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【第1部】14.条件
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「何だよ」
「わたしでいいんですか?」
トモはぽかんとした。
今更何を、と思ったが、彼女は真面目に訊いているようだ。
「ああ、おまえがいい」
真っ直ぐに目を見て答えた。
「ガキだし、トモさんの好きな胸は大きくないし、気が強いですよ」
「卑屈だな……。てかおまえはガキじゃねえし、乳も小さくねえし、気が強いのは俺の好みだ。気が強いのに泣き虫な所は特に気に入ってる」
「泣き虫じゃないですよ」
「いや、泣き虫だな」
なんだかんだ泣いて、その度に「泣いてません」と言っていた。その姿が結構気に入っているのだと気付いたトモだ。
「わかりました」
「よし、これで俺の女決定だ」
「まだです」
「まだあんのかよ」
「三ヶ月未満で飽きたら、早く言って下さい。契約はいつでも解除出来ます」
「契約なのかよ」
トモは嬉しそうに笑う。
「トモさんは、わたしでいいって言いますけど……わたしのことどう思ってるんですか」
「……あー……そうだな。抱きてえなって……」
「最っ低ですね……。そんなこと聞きたいんじゃないのに……」
二文字でいいのに、と聡子はそっぽを向く。
「どういう意味だ」
「わからないならいいです、別に」
「教えろよ」
「自分で考えて下さい」
「……」
「ただ『好き』って言われたいだけなのに」
ぶつぶつ、と呟く。
「……えっと……?」
「言ってくれないんですね。じゃあ、契約は無効」
「別にいいだろ。俺の女になったんだし、わかれよ」
「……そうですか、わかりました」
じゃあ撤回です、失礼します、と聡子は頭を下げた。
「うわああ、待ってくれ。言う、言うから。ちゃんと言うから」
聡子は立ち止まる。
彼女は会わない間に、なんだか気が強いを通り越して逞しくなっている気がした。
「……す」
「……」
「好、き、だ」
おまえのことが好きだ、とトモは口をとがらせた。
聡子はまた泣きそうな顔をしている。
「泣くなよ」
「なんか、すごく嬉しくて……」
「三十すぎたおっさんに何言わせんだよ」
「知りませんよ。年齢も知らないし」
しょうがねえなあ、と聡子の両肩に手を置くと、顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
自分なりの、本気のキスをしたつもりだ。
離れると、聡子は顔を真っ赤にしてトモを見上げている。
「なんだよ、砂糖そのまま口にぶちこまれたみてえだな、俺の方が甘いわ」
とトモは苦笑する。
「ドラマや小説みたいに甘くなんてない恋愛だけど」
と聡子は笑った。
聡子はトモに抱きつき、顔をうずめた。
そんな聡子を、トモはしっかり抱きしめた。
「あの、でもお試し期間中は、しませんからね」
「ん?」
聡子は身体を離し、トモを見上げた。
「その、そういうことはナシですよ」
「えっ、そういうことって、セックス?」
彼女は頷いた。
「マジで」
「はい」
「無理。おまえとセックスできないのかよ」
「だったら他の女性とすればいいんじゃないです?」
「いいのか?」
「したければどうぞ。でも、付き合うってことは、その相手じゃない人とすれば『浮気』になりますからね。お試しは即終了です」
トモは盛大に顔をしかめた。
目の前に惚れた女がいるのに、その女を三ヶ月も抱けないとは。
「今までどおりセフレでいいんじゃないですか。でもわたしはセフレはお断りですよ」
ぐぐぐ、と唇を噛みしめるトモだ。
「してもいいですけど」
「ほんとか!?」
「するなら、もうトモさんにも二度と会いません」
「…………」
試されている。
「三ヶ月もしなかったことなんてないぞ……」
(すれば二度と会ってもらえない。強引に会うっていう手段もある。……三ヶ月お試しの間は手を出せないけど、その後は付き合い続ければ、好きなだけ抱ける。……どっちを取るか)
トモは聡子を見下ろす。
(いや、でも試されてるんだ。別に目的はヤることはじゃない。ミヅキを好きだから、自分だけのものにしたいし、自分の近くにいてほしいと思ってる、それが大前提だ)
「お試し期間は一週間にしよう」
「三ヶ月で」
聡子は変更する気はないようだ。
「わかった、しない」
「本当に?」
「ああ、おまえに嫌われたくないからな。三ヶ月我慢する」
ぐっ、と息を飲んだ。聡子は疑うような視線を寄越したが、トモが息を飲むと、真剣な眼差しに変えた。
「あのさ、セックスはだめでも、キスはいいよな? さっき、しちまったんだけど……」
「そうですね、許します」
「よかった」
ふにゃり、とトモは安堵の笑みを浮かべた。
なんで女に気を遣わなきゃいけねえんだ、と少し前の自分なら思ったかもしれない。でも初めて女に対して必死になる自分がいる。
「はあ……必死な俺、なんか恥ずかし」
「恥ずかしくなんてないです」
「え?」
「嬉しいですよ」
照れくさそうに笑う聡子が、とても愛おしかった。
「わたしでいいんですか?」
トモはぽかんとした。
今更何を、と思ったが、彼女は真面目に訊いているようだ。
「ああ、おまえがいい」
真っ直ぐに目を見て答えた。
「ガキだし、トモさんの好きな胸は大きくないし、気が強いですよ」
「卑屈だな……。てかおまえはガキじゃねえし、乳も小さくねえし、気が強いのは俺の好みだ。気が強いのに泣き虫な所は特に気に入ってる」
「泣き虫じゃないですよ」
「いや、泣き虫だな」
なんだかんだ泣いて、その度に「泣いてません」と言っていた。その姿が結構気に入っているのだと気付いたトモだ。
「わかりました」
「よし、これで俺の女決定だ」
「まだです」
「まだあんのかよ」
「三ヶ月未満で飽きたら、早く言って下さい。契約はいつでも解除出来ます」
「契約なのかよ」
トモは嬉しそうに笑う。
「トモさんは、わたしでいいって言いますけど……わたしのことどう思ってるんですか」
「……あー……そうだな。抱きてえなって……」
「最っ低ですね……。そんなこと聞きたいんじゃないのに……」
二文字でいいのに、と聡子はそっぽを向く。
「どういう意味だ」
「わからないならいいです、別に」
「教えろよ」
「自分で考えて下さい」
「……」
「ただ『好き』って言われたいだけなのに」
ぶつぶつ、と呟く。
「……えっと……?」
「言ってくれないんですね。じゃあ、契約は無効」
「別にいいだろ。俺の女になったんだし、わかれよ」
「……そうですか、わかりました」
じゃあ撤回です、失礼します、と聡子は頭を下げた。
「うわああ、待ってくれ。言う、言うから。ちゃんと言うから」
聡子は立ち止まる。
彼女は会わない間に、なんだか気が強いを通り越して逞しくなっている気がした。
「……す」
「……」
「好、き、だ」
おまえのことが好きだ、とトモは口をとがらせた。
聡子はまた泣きそうな顔をしている。
「泣くなよ」
「なんか、すごく嬉しくて……」
「三十すぎたおっさんに何言わせんだよ」
「知りませんよ。年齢も知らないし」
しょうがねえなあ、と聡子の両肩に手を置くと、顔を近づけ、そっと唇を重ねた。
自分なりの、本気のキスをしたつもりだ。
離れると、聡子は顔を真っ赤にしてトモを見上げている。
「なんだよ、砂糖そのまま口にぶちこまれたみてえだな、俺の方が甘いわ」
とトモは苦笑する。
「ドラマや小説みたいに甘くなんてない恋愛だけど」
と聡子は笑った。
聡子はトモに抱きつき、顔をうずめた。
そんな聡子を、トモはしっかり抱きしめた。
「あの、でもお試し期間中は、しませんからね」
「ん?」
聡子は身体を離し、トモを見上げた。
「その、そういうことはナシですよ」
「えっ、そういうことって、セックス?」
彼女は頷いた。
「マジで」
「はい」
「無理。おまえとセックスできないのかよ」
「だったら他の女性とすればいいんじゃないです?」
「いいのか?」
「したければどうぞ。でも、付き合うってことは、その相手じゃない人とすれば『浮気』になりますからね。お試しは即終了です」
トモは盛大に顔をしかめた。
目の前に惚れた女がいるのに、その女を三ヶ月も抱けないとは。
「今までどおりセフレでいいんじゃないですか。でもわたしはセフレはお断りですよ」
ぐぐぐ、と唇を噛みしめるトモだ。
「してもいいですけど」
「ほんとか!?」
「するなら、もうトモさんにも二度と会いません」
「…………」
試されている。
「三ヶ月もしなかったことなんてないぞ……」
(すれば二度と会ってもらえない。強引に会うっていう手段もある。……三ヶ月お試しの間は手を出せないけど、その後は付き合い続ければ、好きなだけ抱ける。……どっちを取るか)
トモは聡子を見下ろす。
(いや、でも試されてるんだ。別に目的はヤることはじゃない。ミヅキを好きだから、自分だけのものにしたいし、自分の近くにいてほしいと思ってる、それが大前提だ)
「お試し期間は一週間にしよう」
「三ヶ月で」
聡子は変更する気はないようだ。
「わかった、しない」
「本当に?」
「ああ、おまえに嫌われたくないからな。三ヶ月我慢する」
ぐっ、と息を飲んだ。聡子は疑うような視線を寄越したが、トモが息を飲むと、真剣な眼差しに変えた。
「あのさ、セックスはだめでも、キスはいいよな? さっき、しちまったんだけど……」
「そうですね、許します」
「よかった」
ふにゃり、とトモは安堵の笑みを浮かべた。
なんで女に気を遣わなきゃいけねえんだ、と少し前の自分なら思ったかもしれない。でも初めて女に対して必死になる自分がいる。
「はあ……必死な俺、なんか恥ずかし」
「恥ずかしくなんてないです」
「え?」
「嬉しいですよ」
照れくさそうに笑う聡子が、とても愛おしかった。
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