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【第1部】7.誘惑
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意識を取り戻した時には、トモは行為を終わらせていたようだ。落ち着く間もなく、もう一回だ、と彼に下半身を占領された。
二度目は意識を手放すことはなく、快感や快楽はないが、痛みもかなり和らいでいた。
トモが終わりを迎える瞬間の吐息を耳にして、その艶のある声に胸がドキドキしてしまった。
(これが男の人の……最高潮の瞬間なんだ……)
「痛むか」
聡子の身体から退いた彼は、髪をかき上げた。
「だ、大丈夫……です」
「泣くほど痛かったんだろ」
「そういうわけでは……」
どうして涙が出たのか、よくわからない。勝手に出たのだ。痛いのは痛い、でも痛くて泣いたのだろうか、本当のところはよくわからないままだった。
起き上がろうとしたが、下半身がだるくて思うように動けない。トモは聡子の隣に寝転び、聡子を自分の腕に寝かせてくれた。
「おまえさ……こんなことされても俺の女になりてえか」
彼は言った。
トモの台詞を脳内で繰り返し、咀嚼した。
(俺の女、ってことは……)
「な、なりたいです」
彼女、特別な存在。
そういうことならもちろんなりたい、と返事をしてしまう。
「……クズみたいな男でもか」
「はい」
「おまえは俺の何を知ってんだよ」
「…………」
(だって教えてくれないじゃない……知りたくても訊けないんだもん……)
胸の内を口にするこはなかった。
「俺と一緒にいると幸せにはなれない。特定の相手や家族がいると、悲しませることになるだけだ。だから俺は女に惚れないし、惚れることもない」
(「俺の女」って、恋人にじゃあなくて遊び相手? セフレっていう存在ってこと……?)
「ほかの女にもそう言ってる。だから割り切った関係しかない」
「だったら……特定の相手じゃなくていいです。たくさんいる遊びの相手の一人でいいです。トモさんが飽きたら飽きたでいい……遊ぶ相手がいない日に、利用してくれたらいいです……」
「おまえを都合よく使うってことだぞ」
「それでいいです」
自分で「何言ってるんだろう」と思うが、口をついて出てきた言葉はそれだった。
「で。いくらいるんだ?」
「へ?」
いくら、とは。
考えることを放棄しかけた脳を働かせ、意味を考える。
「一度寝て、いくらほしい? 金が要るんだろ」
売春のつもりで言っているのだろうか。
「い、要りません!」
身体を起こし、トモを見下ろした。ズキッと痛んだが、それどころではない。
「お金のためじゃありません! お金なんて……。トモさんは、ほかの人にもお金払ってるんですか」
「いや?」
「わたしも! お金のためにトモさんとしたわけじゃありません! わたしは……わたしはトモさんのことが好」
「ストップ」
言うな、とトモに遮られた。
「その先はこれからは絶対に言うな」
「……すみません」
いい、と彼は小さく笑う。
「お金のために付いてきたわけじゃありません。これからも、それはないです」
これからも、と言ったあと、自分が彼の遊び相手になる気満々であることを認めてしまっていることに恥ずかしくなった。
「まあ今日は、あの時の約束を果たしてもらったってことにするから」
「あの時の約束……」
トモの怪我の代償、ということだ。
(そんなのなくたって……)
自分の意思なのに。
「後悔したか?」
「するわけないじゃないですか」
「どこまでも気が強い女だな。嫌いじゃない」
トモは手を伸ばし、聡子の胸の尖端を抓った。
「痛っ」
「気に入ったから、これからもおまえを抱くつもりだ。いいのか?」
「もちろんです」
「遊びだぞ。ヤりたいだけだ」
「はい。トモさんを練習相手にしますから」
「練習相手? あ-、セックスのか」
「セ……」
「セックス」
「そ、そんな言葉……」
「なんだよ」
「もっと言い方あるじゃないですか」
「例えば?」
「せ……性交渉、とか」
「俺と性交渉しよう、って誘うのかよ。言えるか」
トモは困ったように笑った。
「だって、そんな言葉……」
「恥ずかしいのか?」
「…………」
「まあいいわ。俺とおまえがセックスするのは、利害一致したからってことだ」
「そ、そうです。利害一致ですよね」
「そうだな」
今度は聡子の腰を抓り、のけぞらせた。
「何するんですか」
「おもしれえなと思って」
「もう! 痛いのに!」
さっきまで泣いていたのに、もう笑っている自分が不思議だった。喪失感があったのに、もう次の交渉まで約束しているようなものだ。
「この先、おまえに男が出来たり、都合が悪くなればいつでも関係を切れ」
「……わかりました。じゃあ、トモさんも飽きたり、もう価値がないと思ったらさっさと切ってください」
「価値がないなんてことはねえよ」
「わかんないですよ?」
「……わかったよ」
じゃあ連絡先交換できるか、とトモはスマホを出した。
(え……)
メッセージアプリを開き、ID交換をする。聡子の名称は「さとこ」と平仮名になっている。
「さとこ、って言うのか」
「そうです。トモさんは『トモ』なんですね」
「ああ。……けど、ややこしいから、おまえのことは『ミヅキ』のままでいいか?」
「えっ? はい、いいですよ」
店の名前ということは、やはりプライベートまで及ぶ関係にはなる気はないということのようだ。
(いいけど……)
「俺が店に行かない日に呼び出してもいいのか?」
「別にいいですけど……。週の前半は日中の仕事で遅くなることもありますし、だいたい木曜から日曜はバーに出勤する日なのでこの日ならだいたい動けます」
「わかった」
トモは何かしら考えているようだ。月曜は誰、火曜日は誰、というふうにスケジュールを練るつもりなのかもしれない。
(毎日誰かとしてるのかな……)
「シャワー浴びて帰るか」
トモの言葉に、聡子は頷いた。
二度目は意識を手放すことはなく、快感や快楽はないが、痛みもかなり和らいでいた。
トモが終わりを迎える瞬間の吐息を耳にして、その艶のある声に胸がドキドキしてしまった。
(これが男の人の……最高潮の瞬間なんだ……)
「痛むか」
聡子の身体から退いた彼は、髪をかき上げた。
「だ、大丈夫……です」
「泣くほど痛かったんだろ」
「そういうわけでは……」
どうして涙が出たのか、よくわからない。勝手に出たのだ。痛いのは痛い、でも痛くて泣いたのだろうか、本当のところはよくわからないままだった。
起き上がろうとしたが、下半身がだるくて思うように動けない。トモは聡子の隣に寝転び、聡子を自分の腕に寝かせてくれた。
「おまえさ……こんなことされても俺の女になりてえか」
彼は言った。
トモの台詞を脳内で繰り返し、咀嚼した。
(俺の女、ってことは……)
「な、なりたいです」
彼女、特別な存在。
そういうことならもちろんなりたい、と返事をしてしまう。
「……クズみたいな男でもか」
「はい」
「おまえは俺の何を知ってんだよ」
「…………」
(だって教えてくれないじゃない……知りたくても訊けないんだもん……)
胸の内を口にするこはなかった。
「俺と一緒にいると幸せにはなれない。特定の相手や家族がいると、悲しませることになるだけだ。だから俺は女に惚れないし、惚れることもない」
(「俺の女」って、恋人にじゃあなくて遊び相手? セフレっていう存在ってこと……?)
「ほかの女にもそう言ってる。だから割り切った関係しかない」
「だったら……特定の相手じゃなくていいです。たくさんいる遊びの相手の一人でいいです。トモさんが飽きたら飽きたでいい……遊ぶ相手がいない日に、利用してくれたらいいです……」
「おまえを都合よく使うってことだぞ」
「それでいいです」
自分で「何言ってるんだろう」と思うが、口をついて出てきた言葉はそれだった。
「で。いくらいるんだ?」
「へ?」
いくら、とは。
考えることを放棄しかけた脳を働かせ、意味を考える。
「一度寝て、いくらほしい? 金が要るんだろ」
売春のつもりで言っているのだろうか。
「い、要りません!」
身体を起こし、トモを見下ろした。ズキッと痛んだが、それどころではない。
「お金のためじゃありません! お金なんて……。トモさんは、ほかの人にもお金払ってるんですか」
「いや?」
「わたしも! お金のためにトモさんとしたわけじゃありません! わたしは……わたしはトモさんのことが好」
「ストップ」
言うな、とトモに遮られた。
「その先はこれからは絶対に言うな」
「……すみません」
いい、と彼は小さく笑う。
「お金のために付いてきたわけじゃありません。これからも、それはないです」
これからも、と言ったあと、自分が彼の遊び相手になる気満々であることを認めてしまっていることに恥ずかしくなった。
「まあ今日は、あの時の約束を果たしてもらったってことにするから」
「あの時の約束……」
トモの怪我の代償、ということだ。
(そんなのなくたって……)
自分の意思なのに。
「後悔したか?」
「するわけないじゃないですか」
「どこまでも気が強い女だな。嫌いじゃない」
トモは手を伸ばし、聡子の胸の尖端を抓った。
「痛っ」
「気に入ったから、これからもおまえを抱くつもりだ。いいのか?」
「もちろんです」
「遊びだぞ。ヤりたいだけだ」
「はい。トモさんを練習相手にしますから」
「練習相手? あ-、セックスのか」
「セ……」
「セックス」
「そ、そんな言葉……」
「なんだよ」
「もっと言い方あるじゃないですか」
「例えば?」
「せ……性交渉、とか」
「俺と性交渉しよう、って誘うのかよ。言えるか」
トモは困ったように笑った。
「だって、そんな言葉……」
「恥ずかしいのか?」
「…………」
「まあいいわ。俺とおまえがセックスするのは、利害一致したからってことだ」
「そ、そうです。利害一致ですよね」
「そうだな」
今度は聡子の腰を抓り、のけぞらせた。
「何するんですか」
「おもしれえなと思って」
「もう! 痛いのに!」
さっきまで泣いていたのに、もう笑っている自分が不思議だった。喪失感があったのに、もう次の交渉まで約束しているようなものだ。
「この先、おまえに男が出来たり、都合が悪くなればいつでも関係を切れ」
「……わかりました。じゃあ、トモさんも飽きたり、もう価値がないと思ったらさっさと切ってください」
「価値がないなんてことはねえよ」
「わかんないですよ?」
「……わかったよ」
じゃあ連絡先交換できるか、とトモはスマホを出した。
(え……)
メッセージアプリを開き、ID交換をする。聡子の名称は「さとこ」と平仮名になっている。
「さとこ、って言うのか」
「そうです。トモさんは『トモ』なんですね」
「ああ。……けど、ややこしいから、おまえのことは『ミヅキ』のままでいいか?」
「えっ? はい、いいですよ」
店の名前ということは、やはりプライベートまで及ぶ関係にはなる気はないということのようだ。
(いいけど……)
「俺が店に行かない日に呼び出してもいいのか?」
「別にいいですけど……。週の前半は日中の仕事で遅くなることもありますし、だいたい木曜から日曜はバーに出勤する日なのでこの日ならだいたい動けます」
「わかった」
トモは何かしら考えているようだ。月曜は誰、火曜日は誰、というふうにスケジュールを練るつもりなのかもしれない。
(毎日誰かとしてるのかな……)
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