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【第1部】14.条件
2
しおりを挟む「なんだよ」
「ちゃんと告白して下さい」
身体を離し、聡子を見下ろす。
「告白?」
「告白です」
「……ってどうやるんだ?」
聡子の顔が強ばる。
「言葉で伝えて欲しいってことです」
「俺の女になってくれ。これでいいか?」
初めてしたな、とトモは照れ笑いをする。が、聡子は笑わなかった。
「なんですかそれ、バカみたいじゃないですか。真面目にしてください」
「いや、真面目なつもりなんだけど……」
「やり直し!」
「えー……。俺と、つきあってくれよ」
「……ふざけてますか」
ぶっきらぼうに笑う聡子の瞳から涙がこぼれた。
「ふざけてない。精一杯だ」
泣きじゃくる聡子を抱き締めた。
「なんて言ったら満足なんだよ……」
「わたし、反社の人とは付き合いたくありません」
「ハンシャ?」
「ヤクザは嫌です」
何を言っているのだろう、とトモは抱きしめながら思った。
「誰がヤクザ」
「トモさんです」
「いや、違うけど」
「違うんですか?」
聡子が腕をすり抜け、見上げてきた。
「神崎組のヤクザって」
「いや……俺、そんなこと言ったことあったか? チンピラとは言ったことあったかもしれねえけど」
「え、でも、初めて会った時に……」
首を傾げ、昔の記憶を辿っている様子だ。
ファミレスで、金髪に水をかけられた時のことを言っているようだ。
「『神崎組』って言って、会長や若にも迷惑がかかるだろ、ってトモさんが窘めてたような記憶があるんですけど」
「あー……あいつか。あいつは、現役ヤクザだな。今は別の組の構成員になっちまったな」
「トモさんは?」
「確かに昔、神崎組にいたけど、今は解体した。会長が解体させたんだ。俺はあの時点では自称ヤクザじゃない。あいつもそうだったけど、悪さばっかで、神崎組って言えばビビると思ったんだろ」
「そうなんですか」
まだ釈然としない顔をしている。
「俺の口から『ヤクザ』なんて言ったことはないはずだ。会長が俺を堅気にしようとしてくれたんだからな。絶対に口にしないって約束した」
「……なんか混乱しています」
「納得しなきゃ付き合えないってんなら、納得するまで話すけど」
理解が追いつかないような顔をしている。
「なんか気になることがあるなら言えよ。答えられることは答えるぞ」
「じゃあ、あの……トモさんが怪我をした時に、二人組と殴り合いしましたよね? あれは? ヤクザの抗争じゃなかったってことですか?」
トモは目を見開かれ、口を真一文字に結んだ。
「……神崎会長の耳には入れるなよ」
「え、ええ、はい」
「あれは元組にいた奴と、そいつの今いる組の奴が相手だ。俺ともう一人を引き込もうとしてたが、断り続けた結果だ。堅気にするために動いてくれてた会長に申し訳がたたないからな」
「……でもトモさんも、連れの方も、引き込まれなかったんですよね?」
聡子は悲しそうな顔で見上げた。
「ああ。もう一人も、今も一緒だけど、真面目にやってる」
「そうですか」
「俺みたいに素行も悪くない」
「……自分で言うんですね」
ふふっ、と聡子は笑った。
「ほかには?」
「えっと……えーっと……」
訊きたいことはたくさんあるけど、と彼女は眉を顰める。
「ありすぎて今言えって言われてもわからないので、随時若しくは都度、質問してもよろしいでしょうか?」
ビジネス的な言い方にトモは吹き出した。
「ああ、いいよ。答えられることは随時若しくは都度、お答えしますよ」
「はい、お願いします」
「ん? てことは、俺の女になるってことか?」
トモの目が輝いた。
「はい、もういいです」
「俺の女になるのか!?」
聡子は、観念したように頷いた。
「よっしゃ!」
喜ぶトモに、聡子は衝撃の提案をした。
「でも、期間限定、お試しで一ヶ月」
「は? お試し?」
全部を信じたわけじゃないです、と聡子は言う。
「お試し交際です」
「なっ……」
「本気だって言うなら、更新したらいいだけです」
「じゃあ一年」
「長い、二ヶ月で」
「十一ヶ月」
「長過ぎです」
トモは長く、聡子は短く設定を希望する。
「なら半年」
「まだ長いです」
「三ヶ月」
「はい、三ヶ月ですね。もう譲れません」
トモはしびれをきらしたように、わかったよ、と頷いた。
お試しで三ヶ月、聡子の恋人になる。
世間の恋人はどんなふうに始めるのだろうか。期間を設けるのだろうか。
(そんなわけないか)
「最初に言っとくけど、なんとかランドとかなんとかパークとか、そう言うところには連れてってやれねえぞ」
「そちらが頼んで来ておきながら、高慢なこと言うんですね」
「……悪いな」
「……別に。今更だと思いますから」
ふくれっ面で聡子は言う。
「もうー、ほんと相変わらず気ぃつえぇな……まあ、そこも気に入ったんだけど」
聡子は気の強さを全面に出してくる。自分の感情を押し殺すように、わざと気が強い性格を出しているようにも見えた。
「あのさ……クリスマスイブだとか、バレンタインだとか、そういうイベント、俺は無頓着だぞ」
「三ヶ月の間にそれはないから大丈夫です」
「今日が九月十日だから、ギリギリないけどさ……十二月十日までか」
期待してません、とつんけんした口調だ。
(十二月まではないか……。けど、聡子の誕生日、十二月だったよな……何日だったっけな)
イベント事には無頓着でも、聡子の誕生日は祝いたい。三ヶ月を更新すればいいのだ、と理解し、聡子に向き直る。
「あんまり一緒にいられない。それでもいいか?」
「……はあ」
「日中は働いてるけど、飲食店だから、たぶんおまえとは休みが合わない。月曜が休みだから。けど会長たちとの付き合いがあることも多い。正直休みなんてねえに等しい。おまえに会えるのは実質夜だけだ。今のこの時間帯くらいだ」
「……俺の女になってくれって頼まれてるほうはこっちなのに」
少し不服そうな様子で、口を尖らせ頬を膨らませている。
「悪い……けど、最初に言っとかないと、と思って」
トモは、正直に伝えた。
一度は断られた。
強引に、三ヶ月だけ付き合うという約束を取り付けだけだ。
「じゃあ、むしろわたしからもいいですか」
「ちゃんと告白して下さい」
身体を離し、聡子を見下ろす。
「告白?」
「告白です」
「……ってどうやるんだ?」
聡子の顔が強ばる。
「言葉で伝えて欲しいってことです」
「俺の女になってくれ。これでいいか?」
初めてしたな、とトモは照れ笑いをする。が、聡子は笑わなかった。
「なんですかそれ、バカみたいじゃないですか。真面目にしてください」
「いや、真面目なつもりなんだけど……」
「やり直し!」
「えー……。俺と、つきあってくれよ」
「……ふざけてますか」
ぶっきらぼうに笑う聡子の瞳から涙がこぼれた。
「ふざけてない。精一杯だ」
泣きじゃくる聡子を抱き締めた。
「なんて言ったら満足なんだよ……」
「わたし、反社の人とは付き合いたくありません」
「ハンシャ?」
「ヤクザは嫌です」
何を言っているのだろう、とトモは抱きしめながら思った。
「誰がヤクザ」
「トモさんです」
「いや、違うけど」
「違うんですか?」
聡子が腕をすり抜け、見上げてきた。
「神崎組のヤクザって」
「いや……俺、そんなこと言ったことあったか? チンピラとは言ったことあったかもしれねえけど」
「え、でも、初めて会った時に……」
首を傾げ、昔の記憶を辿っている様子だ。
ファミレスで、金髪に水をかけられた時のことを言っているようだ。
「『神崎組』って言って、会長や若にも迷惑がかかるだろ、ってトモさんが窘めてたような記憶があるんですけど」
「あー……あいつか。あいつは、現役ヤクザだな。今は別の組の構成員になっちまったな」
「トモさんは?」
「確かに昔、神崎組にいたけど、今は解体した。会長が解体させたんだ。俺はあの時点では自称ヤクザじゃない。あいつもそうだったけど、悪さばっかで、神崎組って言えばビビると思ったんだろ」
「そうなんですか」
まだ釈然としない顔をしている。
「俺の口から『ヤクザ』なんて言ったことはないはずだ。会長が俺を堅気にしようとしてくれたんだからな。絶対に口にしないって約束した」
「……なんか混乱しています」
「納得しなきゃ付き合えないってんなら、納得するまで話すけど」
理解が追いつかないような顔をしている。
「なんか気になることがあるなら言えよ。答えられることは答えるぞ」
「じゃあ、あの……トモさんが怪我をした時に、二人組と殴り合いしましたよね? あれは? ヤクザの抗争じゃなかったってことですか?」
トモは目を見開かれ、口を真一文字に結んだ。
「……神崎会長の耳には入れるなよ」
「え、ええ、はい」
「あれは元組にいた奴と、そいつの今いる組の奴が相手だ。俺ともう一人を引き込もうとしてたが、断り続けた結果だ。堅気にするために動いてくれてた会長に申し訳がたたないからな」
「……でもトモさんも、連れの方も、引き込まれなかったんですよね?」
聡子は悲しそうな顔で見上げた。
「ああ。もう一人も、今も一緒だけど、真面目にやってる」
「そうですか」
「俺みたいに素行も悪くない」
「……自分で言うんですね」
ふふっ、と聡子は笑った。
「ほかには?」
「えっと……えーっと……」
訊きたいことはたくさんあるけど、と彼女は眉を顰める。
「ありすぎて今言えって言われてもわからないので、随時若しくは都度、質問してもよろしいでしょうか?」
ビジネス的な言い方にトモは吹き出した。
「ああ、いいよ。答えられることは随時若しくは都度、お答えしますよ」
「はい、お願いします」
「ん? てことは、俺の女になるってことか?」
トモの目が輝いた。
「はい、もういいです」
「俺の女になるのか!?」
聡子は、観念したように頷いた。
「よっしゃ!」
喜ぶトモに、聡子は衝撃の提案をした。
「でも、期間限定、お試しで一ヶ月」
「は? お試し?」
全部を信じたわけじゃないです、と聡子は言う。
「お試し交際です」
「なっ……」
「本気だって言うなら、更新したらいいだけです」
「じゃあ一年」
「長い、二ヶ月で」
「十一ヶ月」
「長過ぎです」
トモは長く、聡子は短く設定を希望する。
「なら半年」
「まだ長いです」
「三ヶ月」
「はい、三ヶ月ですね。もう譲れません」
トモはしびれをきらしたように、わかったよ、と頷いた。
お試しで三ヶ月、聡子の恋人になる。
世間の恋人はどんなふうに始めるのだろうか。期間を設けるのだろうか。
(そんなわけないか)
「最初に言っとくけど、なんとかランドとかなんとかパークとか、そう言うところには連れてってやれねえぞ」
「そちらが頼んで来ておきながら、高慢なこと言うんですね」
「……悪いな」
「……別に。今更だと思いますから」
ふくれっ面で聡子は言う。
「もうー、ほんと相変わらず気ぃつえぇな……まあ、そこも気に入ったんだけど」
聡子は気の強さを全面に出してくる。自分の感情を押し殺すように、わざと気が強い性格を出しているようにも見えた。
「あのさ……クリスマスイブだとか、バレンタインだとか、そういうイベント、俺は無頓着だぞ」
「三ヶ月の間にそれはないから大丈夫です」
「今日が九月十日だから、ギリギリないけどさ……十二月十日までか」
期待してません、とつんけんした口調だ。
(十二月まではないか……。けど、聡子の誕生日、十二月だったよな……何日だったっけな)
イベント事には無頓着でも、聡子の誕生日は祝いたい。三ヶ月を更新すればいいのだ、と理解し、聡子に向き直る。
「あんまり一緒にいられない。それでもいいか?」
「……はあ」
「日中は働いてるけど、飲食店だから、たぶんおまえとは休みが合わない。月曜が休みだから。けど会長たちとの付き合いがあることも多い。正直休みなんてねえに等しい。おまえに会えるのは実質夜だけだ。今のこの時間帯くらいだ」
「……俺の女になってくれって頼まれてるほうはこっちなのに」
少し不服そうな様子で、口を尖らせ頬を膨らませている。
「悪い……けど、最初に言っとかないと、と思って」
トモは、正直に伝えた。
一度は断られた。
強引に、三ヶ月だけ付き合うという約束を取り付けだけだ。
「じゃあ、むしろわたしからもいいですか」
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