば他のバイトたちにはバレないようにしたかったからだ。バイトの男子学生たちは、恋愛ごとにうるさい。
今から行く、とメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
足早に向かい、ドアを開けてもらうと、すぐに部屋に上がった。
「智幸さん、お疲れ様です」
彼女はいつもそう声をかけて労ってくれる。
「聡子、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。嬉しいです。朝メッセージもいただいたのに」
「それはそれ、これはこれ。直接言いたいんだよ。これ、ケーキ買ってきた。夜遅いから、明日にでも」
買ってきたチーズケーキの入った箱を手渡す。彼女は受け取ると、
「智幸さんがいいなら、今から一緒にいただきませんか? せっかく準備してくれたんですし、今日いただかないと」
上目遣いでそう言った。
そのあざとい仕草に、どぎまぎする。
彼女がそんなあざとさのある仕草をするとは思わなかった。おそらく無意識だとは思ったが。
「お茶、入れますね」
「ああ。でもいいのか? 太るって言ってたし」
「今日は特別です。さあさあ、寒かったでしょう、暖まってくださいね」
「ありがと」
手をこすり合わせ、ローテーブルの前にいつものように座った。
トレーに、緑茶と皿に移し替えたチーズケーキを乗せて聡子が席に着いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それぞれの前に用意をすると、トモが改めて言う。
「改めて。誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
「ケーキだけでごめん」
「充分ですよ!」
いただきましょうか、と聡子の合図に二人は合掌し、ケーキを口に運んだ。
「んっ、美味しい!」
「美味いだろ!? 俺の働いてる店のケーキだ」
「そうなんですか! 濃厚で美味しいですっ」
「今度店に来いよ」
「是非!」
彼女は嬉しそうに食べている。
その顔を見て、トモも嬉しくなった。
好きな女と一緒に美味しいものを食べて、美味しいと言い合える。これも今までに経験をしたことのないことだ。そしてそれがささやかな幸せだということも。
買って良かった。
太るから後でいただきます、そう言われるかと思っていたのに。
「甘いもの食べても、罪悪感より幸福感のほうがおっきいですね」
「そうか、それなら、よかった」
こうしてみると、聡子は年相応の女の子なのだろうと思う。
自分よりも十も若い二十二歳だ。
なのに自分のほうが知らないことが多い。
一緒にいる彼女が教えてくれる。それも幸せだ。
……嬉しそうに食べる彼女が愛おしいかった。
ケーキを食べ終えると、他愛ない話をした。
二年前、一緒にファミレスでケーキを食べた話。でもその時は、ただのホステスと客だったなあという話。この二年の間にこんなふうに笑ってケーキを食べることになるなんて、と聡子は言う。
「特別になりたくてもなれませんでしたから」
「悪かったよ」
「どういう心境の変化だったんでしょうねえ」
「おまえを気に入った」
「身体が気に入ったんでしたよね」
「最初はな。俺がおまえに堕ちた、それだけだ」
ぶっきら棒に答えた。
「ふーん……」
にやにやと聡子は笑う。
信じているのかいないのか、疑うような、それでいて嬉しそうに笑っている。
「俺をおちょくったら、倍にして返してやっからな」
「おー怖い怖い」
全く怖くなさそうに言った。
「こいつっ」
手を伸ばすと、聡子は逃げるようにすっと立ち上がった。
「お皿、洗ってきますね」
悪戯っぽく笑った。トレーに食器を乗せようとする彼女の手を掴んだ。
「逃がさないぞ」
聡子の身体を抱き寄せる。
「掴まえた」
「……掴まっちゃっいました」
彼女はすぐに観念し、トモの腕の中で大人しくなる。
すぐ側に彼女の唇がある──触れないはずがない、触れずにはいられない。トモはそっとキスをした。彼女は目を閉じ、それを受け入れる。
啄むようなキスは次第に深くなってゆく。舌で口内を侵し、絡み合う。聡子がトモの身体を抱きしめるように腕を伸ばした。
傾きそうになる身体を起こし、トモは囁く。
「おまえは可愛い」
「……」
「あ、『おまえ』って言っちまった」
「ふふ」
笑う彼女を抱えて立ち上がり、ベッドに下ろした。
聡子に重なり、また唇に触れる。
もう何度も味わっているのに、柔らかい感触は変わらない。
布越しに胸を掴む。
直接触れたくて、彼女のスエットを脱がせた。下着も外して放り投げる。ふくよかな胸が現れ、夢中で貪った。
「んっ……」
「今日は、さ……」
「……今日は、……?」
蕩けた瞳で彼女が聞き返してきた。
「聡子のしてほしいこと、全部してやる」
「……もうしてもらいましたよ」
「もう?」
「お祝いしてもらって、ケーキまでごちそうになって、チュウまでしてもらっちゃいましたから」
幸せです、と笑った。
「駄目だ、もっと、もっと聡子を悦ばせたいんだよ」
「……うん」
どういうことか察したらしい聡子は、自ら身につけている残ったものを脱ぎ出した。それを見たトモも服を脱いだのだった。
カズのアドバイスを素直に受け、聡子のアパートに向かう。自分の勤める飲食店のケーキも購入した。聡子はチーズケーキが好きだというのは覚えていたので、それを選んだ。
オーナー兼店長の妻自作のケーキだ。パティシエールの彼女に、こっそり「チーズケーキを二つキープお願いします」と頼んでおいた。できれば他のバイトたちにはバレないようにしたかったからだ。バイトの男子学生たちは、恋愛ごとにうるさい。
今から行く、とメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
足早に向かい、ドアを開けてもらうと、すぐに部屋に上がった。
「智幸さん、お疲れ様です」
彼女はいつもそう声をかけて労ってくれる。
「聡子、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。嬉しいです。朝メッセージもいただいたのに」
「それはそれ、これはこれ。直接言いたいんだよ。これ、ケーキ買ってきた。夜遅いから、明日にでも」
買ってきたチーズケーキの入った箱を手渡す。彼女は受け取ると、
「智幸さんがいいなら、今から一緒にいただきませんか? せっかく準備してくれたんですし、今日いただかないと」
上目遣いでそう言った。
そのあざとい仕草に、どぎまぎする。
彼女がそんなあざとさのある仕草をするとは思わなかった。おそらく無意識だとは思ったが。
「お茶、入れますね」
「ああ。でもいいのか? 太るって言ってたし」
「今日は特別です。さあさあ、寒かったでしょう、暖まってくださいね」
「ありがと」
手をこすり合わせ、ローテーブルの前にいつものように座った。
トレーに、緑茶と皿に移し替えたチーズケーキを乗せて聡子が席に着いた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
それぞれの前に用意をすると、トモが改めて言う。
「改めて。誕生日、おめでとう」
「ありがとうございます」
「ケーキだけでごめん」
「充分ですよ!」
いただきましょうか、と聡子の合図に二人は合掌し、ケーキを口に運んだ。
「んっ、美味しい!」
「美味いだろ!? 俺の働いてる店のケーキだ」
「そうなんですか! 濃厚で美味しいですっ」
「今度店に来いよ」
「是非!」
彼女は嬉しそうに食べている。
その顔を見て、トモも嬉しくなった。
好きな女と一緒に美味しいものを食べて、美味しいと言い合える。これも今までに経験をしたことのないことだ。そしてそれがささやかな幸せだということも。
買って良かった。
太るから後でいただきます、そう言われるかと思っていたのに。
「甘いもの食べても、罪悪感より幸福感のほうがおっきいですね」
「そうか、それなら、よかった」
こうしてみると、聡子は年相応の女の子なのだろうと思う。
自分よりも十も若い二十二歳だ。
なのに自分のほうが知らないことが多い。
一緒にいる彼女が教えてくれる。それも幸せだ。
……嬉しそうに食べる彼女が愛おしいかった。
ケーキを食べ終えると、他愛ない話をした。
二年前、一緒にファミレスでケーキを食べた話。でもその時は、ただのホステスと客だったなあという話。この二年の間にこんなふうに笑ってケーキを食べることになるなんて、と聡子は言う。
「特別になりたくてもなれませんでしたから」
「悪かったよ」
「どういう心境の変化だったんでしょうねえ」
「おまえを気に入った」
「身体が気に入ったんでしたよね」
「最初はな。俺がおまえに堕ちた、それだけだ」
ぶっきら棒に答えた。
「ふーん……」
にやにやと聡子は笑う。
信じているのかいないのか、疑うような、それでいて嬉しそうに笑っている。
「俺をおちょくったら、倍にして返してやっからな」
「おー怖い怖い」
全く怖くなさそうに言った。
「こいつっ」
手を伸ばすと、聡子は逃げるようにすっと立ち上がった。
「お皿、洗ってきますね」
悪戯っぽく笑った。トレーに食器を乗せようとする彼女の手を掴んだ。
「逃がさないぞ」
聡子の身体を抱き寄せる。
「掴まえた」
「……掴まっちゃっいました」
彼女はすぐに観念し、トモの腕の中で大人しくなる。
すぐ側に彼女の唇がある──触れないはずがない、触れずにはいられない。トモはそっとキスをした。彼女は目を閉じ、それを受け入れる。
啄むようなキスは次第に深くなってゆく。舌で口内を侵し、絡み合う。聡子がトモの身体を抱きしめるように腕を伸ばした。
傾きそうになる身体を起こし、トモは囁く。
「おまえは可愛い」
「……」
「あ、『おまえ』って言っちまった」
「ふふ」
笑う彼女を抱えて立ち上がり、ベッドに下ろした。
聡子に重なり、また唇に触れる。
もう何度も味わっているのに、柔らかい感触は変わらない。
布越しに胸を掴む。
直接触れたくて、彼女のスエットを脱がせた。下着も外して放り投げる。ふくよかな胸が現れ、夢中で貪った。
「んっ……」
「今日は、さ……」
「……今日は、……?」
蕩けた瞳で彼女が聞き返してきた。
「聡子のしてほしいこと、全部してやる」
「……もうしてもらいましたよ」
「もう?」
「お祝いしてもらって、ケーキまでごちそうになって、チュウまでしてもらっちゃいましたから」
幸せです、と笑った。
「駄目だ、もっと、もっと聡子を悦ばせたいんだよ」
「……うん」
どういうことか察したらしい聡子は、自ら身につけている残ったものを脱ぎ出した。それを見たトモも服を脱いだのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです
冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
無表情いとこの隠れた欲望
春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。
小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。
緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。
それから雪哉の態度が変わり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる